第11部:霧散-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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事件が記事になって一ヵ月が過ぎた。
学校に行かないのもそろそろまずいと考えて、カズヤは悩んでいた。
アキラが一緒に行ってくれれば行くのだが、実際アキラは『須藤日向』という架空の人物で転入してきた手前、カズヤと同じ学校の生徒ではない。『桂小路 晃』は隣の公立中学の休みがちな転校生なのだ。
塾に行くなり、アキラに教わるなりすれば、学校に行かなくても受験できるだけのものは身に付くのだが、やはり出席日数というものはどうにもならない。
聞けば《反日教》のメンバーも、学校に行き始めようとしていることだったし、そういうことで重い腰を上げたのだった。
学校には行かなくても、アキラの家には毎日遊びに行って、勉強はしていた。
「ねぇ、アキラ。明日の模試受けるのヮ?」
「行かない。どうせトップ取れるし、意味がない。どうして連れ立って試験会場だよ」
アキラの返事はつれないものだ。
「できる人はよござんすねぇ」
カズヤは皮肉で返すが「やればできるだろう」と三倍返しをくらってぐうの音も出ない。
「お前、オレと一緒の学校に行くつもりなんだろ。だったら必死こいてみろよ」
そう餌をちらつかせられて、頑張らないわけにいかない。
「悪いが、仕事でオレは出かけるし」
仕事と言われたら、一人で会場に行くしかない。
公開模試の受験票を受け取りに、カズヤは嫌な学校に登校をしなくてはならなかった。
アキラも受験してくれるなら、その嫌な気分も紛れると思ったのだが、そう思い通りにはならない。
実はアキラはテルヒに呼び出され、彼女の元に面会に行っていた。
「よう、どういう風の吹き回しだ?」
日向がアキラだったということを、実は未だテルヒは知らないのだと奈槻から聞かされていたアキラは、日向の格好で面会に行った。
「別に。ただ、完敗を認めようと思ってね。
すっぴんのテルヒは、不敵な笑みで迎えた。
「悔しいけど、あたしらはピーチとあんたらの両方に、完全に利用されてたってわけね」
「そういうわけだねぇ」
慰めの言葉は無意味だからかけない。
「負け惜しみじゃないけど、あたしは何も目的なく、こんなことをしてたわけじゃないのよ。それをあの女に伝えてもらいたくて、あんたを呼び出したのよ。
何しろかすみちゃんは可哀相なことしたし、そうすると不愉快なあんたしかいないのよ」
「ま、な。あの女って、桂小路 晃だろ」
「ええ、そうよ」
テルヒは、目の前に本人がいるとは知らずに語りだした。
「あんたは解らないかもしれないけど、あの女なら理解するかもしれないわ。あんたは口を挟まないで聞いてくれればいいから」
「はいはい。解ったから始めてくれ」
ガラス越しだが、二人は改めて向き合った。
「あたしには兄がいて、その兄は仕事である人物と対立してるの。そしてその相手を捜させる為、兄はあたしを今の両親の許に置き去りにした。あたしはね、その名前も顔も知らない相手を見付けなければならなかったの。
手がかりと言えば、兄が付けてくれたこの晃陽という名、そして兄があたしをここに置いたこと。その相手が女で、異常に頭が良いということくらい。
でも、どうして捜したらいいか見当つく?
考えたわ。兄と対立しているということは、兄のいる世界に足を踏み入れれば、相手を見付けられるんじゃないかってね。でもその兄のいる世界がどんなんだか、あたしは知らなかったのよ。
蛇の道は蛇ってね、表沙汰にできない人捜しは裏に頼むしかない。そしてそのまま裏稼業に足を染め、多分と思う女を見付けた。
実際のところ、本当のことは判らないわよ。でも桂小路 晃が、兄と対立する女だと思い込んだのよ。
日向の眉がぴくりと動いたことなど、ふてぶてしく顔を背けているテルヒが気付くわけがない。
「あたしはそのことを知らせたくても、兄の居場所が判らない。それならば、あたしがアキラを倒してしまえば、きっと兄はあたしのことを喜んで迎えにきてくれる。そう思って、あたしはアキラと対立する道を選んだわ。いえ、選ぶ前に悪い道に染まってたわね」
表情が動いたのは一瞬だけで、アキラはテルヒの話を顔色一つ変えず、日向として聞いていた。
「名前は?お前の兄貴の名前は?」
「冗談じゃない。それを言えば、兄の身が逆に危なくなるわ」
「そんなもんか」
「あんたは黙って伝えてくれればいいの」
テルヒは日向を黙らせた。
「あたしだって、物事の善悪は解ってるわよ。
あたしのしてきたことは、はっきり悪いことだって言えるわ。でも、それ以上にアキラを倒したかった。その為なら、あたしは何をしても気にならなかったわ。
とはいえ、かすみちゃんには気の毒だったと思ってる。ピーチの異常な嗜好は知ってたけど、幼稚園児くらいの年令で犠牲になってたって聞いて、正直ピーチとつるんでいた自分を恥じたもの。
そのかすみちゃんに免じて、アキラに伝言して。あたしは何としてでも兄を見付けだし、アキラの名前を兄に伝えるわ。いつになるかは判らないけど、せいぜい気を付けなさいってね」
「そう言えば解るのか?」
「あいつが兄の敵ならば、きっと解るはずよ」
テルヒはふっと見たことない穏やかな笑みを浮かべた。
「用は済んだわ。かすみちゃんに、あたしの代わりにお線香を上げてきてね」
「解った。もう、帰るぞ」
日向はテルヒに背を向けた。
次回、『霧の円舞』編 最終回となります。
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