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第11部:霧散-3

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 情けない校長の一言に、信吾は怒り心頭だ。

「あたくしがさっきから言っているでしょ。《日向四天王》のことは、問題の一つでしかないの。

 根本的な問題は、気付いていながら対処をおこたった学校に責任があるってことなのよ。未だ、ことの重大性に気付いてないようですわね、校長先生。

 今日、体育教師のピーチが来ていないの、みんな知ってると思うけど、その理由が一番の原因、《日向四天王》を含めたこの事件の大元おおもとなのよ!」

 校長の顔色が、さっと変わった。


「あら、その顔つきじゃ、やっぱり先生はご存じですわね。そりゃ、そうでしょう。ここにいる日下くさかさんが説明していますものね。

 ここで、ずっと昔の話をしましょうか。超個人的なことだけど、飽きずに最後まで聞いてね、みんな」

 信吾は校長からマイクを奪い返した。

「カズヤくんも、こっちに来てね」

 心配そうに袖から見ていたカズヤを、信吾は横に呼び寄せた。こうして壇上には、信吾、日向、カズヤ、奈槻という役者が揃った。


「あたしには両親がいないのは、まあ有名な話ね。一度はある夫婦に里親に出されたんだけど、その夫婦というのがろくでなしでね、あたしのことを、こういう言葉遣いで仕草になるように育てたわ。それだけならいいけど、その後、幼稚園に上がる頃、あたしは一人の男に売られ、そしてとても汚い世界に放り込まれてしまったわ。取り敢えず放送禁止なことを強要されたのよ、その男に。

 その後あたしは施設に救けられ、里親は逮捕されたけど、あたしを買った男は摘発を逃れてしまった。証拠を全部捨て、あたしには恐怖を植え付けて口を割らないようにし、うまく逃げてしまったのよ。

 あたしは施設で過ごしてたけど、大人なんて誰も信じちゃいなかった。当然すさんだ生活ってやつね。

 そうして九才の時、アキラちゃんの親戚だということが判って、あたしは引き取られた。

 そんな中、家の近所であたしを傷付けた男が歩いていたのよ。もう、復讐するしかないでしょ、こうなったら。いろいろ調べまくったわよ。

 五年生になってたあたしは、この外見を利用して、男の出入りしているいかがわしい店に潜り込んで、ようやく証拠をつかみかけたの。でも、未熟だったのね、見つかっちゃって、また放送禁止。

 そこで救けてくれたのがアキラちゃんだった。

 あたしが掴んだ証拠は、さっき話したわね。その男が学生を使って薬物を売りさばいていたことなの。しかもその男は、自分の兄が警察のエリートなのを利用していた。

 悔しがって泣きわめくあたしに、アキラちゃんは協力すると言ってくれた。あたしはその言葉にすがるしかなかった。嬉しかったの」


 日向とカズヤ、そして奈槻は、まさか信吾がここで自分の傷を告白するとは思っていなかった。話の最中に止めようとしたが、信吾は三人を制し、ここまで話しきったのだ。


「この学校では、何人もの生徒に訴えられているのにその訴えを取り下げられて不問にされている教師がいるわ。どういう圧力があったか知りませんけどね、校長先生。

 調べてみたら、解決したんじゃなくて、言い掛りだって生徒を叱りつけて取り下げさせてたのよ。

 知ってるかしら、校長先生。ここにいる日下さんの妹は、誰にも守ってもらえずに飛び降り自殺したわ。原因は教師なら誰も知っているわよね」

 生徒の視線が一斉に刑事に集まった。

「日下さんはその無念を胸に刑事になり、自殺してしまった子を姉と慕っていたアキラちゃんは、その為に名前も顔も偽って、幾つもの顔を使い分けて、とても大変な思いをしてきたのよ。

 いい、ここに映っている男は十年前のその姿だけど、誰もが知っている男のはずよ。公表できるのは、あたしが持っているあたしの映像だけしかない。だからこの映像を証拠として提出するわ。見て!」

「やめろ!」

 壇上の三人は、暴走を始めた信吾を止めようとしたが、それはできなかった。


 体育館のスクリーンに映し出された刺激的な映像は、信吾のトラウマとなった、まさに放送禁止の残酷シーン。

「まさか……」

 そこに集まった生徒たちは、その幼い信吾の悲惨な姿に顔を背けた。しかし、泣き喚く信吾をいたぶりわらう男の顔は、確かにみんな知っていた。


「……ピーチ!」


「そう、やくざと関係して、自分の生徒たちを食物に、莫大な稼ぎを得ていたのよ!

 こいつのこうした所業全てを知っていて、それを見て見ぬふりをしていたこの学校の教師全員を、あたしは告発するわ!今更知らなかったなんて言わせない!卑しくも思春期の学生を指導する立場にある者ならば、その責任を全うしてごらんなさい。潔く罪を認め、反面教師として我々を教育してごらんなさいよ!」


 信吾は完全に暴走していた。

「あたしはあたしの復讐の為に、《反日向・反教師同盟》を利用したわ。それは認める。絶大な影響力のあるアキラちゃんをも利用し、彼女が転校した先で同級生だったカズヤくんを、あたしは盟主《夏青葉》に祭り上げ、尚も自分の為に利用した。カズヤくんはお人好しだから、あたしの作戦に乗ってくれたわ。日向とシンが同一人物だっていうことも、あたしと日向が実は目的を同じにしていたことも、誰も知らない話よ。

 でもね、あれだけ影響力のあったアキラちゃんを抜きに、これが解決するわけないじゃない、ね、アキラちゃん!」

 信吾は日向のかつらむしり取った。





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