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第11部:霧散-2

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 ドアが壊れそうになるほど大量の生徒が、一斉になだれ込んできた。教師たちも一緒に傾れ込み、生徒たちを止めようと悪戦苦闘していたが結局数で負け、今度は日向と信吾の所にやってくる始末だ。

「では先生方、全校生徒に納得できるように説明ができますの?」

 こういう場合に窓口になるのは、決まって信吾だった。彼の口調だとかどが立たないから適任だといえる。

「納得って、何を納得させなきゃならないんだ。いいから解散させなさい!」

「そうやって問題を隠そうとする体質が、あたしはゆるせないのよね。そういう大人に物事を教わらねばならないってこともね。

 第一ね、ここに集まってきた生徒たちを帰せないんじゃ、どうしようもないわ。ここに集まったみんなの意図を理解できないような教師に、知った口をきいてほしくないわ」


「大体、刑事さんまで、こんな連中に乗せられて」

 次の矛先は一人大人の奈槻なつきだ。

「だって重要なことでしょ。先生にとっては一時の事件かもしれませんけど、ここの卒業生の僕に言わせてもらうならば、今回の事件は何代にも渡って繰り返されてきた問題です。そして僕も犠牲者でもある。

 昼休み時間、生徒が何をしようと、暴力行為ではなくむしろ前向きな集まりなのだから、教師は向き合うべきでしょう。少しは頭から抑えるのではなく、理解しようするのも必要なことだと思いますよ」

 奈槻は教師の肩を持つようなことを言うつもりは、全く初めからなかった。


「はいはい、始めるわよ!静かに聞いてちょうだい!」

 信吾がマイクを手に話し始めた。その隣に日向は立っていた。

「今更だけど改めて、《反日向・反教師同盟》の霞 信吾です。先週の土曜日、あたしたちと、隣にいる日向の率いるグループとは、直接暴力行為で対決をしました。その場にはこの地域を拠点とするツーリングクラブの《SIN》も駆け付け、《日向四天王》を名乗る金沢晃陽テルヒたちは、今、警察にいます。

 その場にいた人は知っているけど、日向とシンは同一人物で、あたしたちと手を組んでいました。何故なら、あたしたちの直接の敵は、《日向四天王》たちだったからです」

 その場は、当然騒然となった。

「本当のことを話すには、四年前のこと、更にもっと前のことを話さなくちゃならないわ。いろんな文句は全部聞くわ。ただ、今はあたしたちの話を最後まで聞いて」

 信吾は大声を張り上げ、騒ぎを一応収めた。


「この地元で育った人は判ると思うけど、四年前まで、この町はいろんな不良がそこら中で喧嘩をしていて、タクシーが乗車拒否するくらい治安の悪い町だったわね。

《日向四天王》も、以前はただの不良四人組にすぎなかった。あたしと日向、そして今はいないけど、桂小路 晃ちゃんが、偶然見てしまった現場は、とても信じられない光景だった」

 乗車拒否とは、カズヤは初めて聞いた話だ。


「小学生だったあの四人は、相手の年齢関係なく喧嘩を吹っかけてた。でも、それだけなら変な言い方だけどゆるせたのよ。

 赦せないのは、彼らの背後にある組織にものを言わせ、薬物を売買したりしてたことなの。ダイエットの薬だとか言って、一般の学生にまで手を出して、挙げ句自分たちをバックアップしてくれている組織の男たちに、女の子を斡旋あっせんしてたことも掴んだわ。自分たちが打ち負かしたグループの生徒に、無理いしたりとかね。

 けど、あたしたちは見てるだけしかできないじゃない、まだまだ子供だし、充分な証拠も提示できなかった。


 そこで考えた方法は、日向が彼らを打ち負かし、自分の配下に彼らを置いて監視する。そしてあたしは日向に反目する存在となる。でも、四人を完全に配下にして大人しくさせると、彼らを摘発することができなくなるから、日向は彼らに命令を出し、自分は少し離れて泳がせてみたの。勿論、それは彼らが勝手な行動を取って捕まってくれるのを願ってのこと。それに日向だって子供だから、どうしたって親の都合には逆らえないしね。


 この二年間は《反日向・反教師同盟》は耐えたわ。腑甲斐ふがいない教師たちは、汚いものは見ないようにするばかりで、真面目な生徒に救いの手を差し伸べようとはしなかった。

 二年間だけじゃない。あたしたちのずっと上の世代から、その悪い風習は変わっていないもの。内申書を脅しの材料にしたりしてね。教師なんて、《日向四天王》を取り締まれないくせに、逆らわない生徒を抑圧することくらいしかできなかった。また、そうすることで仕事を全うしてる気分にひたっていた。何という怠慢たいまん

 これまでの一件は、明日の新聞に掲載されるわ。校長先生、幸いこの学校には生徒同士のいじめはないけれど、生徒に対する教師の、いわれのない暴力行為は続いてきたわね。それも公になるわ。そのことについて、何かご説明は戴けるのかしら?」


 急に話を振られ、校長は動揺を隠せないようであったが、ここで何も言わなければ威厳に関わると思ったのだろう。彼は壇上に上がってマイクを握った。

「何をさっきから聞いていれば、君ら学生同士の争いに、どうして教師や学校が関わってくるんだ。いい加減にしないか!」

「わざわざ壇上に上がって、言うことってそれだけですの?」

 マイクも持たずに、信吾は大きな声を張り上げた。全校生徒は信吾を応援する野次を入れた。

 もう、信吾一人の独演会だ。




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