第11部:霧散-1
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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11;霧散
昼休み、信吾はお昼の放送をしている放送室に乗り込み、「ちょっと貸してね」とにっこり微笑むと、大胆にも放送ジャックをやってのけた。
『あ、えーっと、お昼の放送の間にごめんなさい。三年の霞 信吾です。というよりも、《反日向・反教師同盟》を仕切っていた霞 信吾の方が知名度あるかしら』
「オカマの、だろ」と、ジャックされた放送委員に突っ込まれ、信吾は我に帰った。
『失礼ね!って言うか、今はいっか。取り敢えず聞いてちょうだい。
あのね、先週の土曜日なんだけど、あたしたち《反日向・反教師同盟》と《日向》が直接対決した話は、もう噂で聞いていると思うのね。校長先生も説明できない本当の事情も含めて、今日の昼休みに体育館で説明したいので、集まってくれるかしら。特に《反日向・反教師同盟》のメンバーには約束していたことだしね。
あ、校長なんていつだって今までのこと説明したことないんだから、今更よね。
ってことで、ゲストは日向本人、あたしに頼まれて《夏青葉》を名乗ってくれた鈴木和哉くん、そして刑事の日下奈槻さん、司会はあたしってことで、興味のある人は是非来てね。ご飯の最中に失礼しました。では、皆さん、また後で。
あ、あたしはオカマじゃないわよ〜』
その最後の言葉に、全部の教室が爆笑したのは言うまでもない。
信吾はすぐに体育館に向かった。今の放送を聞いた教師連中よりも先に体育館に行かないと、せっかくアキラやカズヤが閉鎖している体育館を、信吾が入る時、一緒に入り込まれて、計画を台無しにされてしまいかねない。
ところが信吾は頑張っていたのだが、職員室では教師全員が集められ、奈槻が事情説明という名の元に、教師の動きを封じてくれていた。
「信吾、今の放送、面白かったよヮ」
「でしょーっ」
「っつーか、かなり楽しんでたろ、お前」
「あら、バレてた」
「当然だ」
「だって、考えてもみてごらんなさいな。日向とシンが同一人物だったばかりか、本当はアキラちゃんだったなんて知らされてごらんなさい。全校生徒が豆鉄砲食らった鳩みたいな顔するのよ。もう、楽しみで楽しみで」
「いや、面白かったのは最後のコメントだから」
「えっ、えぇっ?失礼ね」
ネタはどうであれ、カズヤは今の状況がすごく楽しかった。
「信吾、ちょっと来い」
アキラは神妙な面持ちで、楽しそうにしている信吾一人を舞台袖に呼び出した。
「なあに、アキラちゃん」
信吾はアキラが真面目な顔をしているのを、すぐに見て取った。
「カズヤの記憶を封じる。オレとしては力を使いたくないんだけど、あいつはバカ正直だから、日向がアキラだったってことを明かした時に、今初めて知ったって顔してくれって頼んだって無理だろう」
「そうねえ、確かに無理だわね」
「だろ。《夏青葉》が真実を知ってたっとこと知られてみろ。オレらの計画は権威失墜。カズヤも立場が悪くなる。ついさっき知られたなんて事情が、他の連中に通じるわけないんだしさ。だからやるしかないだろ」
「あれをやるのね」
「それしかない。奈槻兄ちゃんにはお前から伝えてくれ。
ってことで、すぐにでもやるから、お前は少し席を外してくれ。お前まで術にかかったら堪らん」
「解ったわ。しっかりね」
「当たり前だ。オレがやるんだから」
全てはカズヤに聞こえないように話され、信吾はアキラに言われた通り席を外し、アキラはカズヤの方に歩み寄った。
「また信吾をパシリにしたのヮ」
カズヤは何の疑いもない笑顔で、やって来るアキラに声をかけた。
アキラは日向の格好をしていたのだが、何も言わずにカズヤの瞳をじっと見ながら詰め寄った。
「何だよ、おっかない目してヮ」
一歩下がろうとしたカズヤの肩をがっちり掴み、アキラは囁いた。
「お前の目の前にいるのは日向だ。シンが化けてた日向。いいな、日向だぞ。それ以外何者でもない」
蛇に睨まれた蛙のように固まったカズヤは、次の瞬間力なく気を失って膝をついた。アキラはその身体を抱き起こした。
「あ、日向」
気絶したのはほんの瞬間だけだ。
「大丈夫かよ、《夏青葉》。いきなり膝がっくりさせるから、驚いたじゃないか〜」
「悪い悪い。何だろう、別に体調悪くはないんだけど。立ち眩みかなぁ」
「頼むよ、これから一芝居打つんだっけ」
「いいけど、オレはどっちの名前で呼べばいいんだ?日向の格好してる時は日向って呼ぶように、オレは一応してるんだけど」
「そのようにしててくれればいいさ。オレは取り敢えず、日向の格好で出るつもりだから、この後の集会では」
「じゃ、日向って呼ぶぜ」
「頼むよ〜」
アキラは舞台袖の暗幕に隠れて、日向の鬘をしっかり被り直した。
記憶封じは成功したのだ。
時間を見計らって、信吾と奈槻が体育館に忍び込んできた。
「日向、そろそろ始めないこと?」
信吾は外の騒々しさを顎で示した。
「おう、そうだな。かすみちゃん、頼むぜ」
「任せて。じゃ、カズヤくん、ドアを開けてくれるかしら」
「はいは〜い」
外からドンドンと叩かれるドアを、カズヤは勢いよく開けた。というか、吹っ飛ばされた。
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