第10部:再会-7
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「奈槻兄ちゃん!いつ来たんだよ」
「今だよ」
ドアに凭れて腕組みをして立っていたのは、《日向四天王》との直接対決と、ピーチの検挙の時に現われた私服警官だった。にやにやと面白そうに三人のやり取りを見ている。
「何だよ、にやにや笑っちゃって気持ち悪ぃ」
「いやさ、オレ、かすみちゃんに聞かされてたから、お前らがいつ気付くか、すっごく気になってたんだよ。もう、モグリの所の障子の陰から、何度出てって教えてやろうと思ったか」
「って、障子の陰って何だよ、信吾?」
もう、カズヤの頭はパニックだ。
この人たちは一体何者なのだ。
自分の知らないところで全てが仕組まれていたことだけは解るのだが、もう、何が何だかさっぱりだ。
「カズヤくん、ごめんなさいねぇ。モグリの密談部屋の向こうに、このお兄さんが隠れて盗み聞きができる部屋があってね、こっそりあたしが手引きをしてたのよ。まあ、連携プレーってやつ」
「はあ?」
いけしゃあしゃあと笑う奈槻と信吾に、アキラとカズヤは今日何回目かのため息をついた。
アキラときたら、それだけがっかりしておきながら、相変わらず表情は乏しい。
「これが、オレが大量の人間を騙してきたツケだと思えば、何とか耐えられるさ。いや、耐えてみせる」
「そうそう、賢明な心の持ちようだよ、アキラさん。
で、明日の新聞に君の名前が載るわけだけど、準備はいいのかい?」
「これからなんだよ。オレはそこで明かすつもりだったのに、先にカズヤにバレちまって、お陰で二度手間になっちまったんだよ」
「おい、オレの所為かい!」
まったくどんな言い草だ。アキラの性格は以前にも増して図々しくなっているような気がしなくもない。
「解ってるって、お前の言いたいことは。えぇ、充分反省してますよ、オレは。
でもさオレの言い回しがこうだって知ってんだから、少しくらい聞き流してくれてもいいじゃん」
アキラは不貞腐れた。
「アキラちゃん、今日は神妙にしてた方がいいんじゃない、カズヤくんには特にね」
信吾がクスクスと笑った。
「ほら、カズヤくんのことで怒られてる最中にそのカズヤくんが現れて立ち消えになっちゃったけどね、昼休み、放送室を乗っ取って、本当のことを話すってところまで、あたしたちは話してたのよ」
「信吾、よくやった」
アキラは話題が元に戻ったことに、全身で安堵感を表現した。
「よく言うわよ。結局話を逸らせてあたしのこと怒り出したの、アキラちゃんじゃないの」
これには信吾も呆れ顔だ。
「しかし、よくもまあ転校の書類まで改竄して、一人何役もやれるもんだな。そういう意味でも感心するよ、アキラには」
「それがオレの仕事だっけな。それに奈槻兄ちゃんにも世話になったしな」
―――っつーか、取り締まれよ、刑事なら……
カズヤはその言葉を飲み込んだ。
その代わりに違うことを言う。
「でもさ、一番オレが感心したのは、よくあんなに表情豊かな日向を演じたり、結構ボケ役のシンを演じたりできるよな、万年仏頂面のアキラが。
いっそ日向の愛想の良さをそのまま続けてくれたらいいくらいだよ」
カズヤはそこまで言って、慌てて口を抑えた。
「へぇえ、そこまで言うか、カズヤまで。
どうせ愛想がなくて、悪うございましたね。家に帰ると、結構自己嫌悪に陥るんだぜ、あれやると」
「よく言うわ」と、信吾が小声で野次を入れる。
「あっ、そうそう、今度家を教えてよ、遊びに行くから」
「オレをナンパするな、ボケ!」
「何処がナンパなんだよ」
「ああ、もうっ、同時に一人何役もやったから、オレ自身がどうだったか解らなくなる時があるじゃねぇかっ」
アキラは頭を掻き毟った。
そんなアキラを見て、信吾はくすくすと笑う。
「アキラちゃん、全部自分の所為でしょ。第一、その乱暴な言葉遣いだけで、充分アキラちゃんらしいから、安心なさい」
「おいこら、かすみちゃん、嬉しくない」
「お前ら三人、いい加減漫才は止めろよな」
「漫才?失敬な!」
「そうよ、奈槻ちゃん、失礼ね」
「オレは漫才してる覚え、全っ然ないんですけど……」
アキラ、信吾、カズヤの三人は、奈槻に喰ってかかった。
「はいはい。で、ここまでオレをつき合わせたのはアキラじゃないか。お前の茶番に付き合ってやるのはこっちなんだから、ちゃんとシナリオを教えてくれないと」
「あ、そっか」
諦観であろうと何であろうと、安定感を感じさせるアキラは、あの頃よりも少しは丸くなったようだった。
奈槻に昼休みの手順を説明するアキラは、どこか憑物が一つくらいは落ちたような顔をしていた。
次回から第11部;霧散〜を始めます。
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