第1部:彼女の不可解な行動-7
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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少しだけ時間は戻る。
東京は下町と呼ばれる地域のマンションの一室に、カズヤたち親子は引っ越した。
―――何なのヮ、この学校……
先ず最初にカズヤが心の中で呟いた感想が、この一言だった。
転校手続きの際、校則を読み上げるだけで一時間も費やし、それを普通だと思っているような教師に、思わず両親と顔を見合わせた。
「何か変な学校ねえ。大丈夫、カズヤ?」
「ちょっと自信ないよヮ」
帰り道、家族揃ってため息をついた。先が思いやられるとはこのことだ。
三学期の始業式の朝。その不安を現実と思わせるに充分な光景をカズヤは目の辺りにした。
音読するのに一時間にも及ぶ校則を守っている生徒と守っていない生徒との差は歴然としていた。
前者は歩く生徒手帳、後者は歩く人間広告塔。更に驚くべきことに、教師たちは朝礼の際に、校則違反の者を頭を、容赦なく革スリッパで殴っている。しかも前髪の長さとスカート丈がミリ単位で違反してしまっている生徒とか、詰め襟のカラーを忘れてしまったような生徒とかをだ。ところが歩く人間広告塔のことは、教師は全く殴りもしない。
こういうものはテレビや小説の中だけかと思っていたカズヤは、生まれて初めて見る理不尽な世界に驚いた。
「手続きの時に説明したとは思うが、今日は初日だから大目に見てやる。今週中に校則を守るように。そのパーマはさっさと落とせ」
「はあ……」
新しい教室で紹介された時、全員の前でカズヤは真っ先に注意を受けた。
カズヤは色こそ変えていない黒髪のものの、全体的に長めの髪で、学生服は少し格好良くなっている。しかもボタンは神森中のままだ。
「あの……、これ、天パなんですけど……」
「みんなそう言うんだよ。いいから真っ直ぐにしろ。席は廊下側の一番後ろだ」
まるで聞く耳を持たない教師に対して、力説する口をカズヤは持ち合わせていない。
―――神森中の連中は、全員殴られるだろうな。
カズヤは心の中で笑った。アキラなどは最悪だ。注意を受けて、理詰めでやり返した挙句に大暴れしかねない。
その日はホームルームだけで終わりだった。
「煩くて驚いたでしょう、鈴木和哉くん」
教室を出ようとしたカズヤは、突然親しげに声をかけられた。
「あなた、神森中って学校からきたんでしょ。アキラちゃんから名前は聞いてないかしら、霞 信吾って」
「え、あ、うん」
「それ、あたしのこと。よろしくね」
カズヤは目をぱちくりさせた。アキラの注意した人間が、星の数ほどある東京の学校の中で、まさかいきなり同じクラスになるとは思っていなかった。しかも、その声をかけてきた少年は、眼鏡をかけた少年なのだが、何故かオネエ言葉を使っている。
声は少し高めだが声変わりもしているようだし、身長が低ければ、ボーイッシュな女の子だと思えるのだが、背はしっかり高い。
それにしても、想像していたのとはかなり違う。
「ちょっと窓際で屯してる連中を見て」
信吾はいきなり親しかった。
「アキラちゃんから聞いてると思うけど、あれがあたしたちの敵、不良グループ《日向》の四人組。バカみたいに《日向四天王》なんて名乗っちゃってるわ」
―――あたしたちって、いきなり仲間ですかぁ?っていうか、敵って……
声を潜め、信吾はカズヤの耳元で囁いた。お陰でカズヤが眉を顰めたのは見られていない。
「ね、今日はお暇かしら。ちょっと詳しくお話ししたいのだけど」
―――何だかよく判らないけど、東京っていろんな人間がいるんだなャ……
アキラの忠告は憶えていたが、こんな女らしい仕草の少年が不良と敵対するグループを引っ張ってるとは信じられず、そして断る理由もさしてなかったから、カズヤは信吾を新しい自宅に誘った。
「ね、あたしのことは聞いてるんでしょ、アキラちゃんから」
転校初日から友達を連れて来たと、カズヤの母親は上機嫌で信吾を迎え、彼は遠慮もなくカズヤの部屋に上がり込むなり切り出した。
「ああ、まあ適当に」
まさか付き合うなと言われたとは、本人を前にしてはっきりは言えず、カズヤは曖昧な返事をした。
「アキラちゃんらしいわ。殆ど何も言わないんですもの。それだからあたしが困るのよね。ま、いいけど。
早速本題を話させてね。さっきの四人組だけど、彼らにはリーダーがいるのよ。日向っていう男子生徒なんだけどね、今まで都合よく親の仕事の都合で転勤してたのに、この四月に戻ってきちゃうの。あの四人は日向が帰って来るまでに縄張りを拡げている実働部隊ってわけ。
彼らにとって、中学生も高校生も関係ないみたいで、年齢関係ない不良グループが、ここを中心にできあがりつつあるわ。これで日向が帰ってきちゃったら、本当に困っちゃうったらありゃしない。それであたしたちは参っているのよ」
見た目はたおやかなのだが、信吾は不思議な人間だった。少なくとも、神森にはいないタイプだ。
そして彼は、カズヤが初めからアキラを通じて味方だと思い込んでいるようだった。
「いい、《日向》に従って喧嘩道に明け暮れるか、教師に媚び諂う人間になるか、この中学には二つに一つしか道はないわ」
―――そんな、オーバーな……
カズヤはその大袈裟な物言いに、笑いを堪えた。
次回から第2部;痛み を始めます。
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