第10部:再会-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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カズヤが思わず叫んだのは、舌に馴染んだその名前。自分を支配してきた後光。
無造作に低めのポニーテールにした黒髪。
大きな漆黒のつりあがった目。
「はあ……。どうしてここんとこ、正体バレてばっかなんだろな。ツメが甘くなってんだな、オレ。
ほら、開いた口が塞がんないのは解るけど、ボケた顔をする暇あるなら、オレを詰るなり殴るなりしろよ。その方が楽だから」
これもまた懐かしくもある大きなため息をつき、彼女はカズヤに言った。
「腹立ててるだろう。前にも言ったもんな。オレは人を人として思ってないって。人はゲームの駒だって」
学ランこそ着ていたが、その顔はアキラ。
桂小路 晃―――!
どうして今まで気が付かなかったのか、それが不思議でしかたない。日向が自分の長所をすぐに指摘したことや、その他諸々、全てアキラだったからできたのだ。ようやくそれで納得がいく。
カズヤはできる限り、沸き上がる気持ちを抑えようとした。再会を喜びたい気持ちがあるのだが、どうも怒鳴りつけたい気持ちの方が強い。しかし、どうも怒鳴ったところで気持ちが悪い。逢えて嬉しい気持ちは抑えようがない。
何も言わずに大きく肩で息をして、気持ちを落ち着かせてみた。
「取り敢えず、何もかも詳しく話せ。悪いと思ってんだったら、オレを納得させてみろ。オレは最後まで聞くからヮ」
「お前だけは、オレの一族のことに関わらせたくないんだけどな」
「サキには言えてもか。そりゃ、オレはたしかにサキほどしっかりしていないけどさ、けど……」
カズヤは後を濁した。『一緒に悩んだり、答えは出せなくても、拒否しない人がそこにいれば、甘えて気分が楽になることだってあるじゃないか』と言いたかったのだが、アキラにとっては不愉快に感じることだと解っていたから口にはできない。
特に『甘える』は禁句だ。
それに、アキラがアキラとして本音を語ることができる人間だったら、今更こんなことを言い渡したりはしない。以前、日向という仮面を被ってぶちまけた本音が、本当のことなのだろうと、充分解っている。
「お前って、本当にお人好しだよな。オレが嫌がるの知ってても、怒ってるなら最後まで言えばいいじゃんか。オレが悪いんだしよ」
学ランの第一ボタンを緩め、アキラは居住まいを正した。そしてカズヤは、アキラの腰かけているソファの肘掛に腰を下ろした。
「去年話したこと、あれが全てさ。人間は滅びるだけの種族。滅ぶべき種族。オレはその人間で、空蝉の長。人間を滅ぼす者さ。
オレの仕事っていうのは、こうやってやくざや政治家の抗争を煽って、それぞれを自爆させることなのさ。だからお前らには教えなかったんだよ」
アキラの言い訳する姿の、そのふてぶてしいことといったらない
「お前、ずっと前に言ったじゃないか。自分の一族の性を否定するって」
「確かに言ったさ。だから無条件に人間を憎むことはやめた。
けど地球規模で考えた時、人間はガン細胞みたいなものだ。悪性のものは消さなくちゃならないだろう。だからオレは悪性の人間を打ちのめす。そしてオレ自身が一番最低の人間だから、ちゃんと最後は自分も一緒に消える覚悟もできている」
アキラは変わった。カズヤはそう感じていた。
善いのか悪いのかは判断つかないが、去年見せていた、あの平凡指向が消え去っている。そして自分は自分で受け入れた上で、権力、そればかりか自分の運命そのものにまで、真っ正面から立ち向かおうとする強さがあった。去年と違って安定感があるのだが、同時に諦観も感じられる。
感じた諦観とは、運命には逆らっても、否定しても無駄なものなんだから、それならば、早く役目を終えて、自分も消滅してしまえばいいだろうとでも言うような、究極の諦めのようなものだ。
「そうそう、お前、明日の朝刊読めよ。奈槻兄ちゃんに頼んで、今まで伏せさせてたんだよ、事件のこと。ほら、オレの本名出ちゃうじゃねぇか。明日、解禁日なんだよ」
「なつきにいちゃん?」
話題を変えたアキラの心の内は、もうこれ以上何も訊かれたくない、という拒否の気持ちで充ちていた。
「ああ、もう、二度手間になる、面倒臭いなぁ」
「何、エラそうなのよ、まったくもう!」
今まで黙っていた信吾が、アキラの頭をひっぱたいた。
「あぁ、はいはい。スミマセンでしたね。どうせオレは文句言える立場じゃありませんよ」
恨めしそうに信吾を見上げて拗ねて見せると、それからちゃんとカズヤの目を見据えて説明を始めた。
「ほら、あの警察の人だよ。あの人、茂木のモグリの後輩で、あいつもピーチの犠牲者なんだよ」
「そうそう。そして、アキラの両親の死後、グレたアキラの兄貴代わりをしながら面倒見てて、そんなオレはオレでアキラの母さんのお陰で更正したって経歴を持つ、刑事の日下奈槻。よろしくな」
また突然降って湧いたように別人が現れた。
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