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第10部:再会-5

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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「あああああっ!」

 その場に泣き崩れた信吾を、カズヤは支えた。

「止まらないの、何処どこにもり場がないのよ、このムヤムヤした気持ち。どうしたらいいの?あいつを支えに立っているのが精一杯だったのに、あいつらがいなくなったら、あたしはどうやって立っていったらいいの?自分自身の抑制した感情が、いつも怖かったの。あたしはどうしたらいいの?教えてよ、ねぇ!」

 計り知れない憎しみを抱えた自分に対する恐怖心。未知の暗闇がひそむようで、その恐怖は凄まじいものだろう。信吾はこの暗闇を爆発させたいのに、抑制しなくてはならない。それが苦しいのだ。

 カズヤは信吾が落ち着くまで、彼の気の済むようにさせることにした。自分の胸に顔をうずめて泣くのを拒否できるほど、カズヤは無情ではなく、逆に抱き締めてあげられるくらいの余裕と優しさを持ち合わせていた。




 翌々日の月曜の朝。信吾も日向も教室には来ていなかったが、今日は《反日教》に何らかの説明をする予定の日だ。


「オレ、今日はサボるわ」

 カズヤは梅津にそう言って、二時間目から教室を抜け出した。とても授業を受ける気分にはなれなかった。

 いるかいないか判らないが、カズヤは日向が使っていた空き部屋に向かった。何となく二人はそこにいるような気がしたのだ。

 多分落ち込んでいるであろう信吾のことを気遣って、「よおっ!」と、明るく振る舞おうと思ってドアに手をかけたのだが、カズヤは開けるのを止めた。中で二人が言い争っていたのだ。しかも、自分のことで。


「どうしてカズヤを巻き込んだんだ!」

「……」

「お前の思惑もあるだろうし、この機会を逃したら駄目だと思ったから、こっちも終わるまで黙ってたけど、いいか、オレはあいつをこの世界に関わらせたくなかったんだ。

 一人っ子の甘えん坊だって言われてようと、オレは純粋で無邪気なあいつのままでいてほしかったんだ」

「……でも、あたくしは消えねばならぬ者でしょう。年をて、彼が成長したら、《春霧霞》の務めを終えて、消えなくてはならないのでしょ。あたくしが彼に何も知らせないで消えたとしたら、彼はあなたを理解できない一部分を抱えたままになってしまいますわよ。

 まあ、そう言われるのが嫌だということは、あたくしも充分承知していますけれど」

「なあ、このドロドロの人間の感情なんか、いっそ知らない方が幸せだとは思わないか」

「そりゃ、あたくしは当事者ですもの、思わないわけがないでしょう」

「大体、カズヤもカズヤだ。あいつからオレの言葉は伝わってるはずなのに」

「それを敢えて破ることが、彼の成長だったんでしょ。そしてあたくしは消えゆく運命……」

「なあ、信吾。前から気になってたんだけど、誤解してるよな。それにお前、本当にあいつが《夏青葉》だと思ってんのか」

「え?」

「《春霧霞・夏青葉》はな、確かにオレの守人もりびとかもしれないけど、オレを救うのはお前らじゃないぞ。オレが悩めるお前らを解放するんだ。

 お前が消える時ってのは、オレがお前の悩みを解放に導いた時なんだよ。お前、悩みは解決してないだろ。まだまだオレの傍で働かなくちゃならないぞ」


―――妙に詳しすぎるぞ。本物の《夏青葉》じゃないくせに。

 ドアの外で聞き耳を立てていたカズヤは、首を思わずかしげた。日向の口調がいつもと違うのも気になる。

「あらぁ、カズヤくん、やっぱり偽者でしたの。

 でも、彼には超常の力がありましたわ。ですから、あたくし、てっきり神森から送られてきたのかと……」

「人を送るなんて、オレにそんな甲斐性あるか。それに力があるやつが《夏青葉》とは限らないだろうが」

「では、本物をご存じですのね」

 カズヤは耳を澄ませた。


「お前、会ってるぞ、この間。

 あのどさくさで誰も気付いてないけどな、オレが足を撃たれた後、テルヒはもう一発ぶっぱなしてんだよ。さすがに避けきれないはずだった。けど、オレをかばったカズヤの友達ってのが、いつ現われたか気付いたか?」

「いいえ……。そう言えば……」

「オレもあんな能力があるとは知らなかったよ。わざと伏し目がちにしてるとは思ってたけど、あれは能力を無意識に制御してるから伏し目だったんだよ。

 まったく、目を見開いたと思ったら、素手で飛んでくる弾をつかみやがった。オレ、あいつはオレの理解者くらいにしか思ってなかったんだよ。だから離れっちまえば、これ以上付き合うこともないだろなって……」


―――オレの―――?


「サキ……、鈴木賢木サカキっていうんだけど……」


 カズヤは予告なしにドアを開けた。

「何で、何でお前がサキの名前を―――!」

「かっ、カズヤ!」

 瞬間、日向はシンの格好をしていたのかと思った。しかし、彼は日向でもシンでもなかった。彼でもなかった。

「―――!」

 思わず違う名前が口から出てくる。




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