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第10部:再会-3

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 移動したカズヤには、未だやるべきことがあった。

 信吾はピーチに呑ませる酒に、彼は何処どこで手に入れたのか、いわゆる自白剤を入れて運んでいる。カズヤはピーチたちに気付かれないように、部屋の死角にビデオカメラを設置しなくてはならないのだ。店内に知り合いがいればいいのだが、ここはお偉いさん御用達ごようたしの店だ。当然そういう行為は取り締まられている。忍び込むにも毎日の掃除も行き届いているわけで、事前に設置しておくことも難しい。となると、カズヤの能力を以ってするくらいしか、彼の脳みそでは考えられなかったのだ。

 カズヤは、こっそり天井裏にひそむと、ビデオカメラを設置して、ことのやりとりを盗み聞きすることにした。勿論天井裏から音声だけを録音して、ビデオが万一失敗した時の為に備えておくことも忘れない。


 既にピーチたちを接遇ていた信吾は、酔いも薬も回り始めている彼らにしなだれかかり、おだてながら事実を聞き出している。実にその話術は素晴らしいものだ。

 ああいった人種は、煽てられれば自分の自慢話を、相手の迷惑もかえりみずに際限なく続けてくるのだ。そこで可愛らしい合いの手が入れば、尾鰭おひれ背鰭せびれも豪勢に付いてくるわけだ。


 学生相手に薬物取引などの手引きをさせ、しまいには彼らに薬物を売る話。黒い取引に学生を使ってばれないようにやらせた自分たちがどれだけ成功したかを一頻ひとしきり話し続けるつまらない男たち。学生たちは失敗しても、トカゲの尻尾切りにできるから都合がいいなどと恥ずかしげもなくうそぶいている。

 天井裏で聞いているカズヤは拳を握り締め、腹立ちをこらえるので精一杯だ。隣で恨んでいる相手が自慢げに話す姿を見ている信吾の怒りは如何いかばかりだろう。

 影で誰が何を思っているかなど考えもしないピーチたちの話は、やがてテルヒの持っていた拳銃のことになった。


「そういえば、テルヒがミスったってな。困った女だ」

「日向ですよ。あいつに出し抜かれたらしくってね。けどね、先生、大丈夫ですよ。また尻尾を切ればいいだけの話です」

「やつらはちょっとまずいんじゃないか。他のと違って、我々のことを知りすぎている」

「大丈夫、先生の名前はバレやしませんよ。あの四人には厳しく言ってあるし、第一、兄がうまく揉み消してくれますしね」

「はっはっはっ、いや、確かに新聞沙汰にもならなかったし、実にいいお兄さんで、私も嬉しいよ。そしてあんたは学校教師で、たくさんカモを連れてきてくれるし」

「いやいや、こちらも先生のお陰で潤っていますからね」

 今日何度目かの乾杯を、つまらない男たちは交わした。

「なぁに?何のハナシ?」

ねえさんには、ちょっと刺激的なことさ」

「え?知りたいわぁ。ほら、あたしなんか世間知らずでしょ、先生たちから世の中のこと教えて戴かないと、一生バカで終わっちゃうのよ」

 盛り上がる二人に対し、信吾はしなを作った。二人を下から見上げる仕草は、カズヤが見てもドキドキしてしまう。

 そんな信吾にだまされて、二人は解りやすく、余計なことまで説明してくれる。それが信吾の色気の為なのか、酔いの所為か薬の所為か、それはまるで判らなかった。


「あら、お酒が足りませんわね。お持ちしなくては」

 信吾は立ち上がろうとした。そろそろ合図が、ピーチの方から出るはずだ。カズヤは思わず身構えた。

「酒なんかいつでもいいぜ。もう一人連れが来る前によ、姐ちゃん、隣の空き部屋で、な……」

 酔ったピーチが、あろうことが信吾を引き寄せた。

「いけませんわ、先生方お二人でなんて」

「そんな恥ずかしがるなって。ねえ、先生」

 信吾は妖しく笑って、その手を払い除けようとした。ピーチが信吾を誘ったら、それがカズヤの次の行動を促す合図だったのだが、予定外の事態が起こった。


「あ、先生、場ァ悪かったかしら」

「い、イヤ、そんなことはない。待ってたぞ」

 予定よりも早く現われたテルヒに驚き、ピーチは信吾を離した。

 信吾は慌てて着物のえりを正した。

 ピーチは酔っ払っているからいいのだが、テルヒは素面しらふだ。しっかりした頭で見つめられたら、男だとバレない保証はない。

「そちらのお嬢さんにはお茶でいいかしら」

「ええ。烏龍茶でいいわ」

 テルヒは慣れた口調で芸者の方を見向きもせずに言った。


「で、あたしらは次に何をしたらいいのかしら?日向はいないことだし、縄張りを拡げる必要はあまりないからね、どちらかと言ったら自由に儲けたいわね。大事になって捕まったら、今度こそ出られないと思うし」

 自分のミスなど意に介した風もなく、テルヒはいけしゃあしゃあと自分の都合を述べる。

「それもそうだな。こっちとしては、決まった量を裁いてくれれば問題ないわけだしな」

 つまりはそういうことなのだ。目的さえ果たし、自分の存在が公にならなければ別にいいのだ。

「じゃ、商談成立ね。こっちはいつも通りの割合で貰うわよ」

 そうして三人は、下品な雑談を始めた。


 そ知らぬ素振りで憎む相手に酌をしながら、信吾は咳払いでカズヤに行動を促した。作戦第二弾の発動の合図だ。


 カズヤは、ここでその場を離れて警察に出動を促しに行くのだ。以前の私服警官が、五分で現場に行けるだけの準備をして待っている手筈てはずを整えているはずだった。




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