第10部:再会-2
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「お、おいっ!」
「はははっ。オレも大樹の森の守人、表の鈴木の長男だぜ。裏のサキができてオレにできないわけないっちゃ。あー、すっきりした」
照れを隠す所為もあるが、驚く五人の反応を見るのが怖かったカズヤは、ホテルのロビーに走って行き、葵を見付けて声をかけた。
「葵ちゃん、お久し振りーっ!世紀の大不良が、みんなを連れ回してました。悪いのは全部オレでーす!」
「きゃあああっ!何よ、その髪の毛はぁっ!」
葵は腰を抜かし、他の教師も驚きを隠せない表情だったが、以前と何も変わらないカズヤにすぐに気付き、外見で判断することなく接してきた。それがカズヤの愛した神森中学だ。
両親にはちゃんと連絡し、カズヤはその晩はこっそりサキと同室に泊まり、翌朝早くに自宅に戻った。積もる話もあるというものだ。仲間たちに囲まれ、カズヤは一部始終を一晩かけて話して夜明けを迎えた。
時間は滞りなく流れていく。
《日向四天王》や日向や信吾がいなくても、ピーチは何も説明をしないまま、普段通りに学級運営をしていた。当然、学校としても説明はない。新聞に記事が載るようなこともなかったが、後日感謝状だか何かを出すから静かに待っていてくれという内容の文書が茂木接骨院に届いただけで、実際には未だ現実味を帯びていない。
警察に連れて行かれることを予測していたのだろう。信吾は事前に手紙を出して、十七日の計画がカズヤに届くようにしていた。勿論信吾のことだから、届く日にちも計算済みだったろう。
何の打合せもしないまま、ピーチとの対決の当日がやってきてしまった。
「こんばんは〜。悪いけど頼むわね」
信吾は変装道具一式を持って、何事もなかったかのように、当日の夜にカズヤの自室にやって来た。
「しーっ!親に聞こえないように頼むよ、こっちも」
「あ、そっか。ごめんなさいね」
信吾は、当然窓からの侵入だ。
カズヤの両親は、さすが彼の親だけあって、お人好しを絵に描いたような好人物で、まさか息子が大仕事をしているとは想像すらしていなかった。
父親ときたら、風呂場の排水溝に最近白髪の抜け毛が増えたことを、ちょっと気にしているようではあったが、それが脱色した息子の抜け毛だとは全然考えてもいないようだ。
「取り敢えず、お前、化けてろよ。その間に、オレは風呂でも入って寝るって言ってくるっけ」
カズヤはそう言って、タオルとパジャマを持って外に出た。
眠ると一言言えば、息子は眠っているから起こしてはいけないと思ってくれる、本当にお人好しの両親で、カズヤは変に感謝をした。これで信吾と何処に出かけようと、両親は気付きはしないはずだ。勿論、不測の事態に備えて内側からは鍵をかけることは忘れない。
カズヤは軽くノックをして、自分の部屋を開けた。
「おおーっ」
変装した信吾を見て、思わずカズヤは声を上げた。
「しーっ!」
「あっ、悪い悪い。だって、綺麗だっけ」
「あら、ありがと」
信吾はそう言って、ポーズを取ってみせた。
豪華な振り袖を艶やかに着こなし、結い上げた髪の襟足がとても色っぽく見える。口元のお喋り黒子は化粧で消し、本職の芸者さんもびっくりするくらいの立ち姿だ。
「いい、日向には内緒にしてくれてるでしょうね」
「勿論。日にちは向こうも知ってたようだけど」
「それくらいはいいわ」
確かにこれは信吾個人の復讐なのだから、日向に知られたくないという想いは尊重してやらねばならないと、カズヤは考えている。それに警察に連れて行かれて以来、彼の顔は見ていない。
カズヤの遠見能力で、信吾が言った高級料亭に、ピーチとその連れが入るのは確認した。瞬間移動するタイミングは、その部屋に芸者がお酒を持って行く時だ。
じっと目を閉じて様子を伺っていたカズヤは、顔を上げて信吾の顔を見た。
「信吾、そろそろだと思う」
「いつでもいいわよ。よろしくね」
カズヤも例の《夏青葉》の格好に改めてある。ぱっと見では正体はばれないだろう。
カズヤは信吾の手を取ると、廊下を歩く芸者の後ろに移動した。
「悪いけど、交替してね。これ、交通費だから」
信吾はにっこり微笑みながら手にしたお酒の盆を奪い、代わりにお札を握らせた。
素の顔が判らないのだから、やることはかなり大胆だ。カズヤは芸者に姿を見られることなく、信吾が準備を調えたのを見届けると、茫然とする芸者を背後から抱きかかえ、突然瞬間移動で街に連れ出し、その場に置き去りにした。
移動場所は目立ちすぎる場所もマズいのだが、目立たない場所では彼女が危ない。その辺もちゃんと考えて、現在地がすぐ判るような街角に降り立ち、カズヤ自身は姿を見られることなく、すぐに別の場所に移動した。
どうせ見られたところで、誰も何があったか判るわけもなく、芸者だって誰に説明もできやしない。
可哀相な芸者は、自分に何があったか理解することができないままお札を握り締め、暫くその場に和服姿で立ち尽くすしかなかった。
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