第9部:予想外-7
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「怪我したのか、日向」
私服警官は、親しげに日向に声をかけてきた。
「見りゃ判るだろ。痛ぇよ〜。死ぬぅ〜」
「何も自分を犠牲にしてまで、尻尾を出させることはないだろうに。それにその程度じゃ死ねないし」
「冷たいなぁ。こっちは身体張ったってのにさ。大体だよ、オレ以外の誰を犠牲にするんだ。尻尾を掴んで得すんのはそっちじゃねーか」
悪態を吐きながらも、日向は私服警官に向かって、親指を立ててみせた。
「本当に、お前ってやつぁ……
小学生が何を言ってるんだって思ってたらよ、まったく……」
私服警官は苦笑した。
「約束は守ってもらうぜ」
「ああ、勿論だ」
私服警官は手を振ると、現場検証を始めた。
「お、おい、これ、どういうことだよ?」
カズヤは日向に問いただした。
「遅くなってごめんなさい、かすみちゃん。怪我人出ちゃったの?え、日向が!」
別のパトカーから、絵美が走ってきたではないか。
「道に迷っちゃったのよ」
更に別のパトカーからは、コメチとナミが現われて、現場はめちゃくちゃだった。
「どうなってんだよ、おい!」
状況を把握できずにいるカズヤには直接答えず、日向は怪我した足を引き摺って、高台に登って声を張り上げた。
「オレは、とにかく騙すだけ騙してたんだ、みんなのことを!
偶然知ってしまった《日向四天王》の悪事を暴く為に、自ら日向を名乗って、彼らがオレに発砲してくる機会を待ってたんだ。こうでもしないと、連中を縄にかけられないからだ」
その場は水を打ったように静まり返った。
「勿論、オレを詰ってくれて構わない。ただ、これだけは信じてくれ。オレは決して私利私欲の為に、こんな大掛りなことをしたわけじゃない。そして、この件で最後にオレを信じてくれた者には、迷惑がかからないように警察に約束を取り付けてある。
とにかく今は謝ることしかできないけど、オレが警察から戻る来週半ばには、本当のことを全部話す。だから今日のところはこれ以上、何も訊かないでほしい!」
日向はその場で土下座をし、私服警官に促されるまで、頭を上げようとはしなかった。
その場にいた者は誰も、事態を把握していなかった。
日向、《日向四天王》、《日向》の高校生の中心人物、神宮司、信吾が警察に連れて行かれ、後に残された者たちは、尻切れとんぼのようなこの現場から、一体どう去ったらいいものか困っていた。
「結局、茶番に付き合わされただけかよ」
《反日教》の中にも、この状態に文句を言う者もいたが、それは当然のことだ。カズヤや梅津、加賀見に喰ってかかる者もいた。
「カズヤくん、ちょっといいかしら」
絵美がカズヤを混乱の中から連れ出した。
「さっきあなたが《SIN》に行った後、あたしはかすみちゃんに、状況を見てから警察を呼びに行けって言われてたの。多分誰も、かすみちゃんたちの考えていたことを知らないわ。カズヤくんだってそうでしょ。
でもね、ここでせっかく盛り上がった勢いを、潰すわけにはいかないわ。ここは一つ、《夏青葉》としてまとめてちょうだい。お願いッ」
「そんなこと言われたって……」
カズヤは、ちらっとサキを見た。きつい視線で睨み付けられ、カズヤは自分がここに残されたわけに気が付いた。
本来なら、カズヤも警察行きのはずだが、サキたちとの再会を喜べるように、信吾が気を効かせたのだ。その代価はこの場の後片付けのようだ。
カズヤは高台に登った。
「えーっと、取り敢えず聞いてくれ!オレは日向がシンと同一人物で、信吾と通じているってことは、つい最近知ったんだけど、《日向四天王》を潰そうとした本当の理由が、まさかこんなことの所為だとは、正直ビビってるくらいで……
しかも警察ともつるんでたとは、少しくらい知らせておいてくれよってのが本音で、オレも早く本当のことが知りたいくらいなんだけど……
あぁ、何て言ったらいいかなぁ。
そりゃ腹も少しは立つ。みんなの言う通り、茶番に付き合わされた気もしないでもない。けど、ここでちょっと考えてくれ。日向や信吾のしたことは、たしかにオレら全員を利用したかもしれないけど、決して悪いことに利用してはないだろう。オレらは正義の味方みたいだったろう。もしかしたら、新聞に取り上げられるかもしれない大事件を、オレらは解決する一翼を担ったかもしれないんだ。それを誇りに思って、日向と信吾が戻ってきて、きちんと説明してくれることを信じよう!」
ちょっとだけ貫禄を身に付けたカズヤの言葉に、その場にいた全員は不思議と納得した。
彼の言葉は日向や信吾と違って、等身大の人間の言葉に感じたのだ。
「今日のところは解散だ。ここで集まってたって、何にも解決しないんだし。怪我人は、茂木接骨院に行けば、先生がきちんと診てくれるから!
あ、そうそう、今日オレらを手伝ってくれたやつを、ここで紹介させてくれ!オレの前の学校の親友で、オレなんかよりも強い五人、サキ、シキ、ポン、そして一番強いのが、コメチとナミの女子!」
「ちょっと、どういう意味よ、カズヤ!何脱色しちゃって、色気づいてんの!」
コメチは紹介され、久し振りの感動に浸る間もなく、いつもの喧嘩腰になった。
「あははははっ、悪い悪い」と笑うカズヤを見て、よくもまあ、ここまで成長したもんだと、サキは見ていた。
次回から第10部;再会〜を始めます。
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