第1部:彼女の不可解な行動-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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もう、こうなったらやけくそだ。
「ここの巫女の言い伝えは知ってるな。霊能力があるだの何のってことになっているな。今からそいつを見せてやる!」
念動で三人を宇宙遊泳のようにぐるぐると泳がせた挙句に床に叩き落としてやった。
「うげえぇぇぇ」
「つーか、マジ気持ち悪いんですけど……」
「ここは……ドコ……」
目を回して動けなくなった三人を、アキラはまるでバカにするかのように見下し、冷たい声で言い放った。
「お前ら、自分のしたこと、ようく解っているだろうな」
そのアキラの表情は、三人を凍りつかせるのに充分な冷たさを持っていた。
「えへっ、へへへっ……」
「笑ってられる余裕があるとはなぁ」
「スミマセン。本気で笑ってません〜」
「どうだかな」
アキラはサキの顎を摘み上げて言った。
「いいか、このオレの正体を見たってことは、開けちゃいけない箱の蓋を開けたようなもんなんだ。あぁいい度胸だなぁ、おい。
いいか、一つだけ約束しろ。オレがここの日蔭糸をやってる間は、オレが化けてるってことをお前ら三人だけの秘密にしておけ。オレが巫女を辞めさせてもらったら、その時はコメチをナミくらいなら話してもいいけどな、べらべら自慢話みたいに吹聴して、オレの仕事絡みの人間にちょっかい出されても、オレは責任持てないし、そんなん知ったこっちゃない。勝手に消されても文句言うんじゃねぇぞ。それが箱の蓋を開けた自己責任ってもんだ。
それと、仕事の邪魔だけはするな。こっちもプロ意識持ってやってるんだから。いいな!」
つい短気を起こしてしまい、取り返しのつかないことになってしまったアキラは、サキの顎を乱暴に突き放し、呆ける三人をその場に残したままで、瞬間移動で姿を消した。
ある意味では、信用をしていたからこそ短気を起こしてしまったのだが、もう、これで本当に後戻りができない状態になってしまった。
アキラは頭を抱えた。
―――明日からどうするかな……
早速水鏡の与えた修業は失敗し、自分の超能力を自らの短気で明かしてしまい、アキラは頭を抱えながら学校に登校した。
「よっ、元気か?」
寒稽古戻りのポンに先ず会ってしまったアキラは、思わず逃げようとした。しかし、それは自分らしくないことに気付き、アキラは怖ろしいくらいの無表情でポンを迎えた。
「何もそんなにおっかねぇ顔すんなって。大丈夫、普段通りにしろヮ」
そんなことを言われたところで、アキラの警戒心が解けるわけがない。
ポンは頭を困ったように掻いた。
「オレら、そんなに信用ないかャ……
んだ、じゃ、こうしよう。口止め料として、オレに肉まんとあんまんとピザまん奢って。その方が安心するべ」
「う……」
にっこり笑って手を出すポンに、思わず財布ごとを渡してしまったアキラだが、うっかり乗せられたような気がしないでもない。それでも一番自分を安心させる方法を取られ、アキラ自身も苦笑してしまっていた。
「寒稽古バンザイ。ラッキー、儲けた♪」
ポンは鼻歌を唄いながら、開きたての購買部に並んでいた。
そうだ、自分は一人ではない。神森にいる間は、この信頼すべき守りたい仲間がいるのだ。
普通と違くてもいいのだ。仲間がいる。ふざけていても、目的さえはっきりしていればいいのだ。
何も一人でつっぱらなくてもいいのだ。こんな自分を受け入れてくれる仲間がいるではないか。
アキラは長年の迷いから、少しだけ醒めた気がした。
自分らしくいよう。それを受け入れてくれる仲間がいる。彼らを大事にしよう。
少しだけ成長したアキラは、食べ物を前にわくわくしているポンに声をかけた。
「サキやシキ、コメチやナミの分も買えよ。今日はオレにとっていい日だから、好きなだけ買っていいぜ。オレにもあんまん一つな」
ポンは少し驚いた顔を見せた。アキラがそんなことを言うのも意外だったし、そう言ったアキラの顔があまりにもすっきりしていたのにも、正直驚いたのだ。
「了解!」
しかしポンは両手でOKを作り、笑顔で応えた。その大らかさが、彼のいいところだ。
「何これ、アキラ?どういう心境の変化?」
「いいってことよ。食え!」
大量のあんまんと肉まんを持ってきたポンとアキラに、コメチは呆れ顔だった。
「寒稽古帰りに会ったんだけど、今日はいい日なんだって、なぁ、アキラ。んで、みんなも分も買えって、太っ腹でやぁ」
「何だかよく解らないけど、奢ってくれるならラッキー」
「何だ、こりゃ」
一番遅くやってきたサキは、湯気をもうもうと立てている大量の肉まんに、大声を上げた。そこでポンがまた同じことを説明した。
「ふーん」
含み笑いをしながら、サキはアキラを見やった。
アキラも少しだけ苦笑しながら、サキに深々と頭を下げた。彼女にできる、精一杯の礼の表現だった。
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