第9部:予想外-2
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「よっ、《夏青葉》さん」
「神宮司さん、頼みます」
鈴木和哉であることを明かした以上、カズヤは先輩である神宮司を呼び捨てにするわけにはいかず、きちんと丁寧語で話し掛けた。
「気ィ遣うなよ。調子狂うじゃねえか」
神宮司はカズヤの肩に手を置いた。
《SIN》の人間には、日向=シンも、《夏青葉》=カズヤも伝わっていた。シンは正直であることを守ったのだ。
「いい、なるべくリラックスしてちょうだいね。稽古しに行くんだからね、これから」
カズヤから主導権を渡された信吾が、《反日教》を仕切っていた。
「絵美ちゃん、連絡係、よろしくね」
「任せといて」
信吾は幹部にだけは、この作戦の大筋を話していた。
―――そろそろね。
信吾は加賀見、梅津、聡に目配せをした。そして彼らは、自分の直属の生徒十人ずつに合図を送った。
体育館から帰る途中、わざとらしく遠回りの河川敷を毎回通ってきたのは、今日この日に、ここで日向が待ち伏せてくれるように願ってのことだ。理由は簡単だ。ここは人目につきづらく、喧嘩にはもってこいの場所だったからだ。
『いい、あたしたちが待ち伏せを知ってたってこと、連中に悟られちゃ駄目よ』
全員の脳裏に信吾の言葉が蘇り、身体が緊張で硬くなった。
「ひ、《日向》だあっ!」
誰かが如何にも驚いたような声を上げ、その声を合図に、両グループの戦闘が始まった。
水を得た魚のような《日向》。捨身の攻撃の《反日教》。状況は前回と似ていた。
「ええっ?道に迷った?」
「悪ィ」
「ちょっと、八時にホテル着かなきゃいけないのよ。カズヤ連れてけないじゃないのよ」
コメチに責められて、サキは鼻の下を掻いてから、髪を掻き毟った。それが彼の困ったときの癖だ。
「仕方ないっちゃ。こんなに似た路地があるんだから」
シキがサキを庇っている、いつもの構図だ。
「この川、何川?」
「あ、これだ。看板がある」
「じゃ、地図でどの辺か探せるよ」
五人は土手に腰を下ろし、付近の地図を拡げた。
「あそこに線路が架かってっけ、多分この辺だと思うんだ。カズヤの住所はこれだっけ……」
「とにかく、ホテルに八時に着く為には、何だかって駅に、七時には行かなくちゃならないのよ」
「コメチ、ごめん、今、六時半だ」
「ちょっと、もうっ!走るしかないじゃないの!」
「スタイル良くする為だと思ってさ、付き合ってくれよ」
「その手には乗らないわよ」
コメチはそう言いながらも、立ち上がって走る準備を始めた。
「で、どっちなのヮ?」
「あっち」
サキが指差した方向に、あろうことかカズヤはいたのだ。
「あ、喧嘩だ」
のんびりとシキが言った。
「シキ、そう平然と言うなよ。あれ、モノホンだべ。いやぁ、やっぱ東京は違うっちゃな。おっかねぇこた」
「ポン、あなたの方が、よっぽど緊迫感ないよヮ」
そう言ったナミは、そわそわして落ち着きがなくなっていた。アキラが暴れた時よりも怖ろしい現場には違いない。
「ね、回り道はないのヮ?触らぬ神に祟りなし、とにかく離れましょ」
コメチはわけの判らない本音を吐いて、サキの指差した方向と反対の方に歩き出し、一同はそれに続いた。
「―――!ち、ちょっと待って!」
一度は歩き出したサキが、急に立ち止まった。
土手の下の側道を、大きなバイクの集団が走り抜けていった。
「カズヤだ、あれ、カズヤだよ!」
「はぁ?何処だよ?」
今、五人の前を通り抜けていった集団の先頭のバイクの後部座席に乗っていた人間に、サキはカズヤの雰囲気を感じ取ったのだ。
或いは、超常の力を持つ者同士の何かを感じたのかもしれない。
「あの、先頭の二ケツしてるバイクの後ろのやつ!」
「何言ってんの。天然パーの事なかれ主義のカズヤに限って、面倒なことに首を突っ込むわけないじゃない。馬鹿じゃないの、サキ」
コメチは酷い言葉でサキを笑った。
「おい、待てってば!」
喧嘩に向かって歩き出そうとしたサキを、辛うじてポンは止めた。
「ここは東京だぞ。オレらに何ができるのヮ?」
サキはその言葉に、はたと足を止めた。
「カズヤに限って、暴走族の仲間になんかなると思うか?あいつは、そういうことについては真面目じゃないか。お前さんがそれをよく知ってるっちゃ。チャリンコ暴走族だっていうなら解るけど……」
「……ポンの言う通りさ。でも、ちょっと気になるんだ。カズヤが引っ越す日、アキラがカズヤに言ったんだ。とある不良グループには気を付けろって」
サキは戻ろうとはしなかったが、先に進もうともしなかった。
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