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第9部:予想外-1

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

9;予想外


 六月十日、土曜日。快晴。午前の便最後の新幹線が駅に滑り込む。

 たくさんの修学旅行生が、大きな荷物を抱えて降りてきた。

「わたし、絶対東京の大学受験するわ!」

 その弾んだ声は、とても懐かしい声。

「先ず、昼メシだっちゃ。オレ、動けないよヮ」

「ああ、もう始まった。ポンの腹減った攻撃。脳みそ胃袋でできてんじゃないのヮ。さっきあたしのお菓子、あげたっちゃ。しかも全部食べちゃったし」

「まあまあ。ポンの食い意地は重要なんだぜ。オレらが暴走しそうになった時、ブレーキになってくれるんだっけ」

「ねえ、どうでもいいけど、ボクは日本一怖いジェットコースターに乗りたい〜」

 他でもない、コメチ、ポン、ナミ、サキ、シキの、神森中残留組だ。

「でも、メインはアレよ。忘れないでね」

「勿論!」

 コメチの仕切りに、一同はひそやかに笑った。

 初日の自由行動のラストが、五人のメインなのだ。

「けどやぁ、カズヤは連絡先知ってっけいいけど、アキラはとうとう見付からずじまいだったなぁ」

「ま、ね」

 ポンは天を仰ぐようにぼやき、コメチは鼻で笑った。

「あのらしくっていいじゃない。あれで、嫌われて後腐あとくされないように出て行こうなんて、一生懸命努力してたんでしょ。それを立ててやってもいいじゃないの。ちゃんと、うちらには白状してったんだし」

「コメチ、あれは白状って言わないよ。ボクら、決死の覚悟であばいたんだよ」

 サキも、うなづきながら考えていた。


 カズヤの転校の時は、親戚とはいえども、血はほとんど繋がっていないと言っていい程、遠い親戚関係だったが、無二の親友としての関係は永遠に続くだろうと思っていた。

 しかし、アキラの時は違かった。

 トラブルメーカーとして存在し、二年間、まるで女王のようにサキを支配しておきながら、彼女は誰にも行方を告げずに去ったのだ。

 だからカズヤは捜さないでも居場所を知っていたが、アキラは連絡の取りようがない。全員、腹立たしくないでもないが、コメチの言葉通りに思い込んで、処理してきていた。

 そしてサキは、腹立たしさ半分、これでカズヤもアキラを連絡が取れなくなったという安心感半分という、相反する感情に揺れていた。

 それにしても、あのアキラとは一体何だったのだろう。五人は同じく思っていた。

 非日常を生きる不思議な少女は、いなくなると、あの強烈なまでの存在感も、風のように消えて、残り香も残さずに消えてしまったのだ。

 きっと、以前言っていた、戦いの世界とやらに、自ら戻りに行ったのだろう。そしてもう二度と会うこともない。

 でも、五人は同じことを思っていた。

 またアキラに会えるような気がするのだ。

「さ、遊園地サ行って、時間を見計らって、カズヤを迎えに行きましょ」

 五人は東京の雑踏に向かった。


 まさかカズヤは、彼らが東京に来ていることなど知るわけがなかった。ましてや彼らのメインの中に、自分が含まれていることなど、当然知るわけもない。彼らがレトロな遊園地の怖いジェットコースターに乗っている間、体育館で三十人を前に《夏青葉》を演じていた。

「今日は、本当に信じられないことがたくさん起こると思う。本当のことを言うと、みんなに言えない作戦が、伏線として準備されているんだ」

「ちょっと!」

 驚いた顔で、信吾が《夏青葉》をとがめた。作戦をばらしたら、全てが台無しになってしまいかねない。

「かすみちゃん、ちょっと聞いてくれ。秘密主義だから、この間のようなことになっちゃうんだよ。せっかく戻ってきてくれた三年にだって申し訳ないだろ」

 《夏青葉》は、きつい口調で信吾を抑えた。

 この日の為に、絵美がどれだけ苦労して抜けた三年を説き伏せたか知らぬわけでもない。

「どんな作戦だかは言えない。でも、どんなことがあっても、驚かないでついてきてほしい。そうすれば三年が心配している進学のこととかに、支障をきたすことは決してないはずだから。それは約束する」

 その場はざわついた。


「まず、この前の失敗を繰り返さない為にも、話せない作戦を信じてもらう為にも、オレの正体を出すよ。それで信じてくれ」

 《夏青葉》はサングラスを取り、かつらを被った。

「ま、敵をだますにはず味方から、なんてね。鈴木和哉は中立という立場だから、それを貫く為にも化ける必要があったんだよね。黙っててごめん」

 カズヤは頭を下げ、非難されるのを待った。ところが、上がった声は喜びの声だった。


 それもそうだ。鈴木和哉が強いことは、《反日教》の誰もが知っているし、知っている人だからこそ、《夏青葉》なんて胡散臭うさんくさいやつよりも信じられる。

 カズヤはほっとして、顔を上げた。

「オレはまた別人に化ける。初めは鈴木和哉も、《夏青葉》も姿を見せない。でも、安心して、加賀見や信吾の言った通り、練習通りに動けばいい。絶対《日向》は壊滅状態におちいるから」

 どよめきが起こり、一同に闘志がみなぎっているのが感じられた。

「じゃ、頼むぜ。オレは別の所に行くから」

 カズヤはそう言い残し、《SIN》の事務所に向かった。




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