表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/77

第8部:解けた方程式-7

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

「責める気はないさ」

 なじられる覚悟はできていたのに、違う言葉が聞こえてくる。

「ただ、今度こそ三人で話し合うべきじゃないか。メンバーの失敗を誰がフォローするんだ?

 お前たちのやりたいことを手伝うことと、お前の駒になることと意味が違うことくらい解るだろう」

「……カズヤくん、あなた、変わったわね」

 腕組みし、厳しい顔をするカズヤの目を見て、信吾はようやく口を開いた。「勿論、良い方によ」

 それだけ言うと、彼は窓の外へ身を投げるようにして、茂木接骨院へ戻って行った。


「《反日教》が実戦に備えて頑張ってんの、知ってます?」

 テルヒは日向と話していた。

「勿論。テルヒのことだから、相手にならないと思ってるだろ。でも、あなどるなよ。かすみちゃんと《夏青葉》は、自分一人だけなら強いからなぁ」

「当然、あの二人を侮ってなんかいません」

「違う違う。《反日教》のメンバーが、少なくともその二人に迷惑をかけないくらいになっちまうと、あの二人の強さが増すってことが問題なんだよ」

「解りました、侮ったりはしません」

 口では日向に従いながらも、面従腹背めんじゅうふくはいのテルヒは、《反日教》の思惑通りに、やはり侮っていた。

「でさ、六月十日くらいに稽古つけてやんなよ。こっちの都合とやつらの体育館の予約状況からすると、十日くらいがいいと思うんだ。オレもその時には行くから」

 テルヒは、日向がその場におもむくということに少し驚いたが、それを顔に出したりはしなかった。

「解りました。車を準備しましょう」

 そう言って、テルヒは日向の前を辞した。


「で、こちらの仕入れた情報だと、十日、ここから帰る途中に、《日向》は稽古を付けてくれるそうだ。少なくとも実戦経験のある加賀見やかすみちゃん、オレは、《日向四天王》相手も負けるつもりはない。あとはみんなが自分のことだけでもできれば、《反日教》は負けない。ということで、頑張ろう!」

 《夏青葉》は、体育館に集まった三十人弱の《反日教》のメンバーを前に、堂々と声を出した。

 ここにいる全員の能力は、全て把握しているつもりだった。これから三人で話し合う為に。


 三人。


 この戦いの本当の意味を知っている、信吾、日向、カズヤ。

 彼らはそれぞれ属するメンバーの目に触れない場所、カズヤの自宅に集まっていた。

「オレ、当日に正体を明かそうと思うんだ。これ以上《反日教》を動揺させて、三年が抜けた時のようにしたくないんだよね」

 カズヤは他の二人を前に、自分がしたいことを言った。

「大丈夫かよ。だって、作戦自体がどんでん返しの連発なんだぜ。余計動揺しちまうかもよ〜」

「じゃ、辞めるか」

「誰も、辞めろとは言ってないじゃん」

 信吾は黙ったままだ。

「《夏青葉》がそうしたいなら、そうすりゃいいんだよ。オレらは事前に知ってれば、いくらでもフォローはできるし」

 日向は言った。


「カズヤ、お友達に夜ご飯、食べてってもらいなさい!」

 台所から、カズヤの母親が大声を出した。

「困ったなぁ、オレ、失礼させてもらうよ。好き嫌い多いからさ」

「あたしも」

 二人は立ち上がった。

「かすみちゃんは残ってくれよ。小母おばさんのことだ、もう作ってくれてるだろうからさ」

 日向は信吾の肩を押し、座らせ、手を合わせた。「頼む、オレの代わりに残ってくれ」

 信吾はため息をついた。

「大悪人だから、今更いづらいのよ、あたしだって」

「おお、そうだ。大悪人だから残れ。それで全部水に流してやろう。な、カズヤ」

「そうそう、助かるよ、そうしてくれると」

 カズヤはそう言うと、「母さん、一人用があるから帰るって」と、信吾を座らせたまま、日向を玄関まで送った。


「なあ、どうして日向が《夏青葉》じゃないんだろね」

 カズヤは何気なく言った。

「さあな。アキラの気分だろ。オレの知ったこっちゃないさ。小母さん、ごめんなさい。これから塾なもんで。お邪魔しました」

 肩をすくめてみせたところに、カズヤの母親が見送りに現われた。

「また来てちょうだいね。あ、そうそう、信吾ちゃんは嫌いなもの、あるかしら?」

「ないですわ」

 カズヤの母親は、まるで息子たちの苦悩を知るわけがなく、楽しそうに台所に戻っていった。

「いいお母さんだな」

「まあね。楽天的なのが、オレに似てるかな。全部終わったら、母親の手料理をご馳走するよ」

「って、カズヤ、この間のおごりをそれで消化するつもりか」

「バレた」

「……バレバレじゃん。ま、いいけど。じゃ、作戦通りってことで。かすみちゃんの機嫌、取ってやってくれよ」

「了解」

「ところでさ、《SIN》って、本当はどういう意味なの?」

「すっげえ(Super)インテリ(Intellectual)な人間(Ningen)の略」

「はぁ?」

「まあ、気にすんな。オレの名前だよ」

 日向は気楽に帰っていき、カズヤが信吾の機嫌を取ることに苦労したのは、言うまでもなかった。




文中、どうしてもルビが上手にふれていない箇所がありましたことをお詫び致します。


次回から第9部;予想外〜を始めます。




日本ブログ村とアルファポリスのランキングに参加しております。


お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ