第8部:解けた方程式-4
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「なななななっ、なんだよっ、お前はっ!」
「そっ、その声!どうしてお前がぁっ!」
駅の外れで、二人はお互いを指差し合って絶叫した。
「お前、それ、鬘か?」
《夏青葉》は、シンの髪を引っ張った。
「違うよ。あっちが鬘。これは地毛。痛えなぁ、もう。ちったぁ、加減しろよな。きみこそ、ナニ派手に脱色してんだかなぁ」
「煩っせえ、ほっとけよ。
っつ―か、無免許だから、バイクに乗れないだけじゃねえか、お前。何、格好いいこと言って、神宮司の後に乗ってんだよ」
「んなこと、どうでもいい。オレは、きみだけは……、きみだけは本当に信じてたのに。アキラとの約束守って……」
サングラスをお互い取って、二人が大声を上げたのにはわけがあった。
そこにいたのは黒髪の日向。
そして銀髪のカズヤ。
日向は明らかに動揺していた。目の前にカズヤがいるとは思っていなかったのだ。
「アキラか……。って、どうしてアキラとオレの約束を、お前が知ってんだ?
……お前、やっぱ信吾とつるんでるな!」
アキラとの約束のことは、信吾以外は話していないことに、カズヤは気が付いた。
黒髪の日向は、頭を抱え込んだ。
「……この、日向=シンの方程式を知ってんのは、神宮、かすみちゃん、そしてきみだけだよ、カズヤ。
この方程式を解いたきみには、もれなくオレらの計画に協力する義務というご褒美があるんだな〜」
「どんなご褒美だよ」
シンの格好のまま、日向は例の軽い口調で話し続ける。
「まあまあ。ってことで、きみの話は解決したんじゃないか。だって、きみ、シンと手を結びに来たんだろ、どうせ」
どうにも釈然としないカズヤは、憮然とした表情を隠そうとしない。
「要するに、オレはお前と信吾の芝居に乗せられただけなんだな」
「そうでもないかもよ〜。まさかかすみちゃんは、きみが動くとは予測してなかったろうし」
日向はため息をついた。
「本当のところ、まさか《夏青葉》が乗り込んでくるとは、オレも思ってなかったなぁ。だからここで顔を見せるつもりもなかったし、最後までオレとかすみちゃんは、カズヤも《夏青葉》も騙し抜くつもりだったんだよ。
オレは面倒臭かったから、ま、いっかと思って今、顔を出したんだけど、まさかきみがなぁ……」
「っつーか、日向さあ、信吾とつるんでながら、オレが《夏青葉》やってるって、知らされてなかったのかよ」
日向は頷いた。
「だって、相手かすみちゃんだし。あいつは結局自分勝手だから、自分の作戦を最優先してるんだよ。オレのことも、きみのことも、所詮は自分の手駒くらいにしか思ってないんじゃないの〜」
日向は神宮司の方を向いて、肩を竦めてみせた。
「というわけだ、神宮。かすみちゃんにやられたよ、二人揃って。オレ、こいつと少し話してから帰るからさ……」
「はいはい。取り敢えず、二人とも目立つから、ここも離れた方がいいと思うぜ。《日向四天王》はこの辺も荒らしているんだしさ。いっそ終点まで行っちまえよ。じゃな」
神宮司はそう言うと、隣のホームに走って行った。
神宮司の勧めに従って、二人は下り電車に乗って、終点まで行った。そこまで行くと、県も二つ目だ。
そこから少し歩いて、二人は国道沿いのファミリーレストランに入った。そこまで、二人は無言だった。
「ピーチの本当の姿のことは、神宮は知らないんだ。神宮が知ってんのは、日向は《日向》を潰す為にいるということだけ。《反日教》のことは、ただ単に、内申を盾に取って生徒を締め付ける教師に対する反抗くらいにしか思ってないんだ。だから神宮には《反日教》の連中が甘ったれてるように見えて仕方がないのさ」
「そりゃあ仕方ない」とカズヤは笑った。
「だろ。ま、そう思う神宮の気持ちも解らないでもないけど、オレとかすみちゃんにとってはどうでもいいことかな。オレらはピーチを潰すことが目的なんだから」
日向の前には、甘い白玉ぜんざいがある。
「お前も冷たいよな。信吾のこと言えないじゃないか」
「それを言ってくれるな。これでも悪いとは思ってるんだ、オレは」
しかもぜんざい二杯目だ。どんだけ甘党なんだとつっこみたくもなる。
「ふーん。でも、そのピーチのことだけど、信吾は一人でやるつもりらしいぜ」
「そうじゃないんだ。オレがやれないだけなのさ。オレは日向として、《日向四天王》をボロが出るように操って、かすみちゃんが動きやすいようにしなくちゃならないんだ。オレがそれをしないでピーチにかまけてたら、四人がオレの秘密を暴いちゃうだろうし。
大体、あの連中はことあるごとに自分たちは自由だと言うけど、あいつらの言う自由なんて、あれは自由なんじゃない。自分は縛られたくないってのは解るけど、あいつらは、逆に自分の法で縛りたいんだよ。ただの我儘小僧みたいなもんだ。大人だったら支配欲の塊だよなぁ。
でも、そんなんでもついていく人間が不思議といる。こっちには理解できないけど、よくありがちなパターンさ」
日向は惜しげもなく種明かしを続ける。
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