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第8部:解けた方程式-3

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

 一方カズヤは、これもまたサングラスをかけ、物凄ものすごく近寄りがたい雰囲気を作って、電車に乗り込んだ。

 鈴木和哉である為のくせっ毛の強いかつらを脱ぐと、不本意ながらその髪はほとんど銀色に近い白髪に脱色してしまっている。その髪を逆立てて、全身レザーで固めていれば、一般人は怖がって、その車両から離れていく。つまり、《夏青葉》のいる所が一番空いている車両になるのだ。

 カズヤがこの電車を指定した理由はちゃんとある。この電車は最寄り駅で特急の追越しの為に、五分間も停車していてくれる。


 広い車内に《夏青葉》一人。身長が百八十センチを超す大男が、大股広げて車内に陣取っていれば、一度その車両に足を踏み込んだサラリーマンも、思わず違う車両に移動してしまうほどの迫力がある。

 外までシャカシャカと音漏れさせて聴かないジャンルのハードな音楽を聴き、ふてぶてしくガムをくちゃくちゃと噛みながら、濃いサングラスの内側で、カズヤは神宮司一人が車内を歩いて、いるはずもない信吾を捜しているのを見ていた。

―――早く気付いてくれ〜〜〜

 あくまで演出の為とはいえ、聴きなれない音楽で頭が痛くなってきたカズヤには、神宮司が救世主に見えてきた。

 でもあの神宮司の様子では、《夏青葉》に化けた自分の前を素通りしかねない。 

 カズヤは腕組みをし、うつむいたまま神宮司が自分の前を通るのを待った。

 しかし一番空いている車両と条件を出したのだ。現状に気付かないわけがない。


 その足が自分の前で止まったのと同時に、に、《夏青葉》もその歩みをさえぎるように長い足を出した。

「オレは、シン一人で、と書いたはずだったが」

 神宮司は想定外の人物に驚きの表情を少し見せたけれど、それはすぐに不敵な笑みに変わった。

「差出人不明のファックスは、お前だったのか、《夏青葉》。わざと名前を出さなかったか、ただのおっちょこちょいなのか」

 声色をちょっとだけ変えただけで、神宮司はカズヤには気付いていないようだ。

 取り敢えず第一関門は突破だ。

―――スミマセン……おっちょこちょいだったんです。

 その言葉は当然言えるわけがない。


「話は何だ?」

 《夏青葉》は、神宮司の問いには無言で答えた。

「解ったよ。シンにしか話さないってんだろ。リーダーなんてそんなもんさ。うちのなんか顔隠しっぱなしだし、まあ、用件は粗方見当ついてるしな。待ってろ」

 別に気分を害した様子もなく、神宮司はシンを呼びに戻った。

 「はあ」とカズヤは小さくため息をついた。ばれるんじゃないかと緊張して、心臓の音が外まで聞こえてしまいそうだ。できることならもっと大きく「ぼへ〜」っとため息つきたいところだが、見られては失敗なので我慢する。


 しばらくして、シンが神宮司と共に現われた。

「これは意外だったな、《夏青葉》。取り敢えず、初めましてかな」

 シンは口の端をわずかに上げて、皮肉めいた笑みを作ったのだが、それはマスクの下に隠れていて、《夏青葉》から見えるわけがない。

「お話をうかがう前に、お顔を拝見させてはいただけませんかね。以前も隠していらっしゃってたし」

 カズヤだったら『見せてあげるから仲良くしてね』と喜んで顔くらい見せてあげたいところなのだが、今は《夏青葉》だ。顔すら駆け引きの道具にされている。

「自分のことを考えてから言ってもらいたいね。ヘルメットを脱いでりゃいいってもんじゃないだろう。

 それとも、お風邪でもお召しになられましたかね」

 《夏青葉》は、努めて無愛想に言った。

「たしかに。たしかにそうだ。乗ってくれるわけないよな」

 シンはハハハッと大声で笑ったものの、少し考え込んだ。

「オレはあんたが顔を隠すなら、オレも見せるつもりないね」

 お前に考える余地なんかあるのかよ、とばかりに、《夏青葉》はシンに言った。

「お前さん、かすみちゃんに言われて来たのか?」

 《夏青葉》は首を横に振って否定した。

「じゃ、あいつは何も知らないんだな。

 ……よし、他言しないと誓えるな」

「何だか解らないけど、お互い交換条件みたいなものかよ。まあいいだろう」

 《夏青葉》は安請やすうけ合いした。

 そんなにあっさりシンが顔を見せるとは思ってもいなかった。だから自分も素顔を見せることもないだろう。

 しかし、神宮司だけは顔色を変えた。


「シン、お前、まさか……!」

 神宮司が大きな声を上げた。

「いいんだ、神宮。オレはかすみちゃん抜きで、こいつと話がしてみたかったんだから、今後の為に」

 とがめるような眼差しの神宮司を制すると、シンは次の駅で降りるよう、あごで示した。

 特急通過待ちをしていた電車はとっくに動き始めていたし、何れにしろ次の駅なら隣の県に移っているから、双方の勢力から多少は離れる。つまりは顔を出しても危険度は低くなるというわけだ。

 無言のまま次の駅まで約十五分。

 電車の扉が開き、三人は下車した。


「ま、これで、三つの勢力の方程式が解けるわな」

 ホーム外れの暗い所で、シンはマスクを外し、次いでサングラスを取った。

 その目をじっと見て、カズヤは息を飲み、それからシンを指差して大声を上げた。




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