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第8部:解けた方程式-2

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

 のぞき見た事務所の中は至ってシンプルで、パソコンとファックス、あとは飲食の為の物以外の電化製品はない。屯している連中のバイク雑誌や勉強道具は雑多に散らばっている。

―――さて、どうしたものか?

 室内をもう一度確認してみると、なんと親切なことに、ファックスに番号が貼られている。こんな有り難いことはない。

 メールアドレスは見当たらないからパソコンは使えない。

 カズヤはそのファックスを使うことを思い付き、ファックスサービスをしている近所のコンビニに急いだ。

 でもそのファックスは、シンその人が手にしなければ全く意味がない。ファックスを送信しながら、カズヤはシンがファックスの横に座ってくれることを祈った。

 カズヤは当然知るわけがないのだが、シン以外は、送られてきたファックスを手にしないのだ。彼の仕事のものが含まれているという理由なのだが、ただ彼の正体がバレない為の工作かもしれない。大体、彼の部屋に勝手にたむろしているメンバーが、彼宛のものを勝手に見るわけがない。


『九時五十三分発下り線の、一番いている車両で会いたい。シン一人で来てほしい』

 カズヤはファックスを送ってから、名前を書き忘れたことに気が付いた。

―――《夏青葉》くらい書いときゃよかったか。ま、いっか。この格好だし、すぐ向こうも気付くだろ。

 カズヤは楽天的に考えると、シンが何と言うかを聞く為に、事務所のベランダに瞬間移動した。彼の遠見では、声を聞くことまではできない。隠れて声を聞く為には、ベランダまで行くしかない。

 その場所からは、シンの後ろ姿しか見えなかったが、その姿は間違いなくシンだ。相変わらず室内でも、サングラスをかけて顔は隠しているようだ。

 シンは送られてきたファックスを無造作につかみ取ると、一瞥いちべつしただけで無造作に丸めてごみ箱に捨てた。

―――おい―――っ!

 カズヤは思わず脱力した。あまりに酷すぎる扱いだ。

「何、どうしたのさ?」

「よく判らん営業ファックスさ。最近多いんだよ」

 一人の問いに答えると、シンは神宮司の方を向いて、何やら合図を送ったようだった。

「おい、ごみ箱一杯じゃねえか。ったく、自分の事務所のゴミくらい、自分でまとめろよな。いっつもオレがまとめてやってんじゃんか」

 神宮司はそう言って立ち上がり、今送ったファックスを捨てたごみ箱のゴミを、まとめ始めた。

「悪いねぇ、いつも。はははっ。A型人間は神経質だから」

 シンはそうおちょくっていたが、カズヤはすぐに気が付いた。カズヤの呼び出しに応じたのは、シンだけではなく、神宮こと神宮司唯一もだ。

―――ま、いっか。

 カズヤはもう少し様子をうかがおうとしたのだが、神宮司がまとめたゴミを、ベランダに出そうとこちらに向かって来るではないか。カズヤはあわてて、上の階のベランダに逃げた。冗談ではない事態だ。


「誰だと思う、シン」

「かすみちゃんだろな。ヤツならやりかねない。オレらが《日向》と手を結んだと知った上で、わざとこういう行動を取ったんだろう。他のメンバーに見せ付ける為にな。で、場所を特定されない為にって言うか、溜まり場に迷惑かけないように、コンビニから送ってきたんだろうな」

「オレもそう思う。行くか?」

「勿論。面白くなりそうじゃないか、両方で遊ぶのも」

 神宮司と一緒にシンもベランダに出て、他のメンバーに聞かれないような小声で話をしていた。

―――ラッキー。

 カズヤは心の中で、ガッツポーズを取った。自分の思惑通りにシンが動いてくれたばかりか、こうして声が聞けたのだから。

 それにしても、シンと神宮司は日向や信吾以上の策士かもしれないと、カズヤは思った。咄嗟のシンの行動もそうなのだが、それを合図だけで理解する神宮司に、カズヤは感嘆した。《反日教》の中ではあり得ない。


 今は九時を少し回ったところだ。もう少しで二人は出発するだろう。

 カズヤはその場を後にした。いくら何でも、動く電車の車内に瞬間移動をするわけにはいかない。ちゃんと切符を買って、改札を通って乗らなくてはならないのだ。


「それにしてもさ、差出人くらい書けってんだよ。なあ、シン」

 事務所を抜け出した二人は、ヘルメットを脇に抱えて歩きだした。

「ほっとけよ。あいつは結構自分勝手だからな、もし判らなかったら、理解できない相手が悪いと思い込んでんのさ。ほら、行くぞ」

 シンは歩きだそうとしない神宮司を促した。

「シン一人で来いってあったじゃないか」

「いいんだよ。リーダーのオレを呼び出すってのに、あっちは盟主の《夏青葉》が来るんじゃないんだぜ。お相子さ」

 シンは悪怯わるびれもせずに言った。

「それにしてもさ、空いてる車両なんて、漠然としたこと言うよな、かすみちゃんも」

「あいつはあれで、回りくどいことが好きなんだよ。困るんだよな、こっちはよ。大体、空いてる車両ってことは、その電車に乗るってことだし、適当に探すか」

「お前も結構いい加減だよな、シン」

「お相子さ、これも」

 偉そうに笑うシンは、マスクまでかけた。顔はあくまで隠したいのだ。




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