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第7部:インターバル-6

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 狙い通りに言葉に反応したカズヤを見て、信吾は妖しい微笑みを浮かべた。お人好しのカズヤは、面白いくらいに、思惑通りに動いてくれる。


「直接いても教えてくれないだろうからね、ピーチの出入りしてる店の予約データに侵入したの。そしたら六月の十七日に名前があったわ。人数は三人だってのに、角部屋の座敷とその隣の二部屋借り切って、周りに話が聞かれないようにする念の入れようよ。怪しいったらありゃしない。ま、別の思惑もあるでしょうけどね」

 信吾の最後の皮肉など、お坊ちゃまのカズヤが気付くわけがない。

「その日に行くのヮ?」

 下を向いたまま、つぶやくようなカズヤの問いかけに、信吾はまるで幼子おさなごのようにうなづいた。

「同時進行は難しいから、あたしは《日向》とのケリも、それまでに着けるつもりよ」

 仕草も口調も女の子らしいのに、意志の強さや闘争心の強さは人一倍だ。うまく雰囲気で隠しているのだが、もうカズヤは知っている。


「なあ、信吾」

 カズヤは、前々から聞こうと思っていたことを、今聞くことにした。

「あのさぁ、お前が《反日教》としてケリを着けたい相手って、《日向四天王》なんだろ。

 だってピーチとつるんでるのは《日向四天王》で、日向じゃない。ピーチが自分で日向のことなど嫌いだって言ってたくらいだから、そういう意味では無関係ってことになると思うんだ。

 信吾、お前、日向のことは、本当はどうでもいいんじゃないのヮ?見てるとそんな気がしてくるんだ」

 カズヤは信吾の顔を見ず、やっぱりカップを見つめたまま言った。


 しばしの沈黙。


「あはっ、バレてたぁ?」

 信吾は黄色い声で、わざとらしく笑ってみせた。

 厄介やっかいな相手だ。カズヤは大事にされすぎて育っているから、他人の事情の機微きびうといだけで、バカではないのだと、今更ながら気付かされる。

 ここで下手にごまかそうとしたら、それは返って逆効果になる。

「バレてたら、本当のこと言わなくっちゃねぇ。

 実際あたしもね、加賀見と似た口なのよ。

 《日向四天王》をぎょし切れてないあいつは、総長として失格だし、そこはとてもゆるせないとこよ。けどね、あいつの人柄は憎めないのよねぇ。だって、アレでしょ。見たまんまのバカだし」

 カズヤは顔を上げて信吾の顔を見た。その目は、「とうとう白状したな」と言っている。


「あ、でもね、あたしは決して内通はしてないわよ。あくまで、あたしはあいつらを倒す為にやってるんだから、この《反日教》を。そこは誤解しないでもらいたいわ」

「それは解ってるさ。『そこまで悪人じゃない』んだろ。そこは信じるさ。一応秘密をばらした仲なんだし。

 カズヤは苦笑した。彼は嘘はついているかもしれないけど、裏切ることはしないんだと、直感がそう言っている。

「でも、これだけは教えてくれ。《日向四天王》とピーチと、ヤバい人たちとの関係。信吾がそれにこだわる理由。別にお前一人が背負う問題じゃないだろ。」

「カズヤくん、あなたって、結構勘が鋭いわよね。無意識なんでしょうけど」

 信吾は少しだけ、困った顔を見せた。


「ピーチは暴力団関係の男と関わってる。《日向四天王》を使って、ヤツは学生相手にヤバい薬を売って、その中間マージンを取ってるのよ。あたしはそれを偶然知ってしまったの。この問題は、誰も知らないわ」

 カズヤは開いた口がふさがらなかった。手にしていたコップを落としそうになったくらいだ。

「そんなの、警察に言えばいいじゃんか!」

 それが正論だ。中学生の太刀打たちうちできる話ではない。まさに『信吾が一人で背負う問題』ではないではないか。

 信吾は涼しい顔でコーヒーをすすっている。

「駄目よ。だって、ピーチのお兄さん、警察のエリートだもの。今の警察はいくら不祥事続きで身内にも厳しいとはいえ、ピーチだってバカじゃない。

 あいつは巧く捕まらないような、ぎりぎりのラインで動いているから、お兄さんも弟の無実を信じちゃうのよ。そんなもんでしょ。警察だって所詮は人間ですもの。悪意ない人間が身内を疑うわけないわ」

「そんな……」

 カズヤは絶句した。そこまで判っているのなら、どうして頑張るというのだ。

「そんなもんよ。ピーチを簡単に捕まえさせることなんかできないのよ。

 それにあたしたちが警察に通報したら、かえってあたしたちが目を付けられちゃうでしょ、教師たちに。それは面倒臭いからね、だから、未だ子供の《日向四天王》が、失敗してくれるのを待ってるの。尻尾を出さないなら、こっちが引き出すまでよ」

 信吾はため息をついた。


「でも、警察があてにならなくても、どうして信吾がそこまで拘る理由があるんだ?」

 カズヤは、信吾の燃えるような憎しみに充ちた眼差しを見逃さなかった。それは暴走したアキラ以上に、激しいものだった。

「自覚がないから、その勘の鋭さも厄介物なのよね。いいわ、あたしの生い立ちを話すわ。理由を知らされないままに手を貸す程、いくらなんでも、カズヤくんだってそこまでお人好しなわけないしね」

 信吾はコーヒーを飲み干した。




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