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第7部:インターバル-2

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 今更、自分の焼刃やきばの浅はかな作戦を後悔したところでどうにもならない。

「信吾じゃないけど、去るものは追わないってことでさ、先を考えなきゃ。

 聡、一、二年はどうなってるのヮ?」

 カズヤは話を進めた。

「こっちは何も聞いてないですけど……」

 聡は答えた。

「じゃ、何か変わった様子はないかャ?」

「それも、別に。こっちには理想を追うだけの余裕が、年令的にありますから。

 我々は素直に《夏青葉》の行動を理解してますよ。今は勢い付いているくらいです。

 ただ、三年が辞めるって話の影響はどう出るか……」

「ま、それはどうしようもないっけ、おいおいってことでいいよヮ」

 カズヤは取り敢えずはほっとした。この時点であからさまな離反があったら、もう救いようがないというものだ。

「そっか、やっぱ受験が響いてるかもな。高校受検をフイにされるくらいなら、自分を曲げて生きた方がいいって思うのは当然だろ。高校の失敗は一生引きずりかねないもんだろうから」

 優等生を装う梅津が分析した。

「そうね、きっとそれよ。あたしだって、同じこと考えたことくらい、何度もあるもん」

 絵美も同調した。

 やはり信吾は黙っている。

「でもさ、初めっからないものと、あったものがなくなるってのは、気持ちの上でも何か違うなぁ」

 加賀見がぼやいた。

「それは言いっこなしよ。今日のところは解散しましょ、一応。考えるのは明日。ね、かすみちゃん」

 絵美は信吾の肩を軽く叩いて、その場を仕切った。

「そうそう、今考えたって、大していい考え浮かばないだろうしさ。ゆっくりみんなの出方を待とうぜ」

 加賀見も努めて明るい口調で言った。


 勿論、皆、信吾を気遣ってのことだ。いまだかつて、ここまで混乱しているような無表情な信吾を、誰も見たことがない。アキラがいなくなるという話を聞かされた時だって、ここまで動揺したりはしなかった信吾なのだ。

「やっちゃったことはどうしようもないんだっけ、これからどうするかが重要だろ。

 オレもじっくり考えるから、今日は帰ろう。要はオレの考えが甘かったから、こういう結果になっちゃったんだし」

「それもそうだ。少し様子を見ないことには判断出せないし」

 「よし」とけじめをつけるように加賀美が立ち上がり、それにならって一堂は立ち上がった。カズヤも立ち上がり、信吾にも立ち上がるように手を出したが、彼はそれを拒絶した。

 一同は顔を見合わせた。ここまで落ち込んでいるとなると、もう誰もどうにもできない。後は彼自身がどうにかすることだし、彼は一人になりたがっているということだ。

「じゃ、先に帰るよヮ」

 その信吾の気持ちを察し、カズヤたちは部屋を後にした。信吾の希望通りに、彼を一人にしておいた方が、彼にとってはいいだろうと映ったのだ。

 それにかける言葉も見つからない。


「たしかにあたし、数に甘えてたわ。たった数日前に顔をそろえただけの仲間だけど、目的を同じくして水面下でこらえてきた仲間だと、信じて甘えてた。

 けど、結局は解り合う為の時間がもっと必要だったのね。何も理解し合えていない人間を仲間と思い込んで、あたしはそいつらに甘えていただけなのよ。バカだったらありゃしない……」

 誰もいなくなったのを待っていたかのように、信吾は一人でしゃべりだした。力なく障子に寄り掛かったままで。

「ねえ、どうしたらいい?今日のカズヤくんは、あたしよりも冷静だった。まったく、嫌になっちゃうわ。

 他人ごとだからじゃなくて、ちゃんと受け止めてて、尚且なおかつ冷静だったわ。どんどん成長してくのが、あたしにはよく見える。そして成長して、みんなあたしを置いていくのよ。

 カズヤくんが本当の《夏青葉》になった時が、あたしが消えなくちゃならない時……。

 そんなに嫌なら、《夏青葉》なんか育てなきゃいいのにね、あたしったら。ほんと、バカよ」

 信吾は自嘲じちょうした。


 彼は一人、障子に映る自分の影に愚痴を言い続ける。

「アキラちゃんも、決してアキラちゃんの言い付けに逆らったりしなさそうなカズヤくんが、まさか逆らってるなんて、夢にも思ってないでしょうね、きっと。

 だって、カズヤくんは絶対アキラちゃんのことを好きだし、絶対正しいと信じているわ。アキラちゃんの名前が出た時の表情っていったらないもの。完全に手懐てなづけられてるわね。それを知らないアキラちゃんじゃないわ。

 でも、そのカズヤくんが言いつけを守るどころか、盟主になんかなってるなんて知ったら、アキラちゃん、どんな顔をするのかしらね。想像するだけで面白くって、わくわくしちゃわない。

 ……ふふふっ」

 と、信吾は顔を上げた。

「面白いわ、この作戦」

 上げた信吾の顔は、あの策士の笑みを浮かべていた。瞳はうって変わって、生き生きとしている。

「未だ負けないわ。第一ラウンドは負けたけど、今度は頭で勝負するわ。精神力が強い方が勝ちよ。まあ、見ててらっしゃい、オジさま方は」

 自分の影に決然と言い放つと、その表情に闘志をみなぎらせ、信吾は立ち上がった。


 が、障子に映っていた信吾の影は、彼が立っても座ったままだった。




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