第6部:第一ラウンド-5
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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いつものように集合をかけ、そしていつものように《日向四天王》を中心に歩く。
しかしいつもと心構えが違っている。
油断するなという、総長日向の命令だ。
「そんでもって、あいつの言うことって、その通りだから余計にむかつくんだよ」
「いい加減に放っときなさいよ、川上。
どうせ《日向》の中に、日向本人の味方なんていないんだから、気を病むだけ無駄よ。大体ね、あたしたちは覚悟決めたじゃない、四人で組んであいつの下に就いた時に。あたしたちの行動に、あいつの頭があればいいだけなんだから、使うだけ使って捨てちゃえばいいんだって。ほら、あいつ、実戦はできないんだし、怖いことなんかないでしょ」
「それもそうだ」
四人は辺りに気を配りながら、自分たちにだけ聞こえるくらいの声で喋っていた。
《日向四天王》の取り巻きは、《反日教》の人数を予想してか、三十人近くいる。素人集団の《反日教》には厳しい人数だ。
「あらあら、奇遇ねぇ、こんな所で」
隠れて待機する部隊は先に出発していたから良かったものの、信吾たち五人は、予定外に路上で待ち伏せをされていた。
信吾は動揺を見せずに声をかけたが、実際は困っていた。
「日向の目は誤魔化せなかったのね、四匹の子ブタさん」
「そういうことね、かすみちゃん」
テルヒも信吾に負けずに睨み返した。
「にしても、愚かな……」
そう言った岩城の言葉には、信吾に限ってという想いが込められていた。
本当に信吾は困っていた。予想以上に相手は大人数だし、しかも逆に待ち伏せをされていながら、この人数を公園まで引っ張って行かなければならないなど、到底できない。
一人だったらかえって可能なことも、うっかり人数に頼っていることが仇になってしまっている。
この様子を遠見能力で見ていたカズヤは、《夏青葉》になる前にカズヤとして助け船を出すことにした。
《日向四天王》は、少し離れた所に警察対策の見張りを置いていた。カズヤはその目の前を自転車で通り、現場を目指した。
「鈴木だ!鈴木和哉が来たぞ!」
「何?」
《日向四天王》は身構えた。
「加勢か?」
殺気を立っている現場に偶然を装って現われたカズヤは、その《日向四天王》の問いかけを笑い飛ばした。
「冗談。《反日教》対《日向》だろ。信吾、悪いけど勘弁させてもらうよヮ。オレ、どっちとも関わりたくないっけ」
「お昼はあたしの仲間を救けてくれてありがとう。一応お礼はしておくわ」
「ああ、さっきの坊やは仲間だったんだ」
「そうなのよ。でもね、ここまで救けてほしいなんて、あたしも虫のいいことは考えてないから、安心して」
「助かるよ。じゃ、頑張って、ケガしないように。それと余計なことかもしんないけど、ここじゃ邪魔だから、公園かどっかでやれよ。もう、マジでご近所迷惑ってやつだし。
ってことで、じゃあな〜。オレ、図書館行くから」
表向きは進学一筋のカズヤはその場を後にすると、誰にも見られない所で《夏青葉》に戻った。
しかし現場は、そのカズヤの一言をきっかけにはできなかった。
まあ、そんなものだ。
二つの勢力は、未だ睨み合ったままで、攻撃のタイミングを計っている。
《夏青葉》は現場に向かった。
彼らは一般人には目もくれない。《夏青葉》に化けたカズヤになど、眼中にないようだった。
でも信吾なら、《日向四天王》が全く別なものに目を向ければ、すぐに走り出すはずだ。
カズヤはわざとらしく、血の気の多い川上を、ぶつからんばかりの勢いで睨み付けた。
「んだぁ?てめぇ、どこ目を付けて歩いてんだよ!」
単純な川上は、昼休みの教訓を生かさずに、変装したカズヤに喰ってかかってきた。
少し大きめの濃い色のサングラス。白髪かと思うくらい脱色した短めの髪。しかも身長は高く、胸板も厚い如何にも胡散臭い外見の男は、「邪魔なんだよ、くそガキが!」と言うなり、力一杯川上を殴り飛ばした。
そのチャンスを、信吾は逃したりしなかった。
「逃げてっ!」
「待てっ!」
《日向四天王》は、得体の知れない男一人など、たった一度の逢瀬と思ってその場に捨て置き、逃げる信吾たち五人を追い掛けた。
公園で、信吾たちは《日向》の三十人に囲まれた。
「逃げたつもりかよ、これで」
路上よりも溜り場にしているこの公園の方が、《日向》にとっても有利だった。
普通に考えれば、そうなる。
これは檻に飛び込んできた鼠のような状況だ。
それなのに信吾は「ええ」不敵な笑みを浮かべた。
しかしその笑みの意味を推し量れるような人材は、目の前の《日向》の中にはいない。日向本人がいないのが幸いだ。
「やっちゃいなっ!」
《日向》はテルヒの声を合図に、五人に襲いかかった。
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