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第1部:彼女の不可解な行動-4

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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「だって、あなたはずっと、和哉くんのお兄さんをしてきたでしょう。彼がいなくなって、寂しいんじゃないかしら」

 巫女の取ってつけたような言葉に、サキは小さな微笑を浮かべた。

「そんなねぇ。あいつは自分が世話されているのを解っているからいいけど、アキラは全然解ってないから困るんですよ。

 オレの世話好きは認めるけど、相手が素直じゃないと、こっちは頼まれてやってたのに、全然お構いなしじゃ、オレはただのお人好しで終わっちゃうでしょう。それに相手が相手だけに、うっかり頼んでないとか言われちゃいそうだし。笑ってられるほど、そこまでお人好しじゃないんで、オレ」

「そうよね」

 微笑む日蔭糸を演じながら、アキラは逃げ出したかった。

 しかもサキは間違ったことを言ってはいないから、余計に腹も立つ。

「今度、友達と来てもいいですか?」

 帰るつもりなのか、サキは居住まいを正して言った。

「ええ、構いませんよ。ただし、わたくしは十時に帰りますから、遊びに来るなら、もう少し早めに来て下さいね。中学生を遅くまで引き止めるわけにはいきませんから」

「解りました。今日は遅くに済みません。有難うございました」

 ようやくサキが帰り、アキラは肩を撫で下ろした。


「確かに、サキの言う通りなんだけどな、でも、普通を止めて冷たい人間に戻るのに、そう説明なんてしてたら、冷たい人間じゃないんだよ。オレは嫌われようとしてるのにさ」

 来年度は東京に戻る。ここでの足跡を消して、また行方を眩ますつもりなのに、仲良しクラブを作ってしまったら、行き先がバレてしまう。それは仕事上不都合な話なのだ。

 だから嫌われてしまうのが手っ取り早い方法だ。アキラはそう思っていたのだ。


 しかしアキラは自分が変わってしまっているのに、全然気付いていない。

 以前の彼女であれば、さっさと記憶を消してしまうのに、そうしようとせずに回りくどい方法を取ろうとしているのだ。

「ま、自分勝手は反省するとして、少しはサキの言う通りにしてやろうかな」

 アキラは残った餡餅あんもちを頬張りながら、翌日の授業の予習を始めた。


「やっぱ、あの日蔭糸(ひかげいと)さまって美人だよ。歴代で一番だな、あれ」

 翌日、サキは自慢気に話していた。

「えーっ、二人っきりで話したのヮ?いいなあ」

「そうそう。母親の作った餡餅持ってさ」

「オレはサキの母ちゃんの作った餅のが魅力的だな。

 っつーかシキ、意外と面食いなんだなャ。ああいうのが好みなんだ〜」

「う……。いいじゃんか、綺麗なお姉さん好きでも」

「シキが赤くなってる。可愛いーっ」

「だからセクハラだってば!」

 可哀相なシキは、耳まで赤くしていた。その光景を見て、アキラは思わず顔だけで笑った。


「知ってる?日蔭糸って、采女(うねめ)の付けてる髪飾りのことなんだって」

 コメチは少し自慢気に言った。

「でも、巫女と采女は違うっちゃ」

「夢のないツッコミ入れないでよね。

 いいのよ、名前だもの。大体あなたの名前の賢木(さかき)だって、巫女の持ってる(さかき)から取ってるっちゃ。そんなもんよ」

「そんなもんって、何だかすっごく適当にあしらわれてるんですけど、おい」

「気にしない、気にしない」

 コメチは平然と笑った。


 サキは腕組みをし、視線を宙に泳がせてから、思い出したように口を開いた。

「ところで、巫女さんの声、聴いたことある?」

「え、おはらいの時にちょっとだけ」

「なあ、誰かに似てると思わないか?」

「誰?勿体もったいつけないでよね、サキ」

「せっかちだなあ、コメチは。思い出してたら、訊いてないって。誰だったかャ」

 ここで始業のチャイムが鳴り、この話は終わりになったのだが、ただ聞いていたアキラの背中には冷汗が流れていた。

―――そっか、オレ、顔は目眩(めくら)ましで変えてても、声は変えてなかった。やっべぇ、一生の不覚だ…… 

 アキラは今更声を変えて日蔭糸になれず、自分の詰めの甘さを悔やむしかなかった。


 帰ろうとするアキラを、サキは放課後呼び止めた。

「何だ?」

「今日、暇?」

「いや、新年から、オレの義理の両親が帰って来てんねん。だっけ、オレは家に直行してんだよ。今日は食事しに街に行くんやて。今更家族ごっこやわ。まぁ、オレの為に籍を移動してくれたんだ。それくらいの親孝行はしないとな」

 昨日指摘されたことを反省材料にし、アキラは嘘の理由を言った。

「ふーん、取り敢えず良かったっちゃ。でも、また海外に戻るんだろ?」

「まあな。そういう予定だし」

「じゃ、明日は時間取れるかな?デートしない、オレと」

「はあ?」

 デートの誘いなど、当然初めてだ。どう対応したらよいのか、アキラはあからさまに戸惑いを見せた。

 その様子に、サキは大きな口を開けて笑った。予想外に可愛らしかったのだ。


「冗談だよ。そんな困った顔すんなって。

 いやね、ただ、大樹の森の神社に付き合ってもらいたいだけさ。カズヤが何してるか、巫女さんだったら占ってくれるし。

 あいつ、結構不精だし、気を遣ってオレの家には電話をかけてこないんだよ。

 お前だって心配だろ、カズヤのこと」

「う、あ、まあ……」

「じゃ、決まり。明日五時に神社で待ち合わせ」

「お、おい!」

 サキに強引に決められ、アキラは反論の隙もなかった。




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