第6部:第一ラウンド-3
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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『カズヤくん、昼休みに聡の友達がやるわ。頑丈な男の子だけど、抵抗は一切しないって』
打ち合わせから何日か経った朝、信吾がカズヤのノートに落書をしてきた。口で伝えられなくもないのだが、その日に限って日向も《日向四天王》も教室にいた。
カズヤは頷いてみせた。それだけで充分のはずだ。
『カズヤくん、強そう♪』
『字で書くと、確かに女っぽいぞ』
『そうかしら?』
そこまで書いて、カズヤはページを替えた。数学教師が近付いてきたからだ。
外見だけでも、真面目に授業は受けていないと、後で面倒臭いことになってしまう。
問題の昼休みになった。午後の授業は体育で、体育館に移動がある。不幸なことに体育は当然担任のピーチが担当だ。
しかしそれも今日は必要なことだった。
《日向四天王》はピーチだからこそ、体育の授業は必ず出席するのだ。そうでもなければ、《日向四天王》に因縁を吹き掛けることは難しかった。だからこそ、信吾はこの日を狙って指示を出したのだろう。
カズヤにとっても、用もないのに外を一人で歩いていて、タイミングよく他人を救けるなど、不自然極まりないから、信吾は移動の最中に騒ぎが起こるように仕組んだのだろう。
外はサッカーやバレーボールを楽しんでいる生徒で、結構賑わっている。いつもと変わらない、取り敢えず平和な昼休みだった。
信吾が救けにくると信じ、一年の男子は行動を起こした。
けたたましい物音が渡り廊下で鳴り響いた。
「何、ガン付けてんだよ!」
次いで川上の大きな声が響く。計画がスタートしたのだ。
「え、オレは何も……」
がっちりとした体格のその少年は、とぼけてみせたが、すぐに謝った。
「ごめんで済んだら、警察いらねぇって、よく言うだろうがっ!」
川上はくだらないことを言って、少年の腹を蹴り上げた。
当然のように野次馬は集まってくるが、誰も止めようとはしない。止めに入ることができずにいる。
そして少年も謝るばかりで抵抗をしないから、川上はそれに調子付いていた。
少年は信吾を待っていた。しかし現われたのは、見ず知らずの三年生、カズヤだった。
「何、くだらないこと言ってんだよ、バーカ!」
カズヤは間に入っていった。
「うるせぇんだよ!やられたいのか?」
「ヤだね。不意打ちで骨折させられたりしてないからなぁ、どっちがやられるかな」
カズヤは笑ってみせた。先日の恨みもある。
少年は戸惑いの表情を見せていたが、カズヤはそれを無視した。
「余裕かましてんじゃねぇよっ!」
川上の攻撃を、カズヤは軽々と躱した。
百八十センチを超す長身が、宙を舞う。
カズヤが空手をやっていて、多少は身のこなしが軽いことは、ピーチの革スリッパを躱したことで知ってはいたが、この長身でここまで動けるとは、正直川上は驚いていた。
しかし、カズヤは攻撃をしてきていない。
「逃げるだけかよ、独活の大木!」
「じゃ、三人でこいよ。川上がやられたの見て逃げ出されたら、こっちもつまらないっけ」
「この野郎!調子こいてんじゃねぇよ!」
この挑発に、野口や、冷静な岩城でさえもが頭に血を昇らせ、カズヤにかかってきた。まさに計画通りだった。
そういえば、昔、空手の師匠に言われたことがある。
教えたわけでもないのに、昔からカズヤの動きは『動』で、サキの動きは『静』だったと。二人はそれぞれにかなりの上達を見せていたのだが、どうしても二人は役割を逆にはできなかった。それができるようになったら、二人とも完璧に強くなれるのだと。
しかし、今は素人相手に完璧を追求してはいけない。派手な動きで相手の頭上を飛び越してみせたりしながら、《日向四天王》が疲れるまで攻撃を躱し続けていた。
「ひ、卑怯だぞ……」
カズヤへの歓声に包まれながら、《日向四天王》の三人は息を切らせて言った。
「じゃ、攻めちゃっていいのヮ?」
再び挑発するようなことを言い、カズヤは向かってくる《日向四天王》の腕を掻い潜り、三人の首筋を打った。それは一瞬の出来事だった。
「暫くは息苦しいと思うよ。そういう場所を打ったからヮ」
地面に跪き、苦しげに喉元を押さえている三人を、カズヤは見下した。
「それと、そこのあんた」
カズヤの視線はやられ役の少年に向かう。
「悪くないの解ってたら、こんな連中に頭下げるんじゃねぇよ。こいつらがイキがるだけだっけよ。
大体、少しくらいは逆らってみろよな。待ってりゃ誰かが救けてくれるってわけないんだから」
カズヤは水面下の《反日教》や、それ以外の耐えている生徒たちには、きついと思える一言を言い放った。
「大丈夫?」
わざとらしく遅れてやって来た信吾は、やられ役の少年に駆け寄って、「遅くなってゴメンナサイ」と言ってみせていた。少なくともそうすることで、彼の対面は取り繕えていた。
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