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第6部:第一ラウンド-2

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

 素人集団の《反日教》は大変だ。好き放題の《日向》と手を汚そうとしない《SIN》と敵が二つもいて、余裕など微塵みじんもない。

「実はね、折り入って頼みがあるのよ。みんなには内緒でね。本当は一人でやりたいんだけど、ちょっとあたしの力が及ばない部分があってね」

「?」

 カズヤは首を傾げた。

「今更かもしれないけど、ピーチと《日向四天王》、暴力団関係とつるんでるんだけどね、その尻尾を掴みたいの」

 あっさり言うけど、これは衝撃の告白だ。カズヤは目を丸くした。が、信吾のことだ、何か思惑があるはずだ。

「ピーチ一人辞めさせて済む話じゃないってことだな。

 でもさ、だったら《反日教》なんていらないじゃん。そのスジだけ攻めればいいだろ」

「いやぁね、カズヤくん。そこツッコミどころじゃないわよ。それをやったらあたしたちの鬱憤うっぷんはどうするのよ」

「ま、そりゃ一理あるわな」

「あれは学校の体質を告発する為にやってるの。でも、今回のあたしの話は私怨よ」

 笑っているが、『私怨』とは穏やかではない。


「あたしは生徒も救いたいの。

 だって、校長までもが黙認してんのよ、ピーチのこと。きっと生徒が告発したってだけの話だったら、学校的にはピーチ一人を捨て駒にして、はいお終い。で、その後も同じことの繰り返し。ピーチの代わりになる教師が現れて、生徒が教師を辞めさせるなんて生意気な真似をしないよう締め付けるだけよ」

 信吾の口調は本心が見えにくい。でも疑ってかかるカズヤには見えてしまう部分がある。

「信吾、お前、《反日教》も捨て駒にするのか?ピーチを辞めさせても無駄なら、今やってることも無駄になりかねないじゃんか」

「ほんとカズヤくんって、真面目で嫌になるわ。アキラちゃんなら何も言わないのに」

「アキラはそういう意味だったら、どちらかと言えば信吾と似てるからな。人間嫌いを公言してたし」

「あら、そっちでも言ったの」

 信吾はくつくつと笑った。

「心配無用よ。あたし、そこまで悪人じゃない。《反日教》を捨て駒にするつもりはないわ。あたしが一人でピーチを検挙してご覧なさい。《反日教》は欲求不満になるわよ、間違いなく。だって罪状は暴行ではないもの。

 あたしは《反日教》も大事。けど《反日教》だけでは片手落ちになっちゃうの」

「で、ピーチたちは何をしてるのさ?」

 カズヤは声をひそめた。本当に悪いことだったら、誰かに聞かれでもしたら困る。


「一回ねぇ、現場を押さえかけたんだけど、男だってバレちゃって……」

「はぁ、それとこれとどういう関係が……?」

 信吾はれっきとした男だ。ばれるとは今更だろう。それに質問の答になっていない。

「いやぁね、あたし、高級料亭の芸者に化けて張ってたのよ」

 信吾はさらっと言ってのけた。

 あまりの告白にカズヤは耳を疑う。

 世の中、こうも簡単に変装して潜入などできるものなのか?

「でもね、これが失敗しちゃってねぇ。

 ああいう男がこっそり使うような店だから、裏の看板があるわけよ。その店、高級ついでに風俗営業もしててね、それで男だってバレちゃったのよ。ピーチったらえげつないったらないでしょ。

 幸い、その時手篭めにした芸者があたしだとは気付かれてないけどね」

 カズヤだって、中学三年にもなれば、信吾の言っていることを想像できる年齢にはなっている。しかし想像したこともないし、したくもない。


 信吾は笑って言ってはいるが、口調には憎しみが充ち充ちていた。その見慣れない怖ろしい空気に、思わずカズヤは後ろに下がりたくなったが、そこは踏み止まって言った。

「信吾、そっちこそオレのが向いてるんじゃないか。オレだったら瞬間で逃げられるし」

「甘い甘い。ぶん殴って済む話じゃないんだから。

 ああいう連中はつらの皮が厚いから、録音テープがあっても『オレは言わされたんだ』って言うのよ。だから手を貸して。あたしが行きたいの。

 二人で証拠押さえて、そしてトンズラよ。変装してるからバレるわけないし、たった一度の逢瀬おうせですもの、超常の力も目の前で使って大丈夫」


 信吾が顔に似合わず直情的で、尚且なおかつ大胆であることを、カズヤはたまに忘れて驚かされる。アキラと信吾の二人の現象は似ているのだが、正反対の性格だ。よくこの二人が行動を共にしていたものだと笑いたくもなる。

「解ったよ。ところでいつ?」

「そうね、《反日教》が安定するまではダメね。それに店の予約もチェックしないといけないし」

「判るのヮ?」

「得意分野よ、ハイテクは」

 信吾は髪を掻き上げた。

「さっきも言ったけど、どんな理由があろうとこれは私怨なの。だからカズヤくんにしか頼めないの」

 カズヤは止めなかった。どうせ何言っても無駄だし、それで彼の怖ろしい空気が晴れるのだったら、それもいいと思ったのだ。

「限度も考えろよ。口で言うわりに、あまり身内は利用しないんだから、信吾は。オレなら構わないんだから」

「大丈夫、そのつもりだから。あたし、そろそろおいとまするわ」

 信吾は窓の桟に立った。

「カズヤくんこそ、お人好しにも程があるわ。傷付けられすぎると、修復できないくらいに憎しみに取り憑かれるから、気を付けなさいな」

 信吾はにっこり微笑むと、そのまま四階から身を踊らせた。


―――あんな傷背負って、よく立ち向かえるよな、信吾は。オレは駄目だ。

 ……で、取り憑かれるってか。

 カズヤは窓を閉めた。未だまだ夜は寒かった。




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