第5部:《SIN》-7
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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全く心の準備ができていないカズヤは、何から言いだせばいいのか皆目見当がつかずに戸惑う。大体《夏青葉》からの作戦指示だと突然言われ、彼らは信じるのだろうか。
それはカズヤの取り越し苦労だ。アキラの左腕《春霧霞》の信吾がそう言うのだから、誰も《夏青葉》の言葉であるということに疑いを持つ者はいないのだ。
「あ……、今、かすみちゃんから紹介があった、《夏青葉》だ」
カズヤが戸惑った分だけ沈黙が生まれ、彼はそれを自分で破って話し始めなければならなかった。
自分の力でその沈黙を破ってみる。
「アキラの右腕ということで、彼女の指示でここへ来た。《春霧霞》から話は聞いている。そこで作戦を、とのことなので、考えた」
とにかく話し始めてしまえば、どうにでもなるものだ。そうカズヤは気が付いた。
「先ず断っておくが、こちらの本名は伏せさせてもらう。
本名を知られると、《日向》と戦う上で不利になることが必至だからだ。顔の露出も最低限に控えさせてもらいたい。
今現在こちらの仕事は、この《反日向・反教師同盟》が動きやすくする為の情報収集。ここで顔や名前がバレたら情報が得られなくなる可能性がある。決着が着いたら名乗るから、どうか、それまではこちらのことを信じてもらいたい」
電話越しに、少しざわめきが聞こえたが、すぐに収まった。
こうなることは、カズヤですら予測済みだ。むしろこの程度のざわめきで済んだ方が驚きだ。でもそこで動じているわけにもいかない。
カズヤは、今後の抗争のきっかけを作る為にも、いわゆる犠牲者が必要なことを伝えた。
本当のカズヤは、これは自分の本心ではないのだが、ここは《夏青葉》として堪えて信吾の意見だとは言わなかった。
「多少、痛い目をみるかもしれないが、《春霧霞》が必ず救けてくれる。そうだな、かすみちゃん」
「ええ、それは勿論。
やってくれるのは、そうねぇ、できれば、あたしたちとの関わりが思いつかないくらい意外性のある男子がいいんだけど…」
信吾はカズヤの意図にすぐに気付いたようだ。
《反日教》内部においても、カズヤが彼らと無関係であることを位置付けようと、カズヤは敢えて信吾が救けると言ったのだ。もし《反日教》の人間ならば、信吾以外の人間が救けるとは思わず、カズヤが間に入ったら、そういう予定を知らない《反日教》ではない人間だと思い込む、そういう計算だ。
当然なかなか立候補は上がらない。
これも予想の範疇だ。
カズヤは先の作戦を言うことにした。いわばエサ代わりだ
「実はその一件をきっかけに、我々は《日向》を夕刻に待ち伏せする。しかし正面から挑むのは腕に少しは自信のある者五人くらいだけだ」
それ以外はいらないとばかりの《夏青葉》の言葉に、憤慨の声が聞こえてくる。
それこそがカズヤの聞きたかった声だ。自分たちのことだと思えないような連中ばかりなら、何をやっても意味がない。
「勿論、その腕に覚えのある人間だけで終わるわけがない。後の三十人くらいは、予め公園の陰にでも潜んでいて、機を見て対決に参加してもらうつもりだ。
実はその場には、必ず《SIN》が来ることになっているのだが……」
カズヤは自分の舌が滑らかに動くことに、我ながら驚いていた。
「今日、《SIN》の溜り場を覗いてみたところ、大変有力な情報を聞くことができた。
実は彼らも打倒《日向》を掲げ、行動を始める準備に入っている。ただし、知っての通り彼らは大義名分がないと行動を始めない。
そこで我々と《日向》を争わせて、自分たちだけ美味しいところをさらうつもりらしい。彼らは……」
カズヤはさっき《SIN》の事務所で聞いてきた話を、電話越しに伝えた。
「そこでだ、こっちは少人数で無謀にも挑んで、《日向》に負けているふりをする。そうすれば《SIN》は加勢してくれるだろう。
でも、《SIN》のやつらはこちらと《日向》が共倒れしてくれることを望んでいることを忘れてはいけない。
だから《SIN》が途中で寝返るまで、《日向》との対決は《SIN》に任せるつもりで余力を残しておくんだ。ここまでは腕に覚えのある五人に、大変だけど頑張ってもらいたい。
そしてやつらが寝返ったら、その時に本気を出して《日向》をやる。
寝返った《SIN》など相手にする必要はない。所詮はツーリングクラブ、オレらの争いに首を突っ込んでいるだけの連中なんだから、放っておけばいい。連中も馬鹿じゃないから、こっちの思惑くらい気付くだろう。
控えグループは、《SIN》の寝返りと同時に対決に参加してもらう。そのタイミングの指揮はオレが取るから、安心してもらって構わない」
電話の向こうの声は、喜んでいる。
この策が正しいかどうかなどはどうでもよくて、綻びがあろうとなかろうと具体的であればあるだけ信じてくる。
カズヤは誰に教えられたわけでもなく、その群集心理を知っている。
「こちらの格好は、黒っぽい服にサングラスとい、とにかく胡散臭い外見だから、きっと判ると思う。
まあ一度で《日向》とかたがつくとは思わないが、自分たちのレベルを知る上で、重要な直接対決になるだろう。
かすみちゃん、人選はそっちでやってくれ。じゃ、こっちはこれで」
「はいはい、じゃ、そっちもよろしくね」
信吾は電話を切った。正確には切ったふりをした。
切ろうとしたら、保留の音楽が聞こえてきて、カズヤはそれが気になって待つことにしたのだ。
次回から第6部;第一ラウンド〜を始めます。
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