第5部:《SIN》-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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まさかカズヤが盗み聞きしているとなど思ってもいないシンは、話を続けている。
「そこでだ、まずは両方の力関係を見極める。そして分の悪い方に手を貸す。そこで互角になったら、連中が疲れてきた頃合見計らって、優勢な方に寝返る。
ここで忘れちゃいけないのが、オレらの目的は《日向》を潰すことだから、先に《反日教》に潰れちゃ困るわけだ。お互いが潰れないようにしながら、両方が疲れるのを待つ。そして最後の美味しいところだけを攫うというわけだ。どうだろう?」
「あんたの言うことは間違ってたことないんだ。今更とやかく言う気はないよ」
「面白そうじゃないか。表舞台は《日向》と《反日教》に任せて、実際を動かすのはオレらってことだろ。なんか影の支配者って感じでカッコイイじゃん」
「そうだよな。表に立ちすぎたら、《日向》が潰れた後、オレらただのツーリングクラブに戻れなくなっちまうもんな」
「そうそう!」
―――これは特ネタだぜ。知らなきゃ騙されるところだったよ。
カズヤは芸能レポーターのような気分で、それ以上は《日向》絡みの話が出てこないのを見て取ると、すぐに信吾に知らせねばと、妙な使命感に駆られてその場を離れた。
カズヤは家に戻るとすぐ電話をかけた。かけた先は茂木接骨院の中の、《反日教》の回線だ。
「さすが神森出身は違うわ。木登りなんて、そう簡単にできないもの、東京じゃ」
電話越しに相当数のざわめきが聞こえるのは、《反日教》も集結している証拠だ。
「それ、ほんとに特ネタね。丁度いいわ」
「え?」
「こっちの話」
信吾が策を巡らしながら微笑んでいる姿が目に浮かぶ。
「んで、思ったんだけどやぁ……」
「ちょっと待って。その訛り、気を付けてくれるかしら。カズヤくんだってバレちゃう」
「あ、ああ」
何を言いだすかと思ったら、言葉遣いの指導だ。これには少々うんざりしながらも、必要なことではあるから反論はしない。
「ま、それは学校で少し残して、《反日教》では完全に使わない。それでいいだろ。で、さっきの続きだけど……」
カズヤは急いで続けた。うっかりぼうっとしようものなら、信吾に話を取られてしまいかねない。東京人はせっかちとは聞いてはいたが、これには疲れる。
「《SIN》はきっと《日向》と《反日教》を嗾けて対決させようとすると思うんだ。せっかくだから乗って、直接対決を一度したらどうかな。
夏休みまでに勢力図を定着させとかないと、中心メンバーの三年は受験だろ。聡に不安定な《反日教》を任せちゃ、可哀相だしさ」
「あらぁ、確かにその通りだわ。向こうもこっちが頑張ってんの気付いてるんだったら、尚更だわ。
でもねぇ、きっかけってもんは必要でしょ。転がり込んでくるもんでもないしねぇ……」
信吾は、また誰かを犠牲にしないと駄目だと言っている。しかし、カズヤは絶対嫌だった。きっとすぐ隣に誰かいるのだろう。信吾は直接的表現を避けている。
「ちょっと《日向四天王》と目を合わせるだけでいいんだけど……」
「何が『だけ』だ。殴る蹴るのオマケ付きだろが」
「カズヤくんが直接対決の案を出したのよ。
じゃあ訊くけど、どうしたらきっかけつくれるのよ」
この意見に反論できるだけのものを、カズヤは持ち合わせていない。
「じゃ、こうしよう。始まったらオレがすぐに止めに入る。オレの立場は『中立』ってことではっきりしてんだからいいだろ。それにまさか連中だって、《反日教》がきっかけを作る為にわざと目を合わせてきたなんて、思うわけがないし、油断してるだろうしさ。
でも《反日教》の人間がやられかけたんだから、信吾は仕返しを考えて当然だ。ということで、オレとは全く関係ないところで始まるわけだ、直接対決は」
要は因縁をつけている場に居合わせさえすれば、暴力沙汰は避けられる可能性があるというわけだ。
ただ、相手がいきなり暴力行為に走った場合は致し方ない。
しかしカズヤの思惑など、信吾にとってはどうでもいいことなのだ。
「前座はそれでいいわね。問題はその後。《夏青葉》のお披露目と初采配。どうする?シンはヘルメットだし、包帯でも巻く?」
「おいおい」
「冗談よ。そうねぇ、髪の毛は脱色してくれる。で、髪は結んでね、それからストッキングを被る」
「……お兄さん、酔っ払ってます?」
「いやぁだ、冗談に決まってるじゃない。ストッキング被ったら、ただの銀行強盗になっちゃうわよ。
とにかく、カズヤくんはその目が印象的すぎるのよ、アキラちゃんみたいにね。それさえ隠してくれればいいわよ」
信吾は何となくその名を口にした。
その名を聞いたカズヤの胸は少し痛む。アキラは、自分をこの争いに巻き込ませたくなくて、サキに忠告を託したというのに、今、《夏青葉》を勝手に騙って、渦の中心にいるのだ。
「今ね、隣の部屋にメンバーが揃ってんだけどね、ついでだから声でお披露目しようと思うんだけど。今の作戦をそのまま伝えてくれればいいわ。電話のスピーカ機能を使えば簡単なことだし」
「ちょっと待てよ」と言う暇もなく、信吾は電話口を塞ぐことなく「みんな、聞いて!アキラちゃんの右腕、《夏青葉》から作戦があるわ!」と大声を上げていた。すると、その場は急に静まり返った。
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