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第5部:《SIN》-5

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

 カズヤは《SIN》を観察していた。


 取り敢えず彼らの集結場所の公園から、溜り場にしている貸し事務所の一室まで、昼間のうちに瞬間移動能力を駆使し、隈無くまなくまなく下見をしたのだが、面白そうなものは何もなかった。ただ手ぶらで帰るのもしゃくだからと、今後の為にも隠れられそうな場所くらいは見付けておいた。

 そして夜を待って、公園の木のこずえに瞬間移動で行って耳を澄ませば、「抜き打ちの物理のテストが明日あるから、教えてくれないか。さぼってて解らないんだ」だ。

 まるでギャクマンガのオチのような台詞せりふに、思わずこっちも木から落ちるという、ギャグのリアクションをしてしまいそうになる。

―――こりゃ、信吾がわけ解らないって言うわけだ。

 カズヤは一人で納得した。それにしても、不可解な連中だという予備知識は入れていたものの、やはり見た目とのギャップには驚きを禁じ得ない。


「シン、確かにオレらはお前のいない間は《日向》を無視してきたぜ。けどな、連中も元締めが帰ってきて、今はのりに乗ってる。日向本人は《日向四天王》と違ってキレ者だって評判だぜ。そんなんが本気でやってきたら、オレらはどうするつもりなんだ?」

「んー、あ、そこでF=mRを使うっと……、悪いな、どうするかってことだろ」

 中心メンバーの問いに、シンは答えた。

「今までと変わらないさ。売られた喧嘩は倍返し。それだけさ」

「そうも言ってられないからいてんだよ。

 オレらだって大人になって、連中と関わってられないからって、連中の組織をそのままにしておいていいのかってこと」

「オレらも大人になれば、連中だって大人だろ」

「良識のある連中か?対症療法じゃなくて、いっそ根治治療させたらどうかってこと」

 至極なごやかな雰囲気は、その一人の発言で緊張したものに変わった。

「具体的に、何かいい考えでもあるのか?」

 シンはその一人にたずねた。

「まあ、具体的にはあんたの方が機転がきくから、それを考えてもらおうと思って」

「それはいただけないな」

 シンは冷たく言い放った。


「今まで防戦一方だったのは、オレらがあいつらを潰す理由がないからだ。気に入らないから潰すなんて、我儘な子供じゃあるまいし、そんなこと言ってられないだろ。それを潰そうっていうんだ。ああいう乱闘騒ぎは、ほとんど犯罪ぎりぎりだからな、敢えて自分から責任が取りきれないような大きなことをしようってんだから、それなりの考えがないと、オレは賛成しかねるぜ。

 大体、ここにいる何人くらいが《日向》潰しに賛成だかも解らないし」

 男はがっかりしたような顔をした。

「まあ、そうがっかりするなよ。オレだって感情のある人間なんだから、連中のことを不愉快に思ってるさ。

 だけど仮にもオレの名前でくくられてるグループだぜ。オレだってうっかり行動もできないわけよ。

 だって、軽率な行動でみんなに迷惑がかかって、オレ一人の責任じゃなくなるんだぜ。逆に、オレ抜きでやってもいいけれど、例えばオレが反対だったとしたら、どうする?無関係なオレに不都合が生じないか?そういうこともきちんと考えてほしいだけなんだよ、オレは」

 盗み聞きをしているカズヤは、そのシンの意見はもっともだと、妙に感心してしまっていた。


 言い出しっぺの男は黙ってしまったが、他のメンバーのくすぶっていた思いは燃え出した。口々に『打倒《日向》』を叫びながら、シンがその気になるように説得していた。

 シンは腕組みをして黙って聞いていた。隠れて見ていたカズヤには、彼がこっそり微笑んでいるように見えていた。

―――この男、こうなるのを待っていただけだ。みんな乗せられてるだけだ。

 これだけ頭が良さそうな人間の集団なのに、どうして策士シンの思惑に気付く人間が一人もいないのか、カズヤは不思議に思わずにはいられなかった。

 この手法は、さんざん去年目の当たりにしてきているカズヤには解るというものだ。


「そろそろ出揃ったな、みんなの意見」

 シンは頃合を見計らって立ち上がった。

「みんながその気のようだから、打倒《日向》ということで、これからは行動を明確にする。いいな!」

 狭い事務所が、時の声で満ち満ちた。

 これは厄介な集団だと、カズヤは確信した。《反日教》でもここまで固い結束で結ばれているか、それはこの先重要な課題だ。


「でも、こっちから表立ってけしかけるような真似はしない。調度いい具合に、《反日教》ってのがいる。そこも日向本人が戻ってきたことで、あのオカマの霞 信吾ってのが勢い付いているという話だ。そこを嗾けてやろうと思う。一番理想的なのは、連中が勝手に共倒れすることだ」

「《反日教》だったら、思うところが一緒だから、手を結んでもいいんじゃないのか?」

「ま、そうだけどな、オレは好きじゃないんだ、あいつらが。間違ってることをはっきりと言わずに、こそこそと言いなりになってるような連中だぜ。何時くじけるか判りゃしないじゃねぇか。

 その点オレらは徹底しているだろ。主義主張をちゃんとしているし、足元すくわれないように、それなりのこともしている。

 もし手を結んでみろ。おんぶに抱っこの世話係にさせられちまう。あっちにとっちゃそんな虫のいい話ないだろ」

「あ、そっか。さっすがシン」

 諌言かんげん耳に痛いカズヤは、その言葉を深く胸に刻んだ。まさにその通りだ。




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