第5部:《SIN》-4
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「リーダー、落ち着いて下さい〜」
「オレは落ち着いてるぞ」
部下は半べそでも、男は確かに落ち着いていた。でも現実問題はあるらしい。
「でも、リーダー、上納金は……」
「知るか、そんなの。第一、どうしてオレが自分の稼いだ金や、カツアゲした金を、中学生連中に納めなきゃならねえんだ」
「でも、《日向四天王》は……」
「受けて立ってやるさ。オレも地元じゃ名前を鳴らした男だ」
「そういう問題じゃなくって……」
「どんな問題だって構わねえ!オレのバイクもノーマルに戻すぞ!
いいか、お前ら、オレについて来いなんて言わねぇからな、自由にしろよ」
「そんなぁ〜」
既に信じられる道を見つけてしまった男に、救いを求めるような部下の声は届かない。
男はその日の翌日にはすぐに行動したらしい。再び《SIN》の前に現れた彼のバイクは、宣言通りにノーマルに戻っていた。
ただし、その時の彼の顔は痣だらけだった。
「どうしたんだよ、そのケガ?」
シンやその仲間たちは訊ねたが、男はそれについて詳しく語ろうとはしなかった。だが、それは今までのグループを抜ける時に加えられた制裁の傷だということは、誰の目にも明らかだ。
「それで、ケリはついたのか?」
「一応。迷惑かけないつもりで来たんだ」
シンの短い問いかけに、男はそう言い切ったのだが、現実にはそう上手くはいかない。
その男を巡って望みもしないのに、《日向》と直接対決は始まった。
男を慕って追いかけてきた部下もいる。
男が抜けたことで制裁を受け、恨んでいる部下もいる。
そうしてただのツーリングクラブだった《SIN》が、《日向》と対決する今の構図に至っている。
初めての直接対決は《SIN》の圧倒的勝利に終わった。未知数ではあるが、いわば素人集団の《SIN》を相手に、《日向四天王》が出てこなかったことが勝利の原因の一因であったことは確かだった。しかしそれくらいでシン本人が気を良くしたとは考えがたい。だが、《SIN》の中の何人かは調子付き、「このまま、あの《日向》のムカツク野郎どもを吸収しちまおうぜ」と言い出した。
そういった意味では、やはり《SIN》は素人集団だったのだろう。理想でものを語ってしまうところが、その理由だ。もし《SIN》に《日向》を吸収したくらいで彼らが不良を止めるのであれば、とっくに彼らは健全になっている。それに気付かないところが、理想主義者の集団なのだ。しかしシンその人は、そういう甘い考えを持つ人間に批判的なことを言わない。と同時に、彼自身の本心も言わない。
決して表向きは《日向》を刺激しないくせに、仲間が勝手に《日向》に喧嘩を売ってしまった尻拭いだったり、《日向》が勝手に売ってきた喧嘩の場合は、それでも文句を言わずに完膚なきまでに叩きのめす強さは持っていた。それだから、不可解な集団に彼らは思われているのだ。
更に不思議なのは、確実に《SIN》は拡がりを見せていたことだ。
《日向》から《SIN》に移る者は後を絶たず、《SIN》に加わらないまでも《日向》と対立関係にあるグループが、《SIN》の加勢をすることもしばしばだ。こうなると《日向》的には、邪魔な存在に見えてくる。徹底的に潰すべき相手に、《SIN》は育ってしまったのだ。
未だ小さいうちに、自分たちが出向いて潰しておけばよかったと、《日向四天王》は思っただろう。気が付けば自分たち《日向》と違い、同じ考えを持った人間が固い結束の下に集結している団体に、《SIN》はなっている。その信念に共感できない人間は参加していないから、サソリを送って内部から争わせることもできやしない。厄介なことに、頭ばかりか腕も立つ人間も揃っている。これ程厄介なグループは、他の何処にも存在していなかった。
しかし、《SIN》を維持するのも楽なことではない。
特に始めからいるメンバーは、学校ではかなり圧力がかけられていた。ある意味学力のレベルの低い高校であれば、これくらいは当然のこととして教師も無視してくれるから、行動に足枷がはめられることはないのだが、そうもいかない。
第一そういう教師に逆らう気持ちも込めて集まった仲間だ。これくらいの圧力に屈するわけにもいかないと、彼らは自分を鼓舞して乗り切っていた。
その中でシンただ一人、どういうわけか素性がはっきりしていない。職業上の都合とかで事務所の中でしか顔を出さないところも不審だし、名前もシン以外は誰も知らない。しかしまあ、これだけ不審な人物に、これだけの人間がついていくもんだと不思議に思う。
年令不詳、職業不詳、学歴不詳、判っていることといえば、顔の造りが綺麗で、やたら学力のレベルが高いこと。身のこなしも軽く、一連の《日向》との抗争で的確な指示を出し、そして相手を確実に倒せるだけの腕もあるということだ。そしてヘルメットを殆ど人前で脱がない為か、酷い肩凝りに悩んでいることくらいだ。
「悪いなあ。本名明かさないで」
口癖のように謝るくせに、やっぱり本当のことを何一つ言おうとはしない。仲間内では、シンはきっと芸能人なのだろうということで、何となく片付けられていた。
そのシンは、この年末から四ヵ月もの間、仕事で長期出張ということで集まり出ていなかった。その所為か、その間の活動や抗争は下火になっていた。
実際、《日向》はシンがいない間に彼らを潰そうとはしたのだが、売られた喧嘩を買う以上《SIN》は深追いしてきてくれないので、《日向》は相手を潰しきれず、指を咥えてシンが帰ってくるのを心待ちにしていた。
シンさえいなければ、と当初は考えていたのだが、理想ある者たちはシンがいなかろうと結束を乱すことはなかったのだ。始めは躍起になって嗾けもしたが、無駄なことだとすぐに《日向四天王》は気が付いたのだ。
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