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第5部:《SIN》-3

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

http://ncode.syosetu.com/n9537d/

「リーダー、こいつら、ただのツーリング帰りだったって」

 きょとんとしている自分たちのリーダーに、一人が耳打ちをしてきた。

「にしちゃ、妙に堅気かたぎ離れしてたっすけど」

「ま、こんなとこで立ち話もなんだしな、来いよ」

 神宮司が一同を促した。

「そ、お茶と茶菓子くらいなら出せるぜ」

 シンとその仲間たちが、住宅地の迷惑にならないようにバイクを手で押しながら移動するのに、暴走族はならって続いた。


 それにしても、変にこそばゆい招待だ。知り合いでもないのに救けたてくれたばかりか、まるで旧知の間柄のように接してくるシンとその仲間たちは、一体何なのだろう。

 今まで誰からも、このような親密な扱いを受けたことがない彼らは、戸惑うばかりだ。

「ここに停めてくれ」

 シンがバイクを置くよう指示したのは、小さな雑居ビルの駐車場だった。

「ここの三階が溜まり場。ま、小さな貸し事務所といえば聞こえがいいけどさ。まあ、ただの逃げ場だな」

 笑いながら、シンたちは自分たちが救けた連中を案内した。

「どうぞ。まあ、寛いでくれや」

 シンはそう言うと、初めてヘルメットを脱いだ。

「いやぁ、職業柄、人前でメットが取れないんだよ。仕事がパァになりかねないって、バイクも取り上げられちゃったしよ」

「そうそう。これでバレたら、今度は何取られるんだ、シン」

 仲間にからかわれて、シンは肩をすくめてみせた。肩凝りが持病のようだ。


「その制服、あの工業高のだろ。あそこ、やたらうるさいって有名じゃん。平気なのか?」

 暴走族のリーダー格の男の、革ジャンの下の学ランのボタンを見て、神宮司は言った。

「ああ、いいんだよ。どうせオレら、学校じゃ人間扱いされてねぇもん。退学しようかと思って」

 どうして初対面の人間に、ここまでべらべらとしゃべってしまうのか、男は少し首をかしげた。

「えーっ、もったいねぇじゃん。今は良くたって、後で後悔するぜ。不況で高卒くらいないと、仕事もないだろうしさ。

 どうしてもバイク乗りたいなら、やること最低限やってよ、それで誰にも学校の連中には文句言わせないようにしたらいいじゃん。

 自分で責任取れる範囲内なら、所詮学校の中だけの規則なんだし、破ったって問題ないし。

 大体、そんなんでいちゃもん付けてくる教師なんて、理想あって教職就いたヤツなんかじゃないって、どうせ」

 シンが言った。


「それにしても、よくボタンでオレの高校判ったなあ」

「え、だって、オレの高校、隣だぜ、一応」

 神宮司がそう言いながら、ジュースの缶を開けた。

 シンの仲間ではない者たちは、その耳を疑った。

 神宮司の言ったことが本当なら、彼の学校は都内でも三指に入る共学の進学校だ。そんな学校の人間が、バイクにまたがって、髪を脱色してピアスを開けているなど、到底信じられない。

「ま、オレも人のこと言えないか。バイク禁止破ってるもんな」

 ヘラヘラと神宮司が笑うと、「バイク禁止じゃねぇ学校のやつ、誰かいたっけ」と、誰かが野次を入れた。

「いるわけねえって。あ、そうそう、大事なこと忘れてた。シン、オレ、明日小テストなんだ。あのクソジジイめ、満点取って見返してやらなきゃ、こっちの気が済まねえ。ちょっと教えてほしいんだけど」

「おいおい、オレは工業系は苦手だって言ってんだろ。それに、ほら、彼らが唖然としちゃってるじゃないか。

 ま、オレらはいつも、こんな感じで集まってるグループです。ツーリングに参加したければ、いつでもどうぞってな。ほら連絡先」

 シンは笑いながら、《SIN》と書かれた名刺を手渡した。

「あ、どうも……」

 男はそれを受け取りながら、目の前に拡がる光景に言葉をなくしていた。


―――学習塾か、ここは……


 このようなグループは見たことない。外見的には世に言う不良が、彼らを馬鹿にする教師たちを見返す為に、必死になって勉強をしている。

 自分たちの総元締めのグループはとても威圧的なグループで、こことは大違いだ。

 さっきのシンの言葉にもいたく感動してしまったリーダーは、突然大声を上げた。

「ど、どうしたんです、リーダー?」

 子分が過剰なまでに驚いて、リーダーの顔色を覗き込んだ。

「これだ、これだよ!そう思わねえか、お前!」

「と、言われても……」

 そう言われた子分は、困惑を顕にした。

「何言ってんだ。これがまっとうな反抗の仕方ってもんじゃねえか!」

 すわ御乱心か、の騒ぎになりかねないほど、子分たちはリーダーの変化に驚いていた。

「お前、さっきこの、えぇと……シンってのが言ってたこと、もっともだと思わなかったか、ええ?」

「え、まあ……」

「よし、決めたぞ。オレは《日向》を抜ける。お前らは勝手にしろ。別に強制はしないからな」

「そ、そんな!」

 まさに「すわ御乱心かッ」と、仲間たちは立ち上がった。




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