第1部:彼女の不可解な行動-3
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「でも、ほんとに今度の巫女さん綺麗だよね。ボク、あんなに綺麗な人見たの、生まれて初めてだよヮ」
「あら、シキでも綺麗な女の人は判るんだ」
「あのさ、コメチ、ボク、一応男なんだけど……。身長だって急に伸びたしさ。
っつーか、コメチ、セクハラだよ〜」
「冗談、冗談よ」
その後五人は話に花を咲かせていたのだが、アキラはサキが来るということが気になって、それどころではなかった。
「いいか、サキ。オレは心配されたり庇われたりされるのが、死ぬほど苦手なんだ。別に身体が悪いわけじゃないんだから、放っておいてくれ」
アキラはそう捨て台詞を残して、終業と同時に帰っていった。
「今までさんざん世話されておいて、あんまりだよな、あの言い方。ま、あいつらしいけどやぁ」
ポンがキシシと笑った。勿論アキラに対する嫌味ではなく、不快感なども微塵もない。
「でも、やっぱ変だサ。ボクだって困るし」
「いい加減、普通を演じるのが嫌になったんじゃないのヮ」
「ま、うちらはアキラの本性知ってるからいいけど、他のみんなは不思議に思うでしょうね」
「ほっといてやった方がいいっちゃね」
「んだなぁ」
五人はそのアキラの後ろ姿を見送った。
アキラは、誰かに守られている自分の姿が認められないのだ。本当に守られるのが嫌いだったし、もし自分が誰かを好きになったら、力の限り守るだろう。大事なものを守れなかった過去を繰り返すことは、もう嫌だった。
そう、この神森の友人たちは守り抜きたい者だった。それが、逆に心配されるのは心外なことだ。
そして巫女の話題は聞きたくない。
夜十時少し前。サキは未だ現われない。
少し早いけれど、今日は閉めてしまおうかと、アキラは寒い部屋の中で迷っていた。
しかし迷ったところで、真面目なアキラが早仕舞いなどできるわけがないのだ。
「遅くに済みません。裏の鈴木です。母からこれをお持ちするようにと、言いつかって来ました」
立ち上がって帰り支度を迷っていたアキラは、肩を落とした。
来てしまったのだ。
望まない客とはいえ、この姿でいる以上は無視するわけにもいかず、「どうぞ」とにこやかな笑みを浮かべ、サキを中へと迎え入れた。
いつも思うのだが、サキはこういう現場での作法が綺麗でしなやかだ。
「お礼をしに行くのに、手ぶらで行かせるわけにはいかないって、母親からこれを預かりました。夜も遅いことですし、お腹も空いていらっしゃるでしょうから、どうぞ召し上がって下さいと」
「お礼なんて気を遣わないで下さいと、お母上にお伝え下さいな。この神社は、裏の鈴木さんあっての神社なのですから、こちらがかえってお礼を申し上げなければいけない立場なのに、恐縮してしまいますわ」
いつもは自然体で演技できるのに、手の甲を口に当てて笑う仕草が板につかないのは、きっと相手の所為だろう。
アキラは浮き足立っている自分に腹立った。
そんなことを目の前の美人の巫女が思っていることなど、サキが知る由もない。
「とんでもありません。ところで、少しいいですか?」
「え、ええ」
アキラはいよいよ身構えた。サキはちゃっかり上がり込んで、正座までしている。
いっそ薙ぎ払ってしまいたい気持ちを抑え、アキラは微笑んだ。
「では、お持たせで申し訳ないけれど、お茶を入れますね。二人で戴きましょう」
火鉢に乗せたヤカンからお茶を注ぎ、サキの持ってきた重箱を開いて二人の間に置いた。中身は餡餅だった。
「お家で収穫したお米は、美味しいですわ」
「有難うございます」
これは本音だ。サキの家の食べ物は、つまみ食いする冷えたお弁当ですら美味しい。
「で、何でしょう、賢木くん」
アキラは自分から話題を振った。こんな状況に耐えていられる神経は持ち合わせていない。
「ええ、オレの友達が、最近変なんです。何か隠してるような気がして……」
「そりゃ、友達だからって、全てを教え合うことなどないでしょう。隠していることを探るのはどうかしら」
どうせ自分のことを言っているのだ。それでもアキラは、今だけは日蔭糸でなくてはならない。地元あっての神社であり巫女なのだから、訪れた者の話を聞くことは義務だ。作り笑いを大盤振る舞いし、精一杯優しい巫女を演じるしかない。
でも、柔らかい言葉に隠し、本音を言わずにはおれなかった。
「だって、彼女、ずっと普通になりたいって言ってたっけ、それに協力してきたんですよ、オレ。なのに、今更何の説明もなく普通を演じるの止めて、今までオレらが取り繕ってきたことは何だったんだろうって思っちゃうわけですよ。
疲れたなら疲れたって言ってくれれば、それで納得できて放っておくのに、こっちだってどう接していいのか困ってしまう。
少なくとも、オレは今までの中学校生活の大部分を、彼女に合わせて送ってきていたから、今更自分だけのものにするのだって、変になっちゃうわけですよ。
あ、別に恩に着せてるわけじゃないです。
でも、オレも変えなきゃ、彼女の思惑に反することになってしまうから、結局彼女に合わせなくてはならないでしょ。
もし彼女に思惑があるならば、一人で生活してきているわけじゃなくて、今までオレらと一緒に生活してきたんだから、それ位は説明してくれないと困るんですよ」
「確かに言う通り。彼女のことを第一に考えて、賢木くんは優しいですわね。でも、引越してしまわれた表の和哉くんの代わりに彼女の世話をやきたいんじゃなくって?」
「え?」
巫女の詭弁とも思える話題のすり替えに、サキは思わず言葉に詰まった。
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