第5部:《SIN》-1
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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5;《SIN》
夕方、都内某所の小さな公園に、大きなバイクが二十台程停められていた。
会社帰りのサラリーマンや、買物帰りの主婦たちはその公園にさしかかると、まるで逃げるように足を速める。
―――暴走族には関わりたくない
どの背中もそう言っていた。
そこに停められているバイクが殆ど弄られていないノーマルタイプであるかどうかなど、バイクを知らない人間にはどうでもいいのだ。そういうものが群れているだけで怖ろしい。
「ったく、《日向》も《反日教》も一体何してやがるんだか」
集団の何人かはヘルメットを被ったままだったが、殆どは脱いでいた。その中の一人が、バイクの鍵を抜きながら、忌々し気に言い吐いた。
「まあ、落ち着けよ、神宮。連中は動けないのさ。それともこっちからつつくか」
「いや、いいんだ。オレの悪い癖さ、せっかちは」
神宮―――神宮司唯一は、自分のバイクの後部座席に座ったままの人間に答えた。この黒尽くめの男は、ヘルメットを被ったままだった。
彼の名はシン。この集団《SIN》のリーダーだ。
《SIN》の中心人物は、今この場にいる約二十名。そして《SIN》に加わる人物は、この三倍近くいるのだが、その分布が《日向》と重なっている。《日向》的にはそれが面白くなく、勝手に《SIN》を敵対視しているわけだ。
重要なことだが、決して《SIN》は暴走族ではない。しかし当然売られた喧嘩はきっちり買う。そういうわけで、現在《日向》と対立しているのだ。
かといって、《反日教》とも手を組んではいない。あくまで自分たちに売り付けられた喧嘩を買っているだけで、《日向》と《反日教》の争いに関わるつもりはないし、《反日教》の存在を邪魔と見るふしもある。
「日向が戻って来たらしいぜ。《日向四天王》のやつ、大きく触れ回って縄張り拡げてやがる」
「馬鹿な連中だよな。日向本人の後光に縋っちゃってさ」
「オレらは先公の言いなりになんかならねぇって、格好つけてるだけで様になんねぇし」
「ま、オレたちには関係ないことさ。縄張り拡げる必要ないし、こっちは」
「そうかぁ?連中がでかくなれば、こっちに喧嘩売る規模がでかくなるじゃないか」
「そりゃ、困るわな」
そこにいる者たちは、各々勝手なことを言っている。
「連中にも事情があるんだろうよ」
言い出しっぺの神宮司がが口を開いた。「自由になりたいだの、組織に逆らう反骨精神の塊になるだの、ああいった不良連中の青い台詞には笑っちゃうよな。組織を笠に着る教師連中の縮尺みたいなもんじゃねぇか。
ああいった族みたいのなんか、校則や法律なんかよりも、もっと厳しいルールがあるだろ。いや、ルールなんて生易しいもんじゃない。ありゃ、掟ってやつだな」
「ま、その通り。経験者は語るだな」
そこにいる者たちは、勝手に喋っていたが、シンその人は神宮司に声をかけて以来一切口を開かずに、仲間が話す内容をただ聞いているだけだった。
「つーか、ここでこんなこと喋るなら、部屋に帰ってからにした方がいいんじゃないか」
「そうだな」
「って、神宮から始めたんじゃねーか」
「あっ、そうか」
《SIN》のメンバーは、ふざけながら自分のバイクにエンジンをかけた。
どれも普通のバイクだ。派手な改造車は一台もない。
そこが彼ら警察に取り締まられない理由の一つだ。ツーリングクラブ《SIN》は人数が多いだけで、決して暴走行為はしない。ただ走ることが好きなだけなのに、《日向》に勝手に喧嘩を売られた所為で、不良の縄張り争いに巻き込まれてしまっているだけなのだ。《SIN》にとってはいい迷惑だ。
「取り敢えず、部屋に戻ろうぜ。話はそれからだ」
シンもそう言って、神宮司の後に跨がった。
《SIN》の規則。それは交通法規を守ること。自分たちの正しさを主張する為には、決して綻びを追求されるようなことはしない。その一環で、交通法規の遵守があるのだ。千鳥走行でゆっくり走るこのクラブを、警察も簡単に取り締まれるわけがない。喧嘩を売られている現場に行っても、クラブを取り締まる理由にはならない。
「あ、シン、オレ、抜き打ちの物理のテストが明日あるんだけど、教えてくれないか。オレ、さぼってて解らないんだ」
「学生の本領は勉強、っつーのが一般論だろ。好きで高校行ってんだし。ま、落ちないくらいにはしてやるけど」
「へへへっ、悪いねえ」
シンに言われて、一人の男子生徒は照れ笑いをした。
シンの口調に説教臭さは微塵もなく、至極和やかな口調だった。
「んじゃ、あたしは神宮に訊く。明日、数学があたるんだよね」
「おう、オレが解る範囲な」
この調子だから、日向も信吾も《SIN》の目的が解らないと言うのだ。これでは家庭教師派遣センターではないか。《日向》に売られた喧嘩など、無視してしまえばそれきりなのに、どうして《日向》に売られた喧嘩は倍返しだなどと、躍起になったりするのだろう。《日向四天王》もそこが理解できずにいた。
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