第4部:日向・《日向》-7
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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信吾はカズヤの本心などお構いなしに、《SIN》の説明を続ける。
「でしょでしょ。しかもよ、サブリーダーの神宮司とか結成メンバーの殆どが、都内でも五本の指に入るくらいの進学校の生徒なのよ」
「へーっ、よくやるなぁ」
「変でしょ」
信吾は教師に注意されたのを無視した。彼もかなりの不良生徒だ。
「おかしいのはそれだけじゃないわ。ほんとに何を考えてるのか判らないのよね。だってただのツーリング仲間よ。それがどうして地元不良の抗争に首を突っ込むのってね。
しかも日向は頭で勝負で武闘派ではないからマシだけど、シンってのは両刀なのよ。結成メンバーは頭いいし、シンもそれだけの人間を纏めてるくらいだから、相当できるはずよ。だから厄介なのよ」
この会話のノリは井戸端会議だ。
「得体が知れないと、信吾の手にも負えないよな、確かに」
「そうなのよ。目的がはっきりしてればいいんだけどね。
だって彼ら、あたしたちみたいに教師受け悪くなかったから、エリートコースに乗ってるんでしょ。どうして今更わざわざ損するようなことするのかしらね」
「日向、知ってたりして。だからさっき小出しにしたんじゃないか?」
いい加減信吾の井戸端会議調に疲れたカズヤは、話を逸らせることにした。
「あら、そうかもね。カズヤくん、冴えてるじゃない。そうね、聞き出してみる価値はあるかも」
「あ、じゃ、オレが行くよ」
カズヤは今にも席を立ちそうな信吾を遮った。
「?」
「いやね、ちょっと彼と話をしてみたくってさ。一応どんなヤツだかも知りたいし。
あ、大丈夫。少しくらい日向寄りに演じてみるさ」
そう言って、カズヤは放課後に日向の使っている空き教室に行った。勿論、《日向四天王》がいないことを確認してからの行動だ
「なあ、《SIN》ってエリート集団なんだって?」
「は、どうして?」
机に足を投げ出して寛いでいた日向は、突然やって来たカズヤの突拍子もない質問に、思わず滑った。
「いやぁ、さっき日向が信吾と喋ってたサ。
オレは何も知らないっけ、信吾に何だか訊いたんだ。でも、彼、教えてくれないんだよ。酷いと思わん?二人でオレを挟んで勝手に喋ってるんだ。気になるじゃん」
カズヤはきちんと台詞を考えてから来たのだ。取り巻きが必ずいるだろうから、そいつらにも中立をアピールしておかなくてはならないと思ったのだ。
「なぁんだ。気分変えて仲間になってくれるとばっかり思ったのになぁ。残念」
「いや、悪いんだけど、それはない」
カズヤは思わず本音を言った。
「解ってるよ。そんなころころ言葉を変えるような人間だとは、きみのことは思ってないし。ただ、興味持っただけなんだろ。気にすんな」
日向は例の笑い声を立てた。
「ここだけの話、かすみちゃんは教えたくても教えられないんだよな〜
あいつは知らないだけなんだもん。結構見栄っぱりだからなぁ、かすみちゃんは。彼は絶対に知らないとは言わないよ」
日向はプッと吹き出してから言った。
「じゃ、日向は知ってるのか?」
カズヤは心の中で「よっしゃ」と言った。
なんて思惑通りに会話が進むのだろう。こんな快感は味わったことがない。
が、すぐにその快感は折られてしまう。
「悪いなあ。実はオレも知らないんだな、これが」
日向は悪怯れた様子もなく、あっけらかんと笑い飛ばした。
「だってさ、オレ総長だぜ。大体知ってたら、あんな得体の知れない《SIN》なんてのをのさばらせないってば。
ま、オレは正直だから、お互いの利益になるようなことは、中立のきみを通して流してあげよっかな。オレが気に入ったきみの顔を立ててってことでさ。
それにできるだけ同じ条件で、正正堂堂と決着付けたいんだよ、かすみちゃんとは。うん、多分今年で卒業だから、決着つけるはめになるだろうよ」
自分も正体を隠していることなど棚に置き、日向は笑って付け足した。「あ、勿論、四人がいない時だけな」
「だって、日向が総長なんだろ。ってことは、この中では誰にも遠慮しないでいいってことじゃん」
「まあね〜。でも、目的の為なら多少の妥協も必要だぜ、人間として生きてくんだったらな、この先。それが世渡りのコツ」
そうウインクをする日向を、カズヤは複雑な面持ちで見やった。
日向は本当に、カズヤのことを信じているのだろうか。
確かに信吾にとっては役に立たない情報を喋っているかもしれないが、それが真実ならば立派なお人好しだ。よくもまあ、これで《日向》の総長をやってられるものだ。カズヤはそう思わないでもない。
自分の何らかの目的の為に作り上げた自分の組織の中でありながら、全くの個人と、団体の中の個人とで、その性格全て曲げなくてはならないのなら、それは一体何の為の組織なのだろうか。
そんなに自分を曲げてまで、日向は《日向》の総長でいたいのだろうか。
何が一体目的なのだろうか。
何れにせよ、寂しい人間だ。自分の為だけに生きているのだから。
それが日向に対する、カズヤの評価だった。
次回から第5部;《SIN》〜を始めます。
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