第4部:日向・《日向》-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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しかし、いつもながらの信吾のタイミングの良さに、カズヤは感心してしまう。
―――さっすが信吾。ナイスタイミング。
チャンスを見逃すことなく、信吾はカズヤの位置付けを、公に示したのだ。これでカズヤが《反日教》の盟主だとは、誰も考えないだろう。
「ほら、フラれたんだから、さっさと指定席に帰んなさいよ。空き教室で一人でいじけてるのがお似合いよ、あんたは」
「言われなくても行きますよっと。ほんっと、かすみちゃんはオレに冷たいんだから」
「あんたに優しくする余裕があったら、もっと他の先生に優しくするわよ。バカじゃないの」
長い間敵として関わって、常に相手のことを真剣に考えてきただけあって、二人の会話は絶妙な漫才だった。
きっと、お互いを知り尽くしているからできる言葉の投げかけ合いなのだろうが、敵同士じゃなかったら親友になれただろうにと、カズヤは心の中で苦笑した。
「あっ、そうそう。かすみちゃんも気付いてるだろ、《SIN》」
「動き出したってんでしょ。そんなの知ってるわよ、バカにしないで」
「ってことでさ、手ェ組もうよ」
「ご冗談。あんたらあってのあたしよ。それが何であんたの為に手を組まなきゃなんないのよ。冗談も休み休み言いなさいよね、バカ。
第一、あたしたちは《SIN》にとって不都合な存在じゃないわ。彼らに不都合なものはあんたらでしょ、バカ」
「さっきからバカバカってヒドイなぁ。
なあ、考えてみろよ。《SIN》は狡猾な連中だぞ。自分たちには関係ないって顔しながら、そうやって《反日教》を利用するつもりだって噂が聞こえてきたし」
「あんたバカの自覚ないの?ほんとにバカねぇ。バカが他人の心配なんかしても始まらないわよ。大きなお世話。
それに、あたしらを利用してでも、あんたら《日向》を潰してくれるんだったら、それこそ願ったり叶ったりだわ」
「冷たいなぁ」
「バカじゃないの、あんた。それでも総長なんでしょ。利用されたら利用し返せばいいじゃない。弱気ねぇ。
そんなんだから《日向四天王》なんかに利用されるのよ、バカ」
「きっついなぁ、かすみちゃんは。もう勘弁してくれよぉ」
これ以上言われたら、総長の面子が丸潰れになりかねないと思ったか、日向は今度こそ教室を出ていった。次の国語の授業をさぼるつもりらしい。
その国語の授業は、できることならカズヤもさぼりたかった。
教科担任の中年女教師は、ことあるごとに「今までのことは水に流しますからね、成績悪い人はね、心改めて頑張りなさい」とか、「煩い人は、内申下げますよ」「自分の成績と相談して、授業を聞きなさい」などの迷台詞を言い過ぎて、過去に生徒に殴られるという悲劇に見舞われ、今では担任には決してならせてもらえない、校内でも嫌われ者の教師だった。しかも問題の口癖は一つも直っていないのだからどうしようもない。
教室から出ては行かないものの、カズヤは授業に聞く耳を持たずに考え込んでいた。面従腹背というやつだ。
日向という男は、まったく不可解な人間だ。
敵の存在を喜んでいるようなふしがある。
今の信吾との会話など、どう考えてもおかしい。
あの軽口に紛れて信吾に重要と思える情報を流し、その反応を楽しんでいるようだ。
そして信吾もおかしい。
彼もあの会話を楽しんでいる風情だった。
―――一体どういうことなんだ?
考えても解るわけない。これは自分で考えずに信吾に直接訊く方がいい。
「な、さっき日向が言ってたこと、あれって信じられるの?」
信吾はカズヤの思いに気付いていない。
「あ、ああ、あれね。あいつって意外と正直なのよ、と言えればいいんだけど、あいつはバカだから、あの情報を流してあたしの反応を見て楽しんでるのよ。
あれくらいの話はあたしでも知ってる。それをあいつは知ってるから、茶飲み話にしたのよ。あんな話、全然役に立ちやしないわ。
確かにあたしは知っている情報を抱えてるけど、あいつは知っている情報をやたらにばらまくの。そうやって、自分には余裕があるんだって誇示してんのよ。ったく、子供みたいで付き合ってらんないわ」
国語の時間は、誰もが休み時間と同じに振る舞う。少し小声で話す分には、どんな会話をしているのか聞こえやしない。
「んで、《SIN》って何?」
カズヤはさっきの会話で初めて聞いた単語を口にした。
「ああ、《SIN》ね」
信吾はカズヤに言われて、初めてその存在のことを言い忘れていたことに気付いたようだ。
「この近所で集まってるバイク乗りのサークルよ。ただね、ちょっと厄介な相手で、何て言ったらいいのかしら……、暴走族ではないんだけど、ただの走り屋さんでもない集団」
「何じゃ、そりゃ?」
「うぅ、そこは聞かないでおいて。ただね、リーダーのシンってのがリーダーなんだけど、リーダーのくせにサブリーダーのバイクに2ケツして走り回ってるのよ。じゃあ、乗るなよ、みたいな。わけ判らないでしょ。
しかも、シンは基本顔出しNGで、縄張り争いに巻き込まれて本気になってしまった時くらいしか、フルフェイスを取らないのよ。そんなセレブなら、走るなって感じでしょ。
で、どうも男らしいんだけど、顔隠してるから謎だし。いっつも黒尽くめのライジャケなんか着ちゃってさ、ほんと胡散臭いったらありゃしない」
―――それをそのまま認めて相手してるあんたもおかしいよ……
その言葉は飲み込んで、「ほんとに変だなぁ」と、カズヤは大袈裟に驚いてみせた。
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