第4部:日向・《日向》-2
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「遅れてすみません。寝坊しました!須藤日向で〜す」
『こいつが敵の日向か』と思うよりも先に、カズヤは思わずプッと吹き出した。
よりによってピーチに向かって『寝坊した』とは、素直すぎるというよりはピーチを馬鹿にしているとしか思えない。現にピーチは苦虫を噛み潰したような顔で、日向に席に着くように示している。
すると今度は吹き出したカズヤに、クラス全員の視線が集まった。
全員が日向を怖れている。
例外は信吾やテルヒくらいだろう。信吾に至っては、日向に対して馬鹿にしたような視線を遠慮なくぶつけている。
しかしカズヤには、加賀見が日向を憎めない気持ちが解ったような気がした。彼の眼差しは鋭いけれど、《日向四天王》のような悪意はないように見えたのだ。
神森にいたままのお人好しのカズヤだったら見抜けなかっただろう。しかしピーチという根っからの悪人に初めて出会ったことで、寂しいことかもしれないが、カズヤは他人の目の色で、相手のことを量ってしまう。その無意識の癖を、彼自身は自分がすれてしまった所為だと思っている。
「ったく、ふざけてるったらありゃしない。あれが噂の日向、須藤日向よ。あいつの顔見るとジンマシンが出てくるわ」
「そりゃ、オーバーな」
「ちょっとね。でも、それくらいムカツクのよ。だって日向よ。
ふん、あいつ、あんまり背が伸びてないんじゃない。彼、あたしよりも随分高かったのにさ、今日見たら、あたしよりも低いもの。裏で悪いクスリでもやってんじゃないの。ざまあみろよ。将来お先真っ暗」
「まったく、かすみちゃんは日向が絡むと、もの凄くぶっとんだ想像するんだから、こっちがビビっちゃうよ」
「ほんと、ほんと」
茂木接骨院に集まった五人は、そんな信吾に慣れているのか笑って受け流しているが、カズヤは何となく笑えなかった。
信吾がたまに見せる不気味な微笑みが、この問題の奥に黒い真実が潜んでいると言っているような気がしてならなかった。
こういう不安を感じ取ることは、サキとだけの付き合いだったらなかっただろうが、アキラとサキがセットになって初めて、カズヤは感じ取るようになってしまっていた。
少しは鈍感ではなくなった証だろうが、あまり嬉しくはない。だからといってアキラに恨み節を言うこともないし、それにそこから深く考えるほどは成長していなかった。
茂木接骨院二階の《反日教》の溜り場には、受付から入る以外に、スタッフと言っても茂木本人が使う裏口から直接行く方法があった。それは《反日教》だったら誰でも知っている入口だった。
「カズヤさん、治療に行ってもらえますか?」
聡がこっそりと耳打ちをした。
「え、何で?」
何となく日向をつまみに盛り上がっている中で、カズヤは仲間外れにされたような気分で、少し不快な表情を見せた。
「この間も話したじゃないですか。《夏青葉》イコールカズヤさんだって、誰にも知られちゃ駄目だって。今日、日向本人が戻ってきたことで、《反日教》の人間がここに自然と集まるでしょう。だから治療室の方に行っててもらいたいんですよ。カズヤさんは、《日向》とも《反日教》とも無関係でいてもらわなくてはならないんですから」
「あ、そういうことか」
カズヤは治療室に一人で向かった。
カズヤは中立の立場を貫かなくてはならない。群れることよりも一匹狼を好む、クールな人間を演じなくてはならないのだ。
クールなど、カズヤとは縁遠いキャラクターだ。それでも《日向》や教師を欺く為には、《反日教》から欺かなくてはならない必要性は解っているから受け入れる。バカが付くほどお人好しなカズヤには、これ程の苦痛はないと言っても過言ではない。
欺く。
それは何もこっちの人間にだけではない。
アキラはどんな形にしろ、《日向四天王》や信吾に関わるなと伝言をくれたというのに、早速それを裏切っている。彼女が自分の為を思って言ったことくらい、カズヤはよく解っていた。だから自分がしていることを、アキラには言わない。勿論、サキたちにも言えない。アキラに伝わるのは必至だからだ。
転校してから三ヵ月、そんなこんなで誰とも連絡を取っていない状態だ。電話が来ても、うっかり出たりしたら、ついボロが出てきてしまうだろうから、居留守を使う。
サキ―――身体さえ丈夫だったら、思慮深い彼こそが、アキラを支えると言われている《夏青葉》だったに違いない。同じ超能力を持つ者が該当するのだったら、文句なしに彼が適任だ。
そのサキは今、どうしているだろう。落ち着いているとはいえ、いつ死んでもおかしくない病を抱え、その恐怖に怯えながら生きているサキ。
「生き長らえるのと死んでしまうのと、どちらが幸せなのかな」と言ったサキ。部活や空手も、現状維持には役立っているものの、根本的な解決にはなっていないような気がする。それより、あの過去へ飛ばされた事件から、サキは部活すら苦痛になっていた様子だった。
―――神様は、オレとサキを間違えたんだ。
サキの、あの哀しいまでの冷静さを、カズヤは足に低周波治療を受けながら、暇に任せて思い浮べた。
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