第4部:日向・《日向》-1
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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4;日向・《日向》
《反日教》幹部の五人は、かなり前から打ち合せをしていたのか、《夏青葉》が誰だか判られない為に名前と顔は伏せておくよう、てきぱきとカズヤに指示を出した。これにはカズヤは異を唱えた。
「それじゃ、オレがわざわざ《夏青葉》になることないじゃんか」
東京にいる以上、カズヤは方言を出さないように気を付けていた。年頃の見栄だし、いちいち聞き返されるのも億劫だ。
「いいえ、そんなことないのよ。あなたじゃなきゃダメ」
『あなたしかいないの』的な言葉に舞い上がるほど、カズヤはおめでたくない。騙されないぞとばかりに、カズヤは信吾をじっと見やったが、信吾は冷静に、そしてあの微笑みを浮かべて答えた。
「《反日教》は、いわば秘密結社よ。誰が入っているのか、お互いが判らないくらいの秘密主義で、全員の名前はあたしたち五人くらいしか完全には把握していないわ。
だって、内申書が怖いでしょ、誰だって。いつ、誰の口から事実が漏れるか判らないわけだし。だから隠しているの。それを利用しない手はないわ。
どうしても姿を見せなきゃならない時は、そうね、バイクのヘルメットでも被って顔を隠してね。
考えてもみて。もし《夏青葉》がカズヤくんだってバレてごらんなさい。カズヤくんがやってけないわよ」
「オレは内申書なんて、引き受ける時から怖くないけど」
「そうじゃないわよ」
信吾は口を隠して笑った。
「じゃ、何かバレて困ることでもあるのか?」
多分、《夏青葉》がカズヤだと知ったら、《反日教》の人間や《日向》、ピーチたちの全てが入り乱れて、状況を把握しきっていないカズヤの所に集まってくるだろう。それくらいはカズヤにだって想像できる。でもそれで困るのはカズヤくらいだ。
「隠している方が、相手を撹乱できるでしょ。情報操作は重要な作戦よ。必要になるまで明かすつもりはないの」
信吾は顔に似合わないことを口にした。
「そ、そういうことは、かすみちゃんに任せなって。始めのうちはオレらでお膳立てするし、気にすんなって。
よーし、今度こそ本気で行くぞ。《日向》を潰して、ピーチを辞めさせてやろうぜ!」
信吾の不気味な微笑みに気付かないのか、いかにも血気盛んな加賀見と梅津が、立ち上がった。
「駄目よ、もう少し待たなくちゃ。カズヤくんの足が治らないと」
「そうですよ。落ち着いて下さい」
「あ、そっか」
絵美と聡の落ち着いた一言に、二人の熱は取り敢えずは下がったようだった。
でも、誰も信吾の微笑みに含まれているものには、全然気付いていないようだった。カズヤはそれが、少し気になった。
結局カズヤの足から杖が取れ、取り敢えずは不自由なく動けるまでに治ったのは春休み明けで、再起を図る《反日教》の活動再開始は日向が帰って来る頃と重なることになってしまった。
受験生らしからぬ新学期のスタートを、包帯を巻いた足で迎えることになったカズヤだったが、もうこの頃には意志もしっかりしていて、地下活動に際して以前のような迷いはなく、どうしようかなどと作戦を自分なりに考えたりする毎日だった。
テルヒ、信吾、梅津、カズヤ……、ピーチに何らかの縁のある生徒が揃ったクラスに、ピーチはしっかり担任に納まった。二年から三年に上がる時には、クラス替えをしないしきたりのある学校だったのだ。
ピーチの力が学校内でも強いことは、生徒たちの間では有名な話だった。
始業式が終わり、面白くもないホームルームをぼーっと聞きながら、カズヤは考えていた。
どのクラスにも転入生はいなかった。
「ほんとに戻って来んのか?」
「一応、そういう情報だけど」
「ま、このクラス編成からして、ピーチが何かしないわけがないからな。どうせこのクラスじゃないのか、日向が転入してくるの。便利な一括管理ってやつ」
「そういえばさ、日向って本名なの?」
「まあね。フルネームは須藤日向。多分出席番号後ろに来ると思うな」
カズヤは自分の後ろの空席を見た。
これが相手となる男の席になるのかと思うと、あまりに近すぎて緊張する。
暇に任せて梅津と手紙のやりとりをしていた時だ。
後の扉が音を立てて開いた。その音は、できる限り抑えようとしているようで、それでも騒々しく鳴ってしまったような、控えめな大きな音だった。
クラス中が一斉に振り向き、その顔色を変えた。
身長が百七十センチ位で平均的なのに、頭が小さく華奢な体型の所為で、かなり高く見える少年が、そこには申し訳なさそうに立っていた。
申し訳なさそうな仕草にごまかされているが、斑に脱色した短めの髪の毛の下の瞳は、思わず反らせたくなるくらい鋭い眼差し。髪の色以外、大して派手な服装ではなく、カズヤよりも細目のズボンを履いている少年。
これが日向に違いない。この鋭い眼差しは、《日向》を率いるだけのものだと、カズヤは一目見て直感した。
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