第3部:反日向・反教師同盟-6
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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その後、《反日向同盟》は集まることはあったが、何かするわけではなく、中学二年の今になるまで直接対決もない。逆にアキラがいないことで、さっさと同盟もなくなったと思っている者もいた。
梅津は、入学早々体育教官室に呼び出され、今の担任に脅しに似たようなことを言われた。
尤も、その時はそれが脅しだとは思っていなかった。
「お前、春休みに妙な連中と関わってたな?」
生徒指導の体育教師が《反日向同盟》のことを言っているのだと、梅津はすぐに気が付いた。
しかし、どうして悪いことをしたわけではないのに、随分きつい口調で言われるのか不思議だった。
「あの、それだったら《日向》の方が妙じゃ……」
「口答えするんじゃねぇっ!」
梅津はいきなり頬を打たれた。
「いいか、今後一切連中に関わるな。行け!」
何も知らない梅津は、暴力的ではあったが、ピーチが心配をしてくれているのだと解釈をした。反日向を掲げることで、《日向》に狙われるということで、ピーチは忠告をしてくれたのだと、その時は善意に解釈していた。
しかし、それは違かったのだ。
信吾の呼び掛けに集まった《反日向同盟》は、その場で信じられない事実を知らされたのだ。
彼らは全員呼び出されていたことは言うに及ばず、ピーチは心配をしていたのではなく、逆に《日向》に活動しやすいように図ってやっているというのだ。
冗談じゃない!
この時から、彼らの名前は《反日向・反教師同盟》になったのだ。
全員はそこで話し合った。
いわゆる武闘派は誰もいないから、同じ土俵で闘えるわけがない。しかももう一方では教師が相手だから、進路妨害もされる可能性がある。そして彼らの被害に遭い、反感を持つようになる者は後を絶たないだろう。
このような時に、頼みのアキラはいない。
そこで決めたのだ。全員、取り敢えず目立たないようにしよう。表面上だけでも教師には従おう。しかし、後を絶たない反感を持つ者が泣き寝入りしないよう、彼らを受け入れる残された窓口になる為に、一人信吾は逆らい続けようと。
それは信吾が言い出したことだが、辛い選択だ。
「かすみちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ。あたしってこの通りでしょ。みんな油断するじゃない、一応は。あたしだからこそ、みんな安心して声をかけてくるでしょ。まさか過激な活動はしないと思ってね。
活動内容云々はいいとして、あたしが一番適任よ。腕だってそこそこあるしね」
信吾は口に手を当てて笑った。さすがに中学に進んで、彼は髪の毛を少年らしく切っていたが、仕草は相変らず女らしかった。
「だから、窓口はかすみちゃんに任せて、オレは真面目に学級委員長なんかやってるわけよ。これでピーチの目は騙せていると思うぜ」
「けど、《日向四天王》はどうかしら?判んないわよ」
「ってことは、ピーチだって嗅ぎ付けてるってことだぜ」
絵美と加賀見が言った。
加賀見は、まだ無邪気な頃の野口と友達だった。他人と違って大人っぽく見える《日向》に入ったのも、野口がいたからだった。
誰よりも早く大人になったと見せ付けたい、子供の好奇心しか動機はなかった。
当時、《日向》に日向がいた頃は、彼らは日向の下できっちりと統制が取れていた。それは独特の集団で、それがまた格好良く見えたりもした。しかも、「一般人には決して手を出すな」と大声を上げる日向が、これがまた格好良く見えた。
そんな日向がいる間は、《日向四天王》の傍若無人ぶりは気にならないくらいのものだった。
初期の《日向》には、日向ファンクラブの趣があった。ファンクラブ会員は、外見を不良っぽくする特権を得るだけで、いわゆる本業の縄張り争いに、ただの一度だって参加したりはしなかった。彼らはそうすることを望んではいなかった。そして加賀見もその中の一人だった。
中学に進学し、何もしないでも《日向》の一人として特権階級に属し、勝手気儘に過ごしながら、加賀見は《日向四天王》の繰り広げる縄張り争いが、だんだん一般生徒にまで及んでいることに気が付いた。
それは以前からあったことなのだが、日向しか見ていなかった加賀見は、日向の見ていない所でこっそりやっていた《日向四天王》の行動に気付くわけがない。日向がいなくなり、《日向四天王》を止める者が誰もいなくなって、初めて気になり出したのだ。
加賀見が《日向》を抜けたのは、そんな勝手な《日向四天王》が赦せなかったからではない。《日向四天王》と自分が同じだと思われたくないし、日向のいない《日向》など、いても何にもならないという、ただそれだけの考えだった。当然、深い考えなどはさっぱりなかった。
加賀見の失敗は、その考えを《日向》の下っ端にいる友達に、うっかり漏らしてしまったことだろう。それが原因で、今こうして対極に位置する《反日教》に加わっている。
うっかり漏らしてしまった本音に尾鰭が付いて、どのような噂になったのかは判らないが、それが《日向四天王》の耳に入り、突然呼び出されて袋叩きにされたのだ。
被害者になって初めて、加賀見は《日向》のしていることの意味を真剣に考えた。そして、信吾の所に来たのだ。
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