第1部:彼女の不可解な行動-2
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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「どうか気楽になさって。いつも大樹の守人の息子たちがお世話になっております」
巫女日陰糸は美しいお辞儀をしてみせた。
「?あ、サキとカズヤのことですね」
「そうです。まあ、わたくしはここに着任してから日が浅いですけれども、わたくしたち共通の知人がいるということで、全くの他人ではないと思えませんか」
そう優しく微笑む巫女日陰糸の姿に、葵はアキラの影を見ることはない。
「そうですね。実は私の悩みは、その二人を含んだ話なのです」
「悪さでもするのですか?」
アキラは尤もらしく笑ってみせた。
「だったら未だいいのです。日蔭糸さまは水鏡さまという名の巫女をご存じではないでしょうか?」
「ええ。我々の間ではとても高名な方ですが、直接お会いしたことは……」
水鏡の名を聞いてアキラは身構えた。図らずも、水鏡が葵に話した内容を聞くことになりそうだ。
「その方から、ある人物を守るよう頼まれたのです、私。生命を狙われているなどと物騒なことを仰ってらしたので、名前は出しません。私は私にできる方法でと約束したのですが、早速守れなかったのです。
それで、どうしたら取り返しがつくのか、それをお教え戴きたくて……」
「それはわたくしどもの長、桂小路 晃が絡んでますね。大丈夫、わたくしは彼女の一族の者」
息を呑んだ葵の表情は、自分を心配していることの証。アキラは心中で頭を下げ、自分絡みの問題の対処法を考え始めた。その為には『約束』を知らねばならない。
アキラは居住まいを正し、ごく自然体で切り出した。
「同じ一族の者だと信じて、水鏡さまとの約束をお教え戴けますか。そうしたら、解決がわたくしにも判るかもしれません」
葵は一瞬考えたが、話すことにした。目の前の女性が同じ一族の者と言うなら、水鏡に最善の策を問い合わせてくれるかもしれない。
葵は重い口を開いた。
「約束とは、その桂小路 晃と仲間たち六人を、如何なる理由であれバラバラにしないでくれというものです。
しかし私は約束したにも係わらず、早速一人欠けさせてしまいました……」
「表のカズヤくんですね。転勤で引っ越してしまいましたけど。それが表鈴木家の生業ですから、仕方ないことです。気に病まれますな」
気休めのような巫女の言葉に、葵は悲痛な声を上げた。
「いいえ。私は彼を止められなかった。これでは七人が揃って苦しむことになってしまうのです」
アキラは言葉を失った。
水鏡は預言者でありながら、無駄と知りつつ葵を通じて悪足掻きをしようとしていたのだ。
あの水鏡が自然の摂理に背くような行動を取っていたことが、正直アキラには意外だった。
「中野先生、心配はいりませんよ。
我が長なら、他の六人を守りきるでしょう。それだけの強さを持っていますよ。あなたから見て、彼女はでしょう」
「え、ええ、まあ……」
―――オレは強いじゃないかよ、もう……
煮え切らない返事の葵に、よっぽどそう言ってやりたかったところだが、アキラはそれは呑み込んだ。
「成り行きに任せられても大丈夫。長はたくさんのものに守られています。心配には及びません」
「そうでしょうか」
「ええ、長ですから。わたくしどもの長は、必ずやり遂げる方です」
微笑みながらも、よっぽど自分がそのアキラなんだよと名乗ってやろうかと思うほど、葵の態度は煮え切っていなかった。
「今日は有難うございました」
「大してお役に立てなくて、こちらこそ申し訳ありませんでした」
「そんなことはありません」
「また、何かありましたらいらして下さい」
アキラは心にもないことを言いながらにっこり微笑んで、あまり来てほしくない客を帰した。
そして翌日は新学期。
「学級委員、今回は降りる。いろいろ家庭の事情があってな」
とうとうアキラは学校の責任あるポストを、全て外れた。
「どうしたんだ、アキラ。お前、最近変じゃないか?どっか具合でも悪いのヮ?」
「お前に言われたくないな、サキ」
アキラは口の端を上げるだけの笑みを見せ、手を振った。
アキラの行動そのものは、もともと理解が難しいものだったが、今回の行動は、アキラの『普通になりたい』願望とは違うような気がする。サキはそれがとても気になった。
「何か悩んでたら、神社の巫女さんに相談したらいいっちゃ。うちの母ちゃん、腰痛治してもらってたぜ」
「あのなあ、ポン、オレ、別に腰痛で悩んでないけどな……」
―――大体、腰痛なら神社じゃなくて整形外科とか接骨院とか鍼灸院とか行けよな。あの程度なら、簡単に治る……。お前が家のこと手伝えばな。
アキラはこの間治した腰痛の女性がポンの母親だったと聞いて、よっぽど一言言ってやろうかと思ったが、そこは堪えた。
「あ、それ、いいかも。オレ、今日行くし」
「え、サキ、神社に用なんかあるんだ」
一瞬血の気が引くような感じがし、アキラは少し焦って訊ねた。
「別におかしかないだろう。これでも一応は大樹の森の神社の守人の家の長男なんだぜ。
いやさぁ、母親に用事頼まれててさ、巫女さん美人だっけ、断らなかっただけ。お礼しなくちゃならないことがあったみたい。
結局のところ、単なる雑用係だけどさ」
礼はいいから来ないでくれと、アキラは心の中で叫んだ。
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