第3部:反日向・反教師同盟-5
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
http://ncode.syosetu.com/n9537d/
急に外が騒がしくなって飛び出してみれば、校庭に黒い人だかりができていた。
顔は知っているから五年生の男の子だとは判るのだが、知らない人が見たら小学三年生くらいに見える楠木 聡が、目の覚めるような金髪に変わったテルヒや、変な形の学生服を着た岩城、その他二人、いわゆる《日向四天王》に囲まれているではないか。
《日向四天王》を怖がって、誰もが傍観者になって、聡を庇おうとできずにいる。
当然、梅津の足も竦んでいた。
その時、梅津とテルヒは目が合った。他の三人をを顎で使いながら、彼女はまるで、梅津のことを意気地なしと鼻で笑っているようだった。
それは気の所為かもしれない。
自慢じゃないが、梅津は喧嘩などしたことがない。そんな梅津が聡を庇おうとしたところで、同じように袋叩きにされるのは目に見えていた。
テルヒの視線が蔑むように突き刺さる。そしてそれに負けて目を逸らせた自分。
彼女たちを『あんなの』呼ばわりしている自分は、その視線に負けている。
そう思った時に、梅津の打算は掻き消えた。
駆け出しその輪の中に突撃した梅津は、当然のようにぼろ雑巾のような状態にされたが、それでも闇雲に振り回していた腕は、何かに当たった感触だけは憶えている。見れば川上の口の端は少し切れていたようだ。
ぼろ雑巾は動けないので、よく判らない。
飛び込んだ梅津に勢い付けられて、教師たちも仕事を思い出したようだが、暴力慣れしていない教師が役に立つわけがない。
そもそも、生徒に勇気付けられて止めに入るようでは、話にならない。教師も所詮人間だ。
その時、「くそッ、遅かったか!」と、鮮やかな回し蹴りを野口に叩き込んだ者が現われた。
「遅かったじゃない。可愛い坊やを見捨てるつもりかと思ったわ。それとも助けっ人でも頼みに行ったのかしら?」
聡と梅津に向けていた手を止め、テルヒは同級生だった背の高い少女、桂小路 晃を睨みながら高らかに笑った。
「もしかして、その可愛い子が助けっ人?もうちょっと強そうなの選びなさいよ」
アキラが連れていた『可愛い子』とは信吾だった。
「大体、あんたらがつまらないこと始めるから、こうやって何も知らない子に、うちらが手を出すはめになるのよ」
必要なことまで何も言わない癖は、昔からだったようで、テルヒに対してアキラは何も言わなかった。
その代わりに信吾に目で指示を出し、いきなりアキラは川上を、信吾は野口を一撃で地面に叩き付けた。彼女が口を開いたのはその後だった。
「そうやって、わけの解らない自分勝手な理屈を付けて、誰彼なしに手を挙げたい自分を正当化するお前らが嫌なんだよ。屯って、強がって、一人じゃ何もできないくせに意気がって」
アキラと信吾は《日向四天王》に反撃させずに聡と梅津をまさに救け出し、保健室に連れていったのだ。
梅津は、隣のクラスだった背の高い桂小路 晃のことは、名前くらいは知っていたが、それだけだった。
成績のことなど小学生では噂になるわけがなく、足が速くて背が高いくらい以外は、意外にも目立つ存在ではなかったのだ。かえってテルヒの方が学校中で有名だった。
「かすみちゃん、聡を頼むわ」
アキラはそう言うと、自分は梅津の手当てを始めた。
「桂小路さん」
「アキラだ」
なんてそっけない女子だろうと、梅津は思った。
「さっき金沢が言ってた、《反日向同盟》って?」
「聞いてそのままさ。ま、早い話が不良撲滅運動をすることを目的にした集団だな。今は《日向》がこの辺りを仕切ってるし、この先拡がると思うから、反日向を掲げてるのさ。
今日は悪かったよ、とばっちりかけちまって。それと聡を庇ってくれて、ありがとうな」
アキラの男言葉も、昔からのものだった。
「連中はオレを呼び出す為に、聡をやったのさ。聡、間に合わなくてごめんな。うっかりオレが近所で、たまたま可愛がってたから巻き込んじまった」
アキラは自分と同い年だと思えない、硬質な雰囲気があった。
「それと梅津、お前、中学に行ったら気ィ付けろよ。《日向》の連中は教師も動かせるくらいの力を持ってるのに、オレは転校しなくちゃならない。だから困ったらこのかすみちゃんに相談しろ。こいつ、見かけによらず強いし、優しく相談乗ってくれるはずだから。
あ、誤解してると思うけど、こいつ男だから。見た目は可愛いけど」
信吾は男だと紹介され、口に手を当てて笑った。だが、その時の梅津には、そのようなことはどうでもよかった。
「オ、オレも入る、同盟に。いいだろ!」
自分でも不思議だったが、自然とこの言葉が口から出てきた。目立たず、不良とは無関係に事なかれ主義を貫いてきた梅津は、我ながらこれには驚いた。
アキラは当然だが、梅津に対して答えなかった。敢えて苦しい道に引きずり込むようなことは、彼女はしない。しかし信吾がこっそりと、《反日向同盟》が集まる場所と日時をを耳打ちした。
そしてその集まりで、彼女は《春霧霞・夏青葉》という謎めいた言葉を残し、神森へと去ったのだった。
↓↓↓先行記事&物語の世界観解説を連載している作者のブログです。是非おいで下さい。
http://blogs.yahoo.co.jp/alfraia
また、日本ブログ村とアルファポリスに参加しております。
お手数ですがバナーの1クリックをお願いします。