第3部:反日向・反教師同盟-4
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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梅津は、アキラや聡と同じ小学校だった。
そして《日向四天王》の岩城、そしてテルヒもいた。
岩城とテルヒは、かなり早い時期から不良の真似事はしていた。少なくとも梅津の目から見たら、不良ではなく不良の真似事をしているように見えていた。まあ、ありがちなことだ。
小さくボロボロになったランドセルを片方の肩に掛けて学校から帰る途中、例によってバイクやら何やらごちゃごちゃに入り乱れ、中学生や高校生が公園で喧嘩しているのを、梅津は見た。
この辺りじゃ、その光景は別にそれは珍しいことではない。
卒業式を間近に控えた三月の上旬だった。
これから、あの、不良の溜り場と悪評高い地元の中学に通うのかと思うと、ウンザリしてしまう。
あの私立中学に合格していれば、こんな憂鬱になどならずに済んだのだ。
しかし、今更自分の勉強不足を悔やんでも、どうしようもない。
勿論、同じ区内の違う公立中学へ願書も出していたが、抽選にも漏れてしまったのだ。
嫌悪の表情を露骨に見せて、足早に梅津は公園の横の道を通り抜けた。それこそ珍しいものではないから、慌てて逃げたり警察に通報したりはしない。
ただ梅津は、つい怖いもの見たさも手伝って、その時横目で喧嘩を見た。
――――――!
驚いたのは明らかに小学生が四人、うち二人は知っている顔、岩城とテルヒがいたということだ。思わず梅津は、穴が開くほど二人を見てしまった。
「おい、テルヒ。あの男、知り合いか?」
そんな梅津を見て、髪は短くて声も低め、けれども顔が少女のように綺麗な、身長が百六十センチを越える男子が、テルヒに訊いた。
「え、ああ、あれ。同じ学校のガリ勉野郎。ま、あっちもこっちも嫌われてるけど」
テルヒはそう言うと、ニヤッと梅津に微笑みを投げ掛けた。「見せしめにやっちゃいます?日向さん」
「全然意味ないし。今はとにかくこの近辺に集中だろ。無駄な労力は使うなんて、もったいない。
いいか、オレは暫くはここを離れるんだから、戻るまでに粗方制圧しといてもらわないと困るんだよ」
中性的な少年に、中学生や高校生までが伺いを立てている。
日向と呼ばれたその少年は、背こそ高いが小学生であることは、一目瞭然だった。
梅津は見てはいけないものを見てしまった気がして、慌てて目を反らし、その場を離れようとした。
「梅津」
と、突然後ろからテルヒが彼を呼ぶではないか。
「……」
今まで口をきいたことすらない関係だっただけに、テルヒのその声に、梅津は背筋が凍る気がした。返事こそしなかったが、彼は足を止めた。
「下手にあたしらに逆らわない方がいいよ。あたしらは《日向四天王》。そのうちこの辺の学生はあたしらに従うことになるよ。
ま、あんたが逆らうなんてことはないか。ガリ勉君だし、先公になんか、何言ったって、どうせ無駄だしね」
梅津はテルヒたちの笑い声を背に、半ば小走りに、まるで逃げるようにその場を後にした。
自分はあんなのに囲まれて、三年間の青春を送るのかと思うと、絶望の淵に突き落とされたような気分だった。
しかし、別に何かをされるわけではない。関わりを持とうと思われるわけがない。自分のような人間に、あの連中がちょっかいを出すわけがないのだ。
―――っつーか、従うってどういう意味だよ……?
今更気付いた疑問を口にすることはないだろう。
梅津は無事に小学校を卒業した。
事件が起きたのは、彼らが早い春休みに入ってからだった。
卒業し、暇に任せて小学校に毎日のように遊びに行っていた梅津は、職員室で教師たちと喋っていた。
ちょうど学校が終わり、掃除当番以外がぞろぞろと帰って行く。それを見ていると、ほんの数日前までその中に自分がいたことが、とても不思議で、そして懐かしく恋しく思った。
「先生、金沢と岩城のこと、知ってる?」
茶飲み話のようなつもりで、梅津は二人をことを話題にした。
「降って湧いたように現れた小学生日向と、《日向四天王》を名乗ってる四人だろ。今じゃその五人がここらの中学生や高校生の不良を仕切ってるらしいね」
「そうそう。オレ、この間さぁ、公園で喧嘩しているとこに出くわしちゃって、従えよ、みたいなこと言われちゃって」
「全く、信じられない話だよ。小学六年生がこの三ヵ月で、一気に仕切りだしたって噂じゃないか。まさか、金沢と岩城が中心人物とはねえ」
教師は少しがっかりしたような口調で、でも他人事のような口調だった。
「あの二人って、そんなに強かったんだ」
梅津は無邪気に訊いた。
「ああ。二人とも、何だっけかな、空手だか剣道だか、ま、その類を習ってたな。一体、どこでどう狂っちゃったんだかな……」
その教師のため息の後の沈黙を破るように、事件は起こったのだ。
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