第3部:反日向・反教師同盟-2
本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。
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茂木接骨院の二階の一室で、信吾は数人の中学生と集まっていた。
「なあ、かすみちゃん。彼、マジで加わるって言ったのか?」
「ええ。でもね、迷ってるみたいね。あと一押しってとこね」
適当なお茶とお茶請けを前に、数人の生徒と何やら相談だ。
「どうして迷うかねぇ。あれだけの目に遭わされて」
「よっぽど意気地なしなんじゃねぇか。今度ばかりはあの人の人選も当てにならなかったってわけだ」
「大体さぁ、この状態で迷うようなやつを迎えてメリットあるわけ?」
「まあ、そう決めつけないで、もう少し見ていてごらんなさいな」
信吾は余裕の笑みを浮かべていた。
そこにいたのはカズヤと同じクラスの梅津慶一と日渡絵美、元《日向》の加賀見 崇、そして一年生の楠木 聡。
それぞれがそれぞれに《日向》に対して何かしらの思いや痛みを持っている者だ。
無論、《反日教》にいる者で痛みを知らない者はいない。勿論、それぞれの痛みを探るようなこともしない。
「以前、アキラさんは言ったよな。あの人の左腕を《春霧霞》、右腕を《夏青葉》って言うって。で、かすみちゃんが《春霧霞》で、《夏青葉》はこれから捜しに行くんだって。そんで夏が現われたら春は去るって言ってたよな」
クラスでは委員長をやっていて、一番真面目そうな梅津が、やはりアキラの不可解な世界の単語を平然と言っていた。
「でも、本当に彼が《夏青葉》なのかよ」
「彼はこの二年間を、アキラちゃんと共に過ごしてきているわ。こんな偶然ってそんなにないわ。あたしは信じてるの」
「わたしもそう思う。四月には日向本人が帰ってきて、私立に戻れないからこの中学に入るって話じゃない。
だとしたら、《夏青葉》が現われるとしたら今しかないわ。アキラさんが彼を送ってくれたと思うの、戻れないアキラさんの代わりに」
絵美が信吾に同調した。
「オレとしては、そんな腹の決まっていないヤツが《夏青葉》で、アキラさんの言った通りにかすみちゃんが去るはめになる方が、痛手があると思うぜ。だったら本物なんかいらねぇってな」
「まあまあ、ちょっと嬉しいわ、そう言ってもらえるなんて」
信吾は手の甲を口元にあててオホホと笑いながら、その口で厳しいことを言った。
「実際のところ、あたしも真実かどうかなんてどうでもいいのよ。あたしが彼を《夏青葉》に育てればいいんだから。あたしも含め、本物かどうかは判るわけないじゃない。それはアキラちゃんにしか判らないことよ。
でも、他のみんなは《夏青葉》って名前に見合った実力の持ち主が名乗り出れば、そうだって信じてしまうもんじゃないかしら」
四人が四人共、信吾の顔に似合わない考え方には戸惑うことがしばしばある。今もそうだった。
少なくとも、今はこの五人が、現在の《反日教》の全てを把握し、動かしている。それでも、アキラの残したという不可解な風流な言葉、《春霧霞・夏青葉》の意味を理解しているのは、信吾一人だけだろう。
《春霧霞・夏青葉》。
それはアキラが卒業の際に、梅津、絵美、そして信吾に告げた言葉。
「オレのことを支えてくれる二人のことだ。
左に立つのが春で、右が夏。来たるべき時に夏が現われると、それまでいた春は季節が過ぎて消えてゆく。春はかすみちゃん、お前だ。そしてオレは、これから夏を捜しに行かなくちゃならない」
たった今の今まで小学生だった三人に、一体この言葉が理解できたかどうかは解らない。アキラはそのことを考慮に入れずに不可解な言葉を残し、そうして神森へと向かったのだ。
「けど、かすみちゃん。彼にはオレらや《日向》や何かを理解できる頭はあんのかよ?」
加賀見は言った。煮え切らないカズヤの今日一日を見ていたら、こうも言いたくなるのは当然だ。
「そう、そこねぇ。今日、ここに治療しに来るはずだから、その時に話してみようって思ってるのよ、あたし」
「それしかないよね」
「でもね、きっと彼はその気になるわよ」
信吾は確信し、強い笑みを見せた。
何れにせよ、当のカズヤが現れなくては話は進まない。五人はお茶を前に、カズヤが治療に来るのを待つことにした。
梅津はぱっと見たところ、真面目そのものの中学生だ。これといった特徴は何もない。身長も体型も平均的。結構度のきつい眼鏡をかけている所為で、余計に真面目そうな雰囲気がまとわりついている。
加賀見はお調子者で、ちょっと《日向》にいた頃の名残で制服が格好良くなっていて、正直梅津と一緒にいること自体も不思議な感じだ。歯に衣着せぬ言動で、仲間内では笑わせる役目だ。
聡はまだまだ小学生っぽさのあるあどけない坊やで、声も未だ高く、怖いもの知らずの無鉄砲さも持っている。
絵美はどこにでもいる女子中学生そのものだ。校則に忠実に従った身形をしている。
信吾も含め、そこにいる者全員が、《日向》という不良グループに挑むようには見えない外見をしている。
そして彼らもそれを熟知して、その外見を隠れ蓑にしている部分がある。
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