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第2部:痛み-4

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 信吾には言わなかったが、カズヤには違う理由もあった。

 それこそ勝つ戦だったら、カズヤでも盟主になってやっていける自信はあった。しかし、勝てる戦ではないように見えたのだ。

 それは彼なりの打算かもしれない。

 カズヤはじっと学校で観察していたが、《日向》や教師に反抗する心が、カズヤ自身も含めて煮え切っていないように見えたのだ。そんな状況で、必要だからと、そこに無能な盟主を据えたところで、空回りするのは火を見るよりも明らかだ。アキラが盟主だったら、濡れた木に火をけるように可能だろうが、カズヤはそんなカリスマは持ち合わせていない。むしろ無能に近い。

 誰もが現実を受け入れ、そこには諦観が満ちている。

 第一、カズヤもそこまでする気はない。自分だけで精一杯だ。

 信吾のこともいまいちよく解らない。

 そんなに刺激が欲しいなら、自分が盟主になればいいではないか。盟主が嫌だったら、名ばかりの盟主を他に置いて、自分が陰から指導すればいいではないか。でもその気はないらしい。

 アキラという存在をひけらかさないのなら、盟主は何も自分である理由などない。


―――ふぅ…… 

 カズヤはため息をついた。まさか自分が、このような世界に関わりを持つようになるとは、生まれてこの方想像したこともなかったし、現実にこのような世界が存在しているとも思ってもいなかったのだ。

 この際、自分の超能力のことなどすっかり忘れている。

―――人生経験、やたら豊かになった気がするよヮ…… 

 彼は、今度は苦笑をした。

 カズヤの偉い点は、転校したからこうなったんだと、親の所為(せい)にしたりしないところだ。すぐにあるがままを受け入れる、それが長所であり短所でもあった。


 三年進級を目前に控え、二月末には外部の実力テストがあった。それを受けると、否が応にも受験生の自覚が芽生えてくるはずなのだが、その気持ちまでもが煮え切らず、カズヤは今更たるんでいた。机に向かって参考書を開くと、さすがに神森にいられたらと思わずにはおれない。

 あそこだったら、行きたい高校もあったし、勉強を教えてくれる、口うるさいサキと暴力的なアキラもいた。しかしここでは目が回るくらいの高校の数がありながら、勉強を教えてくれるような友達もいない。


 ところがだ。

―――ウソだろ…… 

 戻ってきた成績表を見て、カズヤは目を疑った。

 いつもと変わらない総合得点の横の校内順位の欄には、初めて見る一桁の数字がある。

 目を疑って、もう一度見比べるが、間違いではない。

 神森だったらせいぜい三十五位が精一杯の点数だというのに、この中学はよっぽどレベルが低いらしい。

 その時、何気なく自分よりも頭の良さそうな人間の顔が思い浮かんだ。

 信吾だ。

「信吾、何点?」

 カズヤは信吾に声をかけた。誘いを断っても、友達付き合いは変わらず続いていたのだ。

「あたし?そんなの受けてないわよ。何の参考にもならないですもの」

 信吾は大きな欠伸(あくび)をした。

「だって、成績が良くったって、今の状況が変わるわけじゃないし、教師が恩に着せるしで、もう、ウンザリよ。

……ほら、ピーチがカズヤくんを呼んでるわよ。頑張って」

 信吾は手をひらひらさせて、呼ばれるままに前に行くカズヤを応援した。

 別に逆らう理由もないから、カズヤは素直に前に出て、教卓の横に立った。


 担任の体育教師ピーチグミは、カズヤの成績のことをクラス中に話すことで、彼らを(あお)ったつもりでいる。それはかえって逆効果だということに気付いていないようだ。

―――本物のアホだ、この先生。

 心の中で、カズヤは幾度となくため息をついた。これじゃ誰もが諦めるはずだ。

 少なくとも、ずっとこの環境で育ってきたら、気持ちなんてえまくっているだろうと、カズヤは妙に納得した。


「なあ、そうだろう。そうだな、鈴木。おい、聞いてんのか」

「はっ?」

 いつの間にか矛先が自分に向けられていたことに、カズヤは気付いていなかった。

「お前のこの成績は、学校のお陰だな。お前は塾に通ってないんだし。そうだな、鈴木」

 はあーっ

 何の躊躇(ためら)いもなく、口から大きなため息が出てきた。

 世の中、こんなのでも教師になれるらしい。


 既にカズヤの中に、担任の体育教師は敬うべき大人という枠から外れている。

「オレ、以前と点数も何も変わってないんですけど。変わったのは順位が上がったことだけですかねぇ」

「……けどな、その成績を維持できたのは、一体誰のお陰だ」

 一瞬顔を紅潮させたピーチだったが、そこは堪え、もう一度カズヤを(うなづ)かせようと試みた。

「さあ。教科書と参考書のお陰じゃないですか。少なくとも塾でも学校でもないことは確かですけど」

 まさか自分の実力ですと言い切るだけの自信はなかったが、ピーチを逆上させるには充分な言葉だった。

 でも、(たが)の外れたカズヤの言葉は止まらない。

「もし学校のお陰だったら、みんな良い成績取ってんじゃないですか。みんな、オレよりも真面目に授業受けてますもんね」

 つい言ってしまった駄目押しに、さすがにカズヤは革スリッパを覚悟した。見ればピーチに青筋が浮かんでいる。

―――限界だ……。もう笑いたい……

 カズヤが思わず顔を背けた時だ。




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