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第2部:痛み-3

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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 テルヒは目付きを悪くしすごんでみせているから気づきにくいが、標準的な体型で、やたらと日本人離れした肌の白さととび色の瞳が印象的な、金髪の似合う人形のような顔だった。

 他の男子三人は、これがまた特徴のない少年たちなのだが、目つきがすさんでいることだけは、他の誰とも違って気になる。

 まるで子供版ヤクザか暴力団か何かのような彼らは、学校にもあまり来ないで、校外で小競り合いをしている。それが一体何の為なのか、当然カズヤには皆目見当がつかない。

 カズヤに判ったことといえば、彼らとは決して相容れないということだけだ。


 あのしつこかった四人が、ある日を境にぷっつりと勧誘に来なくなった。

 それは願ったり叶ったりだったから、カズヤはたいして気にも止めずにいたが、それが実は、四人のような世界に生きる者に誘われるという洗礼を受けてしまった人間としては、命取りになる甘さだった。


 カズヤはしつこい四人組に手を焼いて、信吾に助けを求めるようなことはしなかった。

 暴力沙汰になるようなことではなく、ただの勧誘なのだから、助けを求めるようなことではない。だから信吾も特に警戒はしていなかった。

 カズヤはそれよりも、静かになった担任の体育教師の方が、気になっていた。まるで四人組ら《日向》を注意しないように、明らかに校則違反をしているカズヤを注意せずに、素通りするのだ。

 ただカズヤの『気になる』というのは、そういう時に、瞬間気になる程度だった。


 カズヤは相容れない人種の、彼なりにじっくり観察はしていた。

 教師と《日向ひなた》。

 一見何も関わり合いを持たず、むしろお互いを避けるであろう人たちは、意外にもそうではなかった。

 調子良く自分勝手に傍若無人に振る舞う《日向》と、生活指導担当の体育教師は仲が良かったのだ。それも気味が悪いほどに。特に教師の方などは、真面目な生徒と普通に話している時の顔は酷く退屈そうに濁っているか、緊張しているかなのだ。


 校則の外で生きる《日向》と楽し気に冗談を言い合っている体育教師の姿を見ていたら、この中学の一種独特の世界で、真面目に生きていることが酷くバカらしく、虚しく感じてきてもしかたがない。

 しかしクソが付くほど真面目な少年少女たちは、《日向》のように乱暴もしないが、調子良くずるく生きるという融通も利かない。真面目が美徳の時代の終焉しゅうえんを見ているようだ。

 しかしその中でも、一人で立ち上がれずに真面目を演じている生徒や、ただ革スリッパや内申書を怖れて行動を起こせずにいるだけで、心の中に《日向》や教師に対する憤りを秘めている生徒は、数多くいるに違いない。

 そういえば、カズヤのように校則違反を堂々としている生徒もいない。校則の外に身を置きながら、教師とは相容れない真面目な生徒に、彼はなっていたのだ。


「ねえ、カズヤくん。どんな所だか見えてきたと思うけど、この間の話、どうかしら?」

 とうとう信吾は声をかけてきた。

「何の話?」

 判ってはいたが、カズヤは敢えて訊いた。

とぼけるの下手ね、カズヤくん」

 信吾は口に手を当てて笑った。

「《反日向はんひなた反教師同盟はんきょうし》よ。名前が長いからね、忘れても仕方ないわ。

 でね、あなたなら盟主になれると思うの。だって、アキラちゃんがあなたをここに寄越よこしたのだから」

 水を差すのが悪いくらい明るい未来を想像している信吾の顔は、とても晴れやかだった。

 その表情だからこそ、もう黙っているわけにもいかない。


「そのことなんだけど、オレがアキラと知り合いだって、オレ、ここでは誰にも言ってないの、気付いてると思うけど」

「そうね。知ってるわ。彼女の知り合いってだけで、ここでは一目置かれてしまうだろうって、カズヤくんも判ってるんでしょ」

「それもある」

 カズヤはアキラの伝言を言うことにした。

「あいつ、転校間際のオレにこう言ったんだ。《日向四天王》と霞 信吾、両方とも付き合うなって」

「えっ?」

 少し驚いた顔を、信吾は見せた。

「オレがここに来たのは、純粋に親の仕事の都合で、彼女の司令じゃない。大体、同級生の命令で普通の家庭の一家が動く?常識で考えてもあり得ないだろ。

 それにオレがこのスタイルを貫くのも、アキラに言われたからじゃなくて、単純にオレがそうしていたいからだ」


「本当?アキラちゃん、ほんとにそう言ったの?」

 信吾の顔は、さっきとはうって変わって青く見えた。

「ああ」

「ふーん。……彼女、ずっとこっちからは連絡取れないから、あたしは知らないのよ、アキラちゃんがどういう生活をしてたか。もしかして、平和ボケしてんじゃない?」

 信吾の毒のある口調に、カズヤはむっとして言い返した。

「それは少し失礼な言い方じゃないか」

「ごめんなさいね。でも、アキラちゃんらしくないんですもの」

「どうしてあいつが普通に生きようとしてるのが、彼女らしくないんだ。そうやってかせめるから、あいつは逃げるんだよ」

「随分仲が良かったのね、カズヤくん。

 でもね、あたしはアキラちゃんとは小学校からの付き合いなの。彼女の人となりは、子供の頃から知っててよ」

「変化に充分な時間は、長さじゃないだろ。信吾も神森に行ったら、すぐに変わるさ」

「願い下げだわ。そんな刺激のない生活は。

 いいわ、アキラちゃんがそう言ったなんて、あたしは未だ信じられないけど、その気がない人を盟主に抱くのは、明らかに勝つ戦に負けに行くようなものだもの。

 あたしが《反日向・反教師同盟》の復活を狙っている話だけは、秘密にしててちょうだい。それだけでいいわ」

 信吾はぷいとカズヤに背を向け、歩き出した。




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