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第1部:彼女の不可解な行動-1

本作品は、前作『約束された出会い』編の続編となります。先にそちらをお読みになられた方が、スムースに作品世界観をご理解戴けることと思います。

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1;彼女の不可解な行動


 明けて元旦。

『ごめんなさい。何とか引き留めようと思って、手を尽くしてみたけど……』

 封書で来た葵からの年賀状は、ただの詫び状だった。

「なんじゃ、こりゃ」

 水鏡と葵との約束のことなど知らないアキラは、謝られる理由がさっぱり解らずに面喰めんくらったが、葵がカズヤの家に通っていた理由だけはこれで解った。


「どうでもいいけど〜」

 アキラは手紙を片手に板の間にひっくり返った。

「っつーかさ、オレは何処どこにだって行けるんだから、何もこんなに近い所を修業場にしなくてもいいじゃないか、水鏡さまは……」

 アキラはただでさえ色白な顔の上にお白粉しろいを塗りたくり、(まなじり)と唇に紅を差し、額に花鈿(かでん)を施し、白い小袖に緋袴(ひばかま)を身にまとうという格好を、いつものものに改めた。

「こういうのを嫌がらせって言うんだよ、まったくもう……」

 罰当たりなことに、脱ぎ捨てた小袖に八つ当たりする。

「どうせ、身近な人にバレないようにすることが修業だって言うだろうさ。解っちゃいるんだ。でも、白塗りは嫌いなんだよ、オレは」

 アキラは化粧を落とし、暖かいお茶を前にほっと一息付いた。

目眩(めくら)ましで済ますこともできるんだろうけどな、こっそり見に来た誰かにばれちゃ(たま)らねぇ。あぁ嫌だ嫌だ」

 こうなると、完全にただのぼやきだ。


 アキラが一人ひっくり返っているのは、彼女の自宅ではない。

 彼女は水鏡に言われた通り、転校するまでの間だけの巫女修業を始めていた。

 場所は、よりによってあの『大樹の森』。

 まさかここの神社まで瑞穂の谷に関わりがあるとは思ってもいなかったアキラだが、彼女に与えられているコンピュータ端末で調べていれば、本当は簡単に気付いていたはずだ。

 しかし仕事以外には興味を持たないアキラは、大樹の森の神社のことなど調べようと思ったこともなかったのだ。ここに来た理由は能力者を捜すことで、神社のことなど何一つ話題には上っていなかったのだから、別にその地域の神社のことなど不審な点がないのだから調べもしない。それに神森への移動は一時的な避難の意味合いもあったのだから仕方ない。

 水鏡からの通達を受けて、慌てて大樹の森の神社のことを調べてみれば、驚くことばかり。過去代々の巫女たち、アキラの祖先たちは、必ずここで巫女をした経験を持っているではないか。だから霊能力者がこの土地では信じられていたのだ。

 当の能力者のアキラが、所詮伝説だとの一言で、伝説の内容を信じていないから、気付くものも気付かない。

 冷静に考えれば全て事前に気付いていたであろうことに気付いていなかったアキラは、そんな自分に腹を立てていた。それでも彼女らしいのは、またそれ以上は調べようとしないところだ。


 今日は元旦。

 大晦日の朝に、大樹の森の神社の初詣が初仕事と水鏡に言われ、鬼のように忙しい新年を迎え、ようやく奥の控え部屋に戻ってきたところなのだ。

「オレも誰かにお祓いしてもらいてぇ」

 アキラはとうとう大の字になった。

 去年はコメチとナミと初詣に出かけ、そういえばサキとカズヤと鉢合わせをした。あの巫女に今年は自分がなっている。何という嫌がらせだろう。

 とにかく面倒臭いことになることだけは嫌だった。何とか三ヵ月間だけでも、知り合いにばれないように巫女として働かなくてはならない。とにかくばれることだけは嫌だった。

 そう、アキラは水鏡と葵との会話の内容を知らないから、彼女の巫女姿がばれたら、全員が修羅に堕ちるということも知らないし、修羅とは何なのかも知るわけがない。ただ単純に嫌なだけだった。


 冬休み最終日も、アキラは大樹の森の神社にいた。

 大樹の森の巫女の名は、『日蔭糸(ひかげいと)』といつも呼ばれていた。

 新年の初詣客ばかりではなく、神森の人たちは些細なことで神社に来る。失くしものをしたとか、病気になったとか、悩みがあるんだとか、アキラにしてみれば他力本願で腹立たしく感じるようなことで、巫女の所に話に来るのだ。

 第一、病気は巫女の領域ではない。

「日蔭糸さま」

 部屋の外から呼ばれ、アキラは顔を上げる。

 この時期は、誰かしら手伝いの人間が表で取り次ぎ役を買ってくれている。大概が地元の人間だ。

「どうぞ。お通しして下さい」

 アキラは奥の部屋から声を出した。客は一番手前の部屋で受けるのがしきたりで、奥の部屋へは誰も入れてはならなかった。

「どうかしましたか?」

 手には(さかき)の枝を持ち上座から姿を現わしたアキラは、正座し頭を下げている来客を見て、思わず声を上げそうになった。

 葵がそこにいる。


 アキラは冷汗を隠し、平静を装って声をかけた。

「わたくしに話すことで気が済むのでしたら、何でもお伺い致します。大した助言はできませんが」

「すみません、すごく個人的なことなんです。でも、巫女のあなたなら何か策を授けて下さるのではないかと思って……」

「わたくしごときに、そのような大変なお役目が果たせるかどうか判りませんが、最善は尽くしましょう」

「有難うございます。私、この神社に来るのは初めてと言いますか、このような場所自体が初めてで、少し戸惑ってしまうのですが……」

 アキラは仕事となると、必要以上にプロ意識を持ってしまう自分の癖を理解していない。

 次から次へと歯の浮くような台詞せりふを並べ立てていることに気付かずに続けている。

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