アウレリア
よろしくお願いします!
自分で作ったチラシを広場の掲示板に貼り出し、夕方まで散歩しながら家へ帰った弥太郎は、途中で買ったコロッケを頬張りながら申込者を待っていた。
コンコン。コンコン。
ドアがノックされる、突然の訪問に慌てる弥太郎。そして、ドアの向こうに立っていたのは…
「ス、スレンダー。美少女!!!……」
「あの、なんですか?突然私の胸を見てスレンダーって。変態さんの家なんですが?もう帰ります。失礼しました。」
立っていたのは顔は強い意志を感じさせる大きな目によってバランスが美しく整えられていて、身長160㎝くらいで髪は長く、ほっそりとした脚、慎ましやかな胸をした女性であった。身なりは少し傷んだ白ワンピースの上に赤いトガを纏っていて、町にいる娘たちのスタンダードな服装であった。
その彼女はいきなり弥太郎にスレンダーと言われ、大きな目を見開いて怒り、帰ろうとしていた。
「待って待って下さい。スレンダーは胸を見て言ったんじゃないんです!そう、脚、綺麗な脚だと思って!」
「そ、そうなんですか?ありがとうございます。それでは、失礼してもよろしいですか?」
なんとなく不審に思いつつも女性は脚を褒められて頬を赤らめつつ屋敷に入っていく。
「それでは今回、掲示板の求人を見て来られたということで間違いないですか?…どうぞ、召しがって下さい!」
営業時代に培ったお茶出しのスキルを活用しつつ訪問の理由を確認していく。」
「はい。私の名前はアウレリアと言います。年齢は今年で19歳になりました。これまでは、家の手伝いをしてました!」
アウレリアと名乗った少女は、礼儀だしくハキハキと返事をしながらも部屋の豪華さに驚いているようだ。
「へぇー!まだ19歳なんだ。おぉ!りんご園か!そういえばここの特産品だったね。…ところであの問題は解けたかな?」
「あ、はい!ちょっと考えましたが…」
アウレリアはちょっと間を置き、
「答えは、兆ですよね!?あの、数字の単位の!」
緊張しながら解答したアウレリアを正面に見ながら、弥太郎はゆっくりと答えた。
「ファイナルアンサー?」
「??ファイ、ファイナル、アンサー?」
意味の分からない言葉に淀みながら続くアウレリア。
「正解!!!いやなかなかやるなアウレリアさん!いいねー!あとは、地理と歴史については詳しいのかな?」
弥太郎は、満足そうに笑顔でアウレリアに尋ねていく。
「そ、それなりには!学校での成績は数学と地理、歴史は、トップでしたので!!」
「それは助かるな!俺、この世界のこと全然分かんないから。わかった!アウレリアさん可愛いし、頭も良さそうだ。…決めた!よろしく頼むよ!」
弥太郎から内定をもらったアウレリアは大き目を見開いてしばし喜び、その後ちょっと困り顔で、
「あの、…あとお給料のことなんですが…」
「あっ!そうだよね。大切なこと忘れてたよ!ちなみに聞きたんだけどこの国の人達って年間の年収ってどのくらいなの?」
アウレリアは知っていて当然のような質問をしてきた弥太郎に首を傾げながら、
「首都テールとここベネではだいぶ違いますが、テールだと300万ドラ、ベネだと150万ドラ程度でしょうか?」
「そんなに物価が違うのか?まぁ確かにテールのりんごは高かったなぁ。じゃぁりんご農家の実家は儲かってるんじゃないか?」
腕を組みテールの町並みを思い出すような仕草をしつつ弥太郎が喋っていく。
「そ、それが、この町のりんごを買い占めてテールで売っている商人がいるんですが、その商人が我々のりんごを安く買い占めて、テールでは高く売りつけているようなんです…。」
「そんなのこの町の農家が集まって商人に買値をあげないなら売らないって言えばいいんじゃないか?」
当然の対応をなぜしないのか不思議に感じた弥太郎が聞いてみると
「いま、数年前から国境近くで魔族軍と王国軍の小競り合いが起きていて、馬車などがかり出され、首都テールまでの我々のりんごを届けるための馬車はそのほとんどを商人が手にしているんです。そのため、商人がいないと私たちはテールでりんごを売れないんです。」
アウレリアが大きな目を細めて涙を浮かべながら話す姿はさっきまでの喜びようが嘘のようだった。
「なるほどな。商人が流通ルートと手段を独占しているために生産者が泣きを見てるって訳だ。それはふざけた話だなぁ。」
そう言うと弥太郎はしばし黙り込んだ。その姿を心配そうに覗きこむアウレリア。
すると、弥太郎はゆっくりとアウレリアの手を握り、すっと息を吸い込み、
「よし、この仕事をこの世界最初の仕事としよう。一緒にやってくれるな?アウレリアさん!」
「えっ?ど、どういうことです?そ、そういえば募集の張り紙に「救世主」とか書いてありましたけどそれって?わたしってなにするですかぁーーー!」
アウレリアは握られた手に頬を赤らめながら、突然の弥太郎の宣言に質問を投げかけていた。
「救世主?そうだよ!俺はこの世界を救いにきたんだ。そう、商いでね!」
「???……はいっ。」
アウレリアは全く意味がわからなかったが、弥太郎のはしゃぎぶりに思わず返事をしてしまっていた。
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