英雄とリンゴの町
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英雄とリンゴの町。これから弥太郎が向かう町の別名である。
かつて、このニータの世界は深刻な食糧不足に見舞われた。
農牧の技術を持たない魔族は魔王自らが編成した80万からなる大軍隊を率い、アネルタ王国へ侵攻を開始した。それに対し人類も当時の国王アウグス一世の元、70万の軍隊を組織。
世界を巻き込む戦争は多くの犠牲者を強いる戦乱を各地に巻き起こすかに思われた。しかしそうはならなかった。
世にユリウスという救世主が現れた為であった。生まれも育った町も伝えられていないこの男は、この世界に突如現れ、国王を説き伏せ1万の精鋭部隊を組織。戦術眼に優れたユリウスは、当時人間にも魔族にも踏破不可能と言われていたアズマ山脈越えを敢行。多くの犠牲を出したが山脈付近に存在した王国の勢力外の部族も取り込みながら見事突破。
踏破不可能と言われた峻険アズマ山脈を背に陣を敷いていた魔王軍の大軍団は少数とはいえ数多の困難を超え鉄の結束を誇ったユリウス軍に背後を強襲され、80万の軍隊のうち魔王を含む10万の勢力を圧倒。そのまま残りの勢力が結集する前に魔族の支配する国を蹂躙しつつアネルタ王国へ帰還したのであった。
のちにユリウス戦役と呼ばれた戦いの被害は
王国軍 3千人
魔王軍 6万人(当時の魔王も含む)
このユリウス戦役により魔王を失った魔族たちの結束は乱れ人間側への侵攻を中止したのであった。
機を待っていた王はすぐさま全軍を率いて魔族領土へ侵攻を開始したが、王国の食糧も不足気味であったこと、魔族軍の統制が予想よりも崩壊していなかったこともあり一ヶ月足らずで引き上げることとなった。
ともあれ、領土を犯されることなく、魔王を討ち取るという戦果を挙げたユリウスは英雄、救世主と呼ばれ、凱旋式を執り行った。
そのユリウスが晩年、首都テールから住まいを移したのがベネであった。
この町は、ユリウスが越してきたのち、同氏が好んだと言われるリンゴが特産品として広く作られるようになったのであった。
「やっと着いたなー。馬車なんて乗ったことなかったけど結構揺れて全然眠れなかったな。…さて、これが救世主ユリウスの像か。」
2日の馬車の旅を経てテールからベネの町の門前にたどり着いた弥太郎は、その門の隣に堂々と仁王立ちしているユリウスの石像をみながら道中に一緒だったリンゴ商人から聞いた昔の英雄譚を思い出していた。
「じゃっ旦那!なんかあったらまた声かけてくだせい!金があればなんでもお教えしますよ。ひっひっひっ!」
英雄譚を話してくれた商人が気色の悪い笑い方をしながら遠ざかっていった。
「はぁ。なんか向こうの世界にいた時の、自分のミスを部下のせいにしていたクソ上司の笑い方に似ていたな。あいつはロクデモナイ奴に違いない。。。」
「…さて、ルビコンとかいう家へ向かおうか。女神のやつちゃんとした家なんだろうなぁ?」
ボヤきながら弥太郎は英雄とリンゴの町、ベネへ入っていくのであった。
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