資本金3千万のスタート
よろしくお願いします!!
ここは世界と世界の狭間。全ての世界とは隔絶された神々の空間。そこにとある男女がテーブルを挟んで真剣に見つめ合い…………労使協議を行なっていた。
「だから、俺はこれまで25年間リタイアすることなく励み、しかもここ3年はクソ広告会社に就職して営業してたんだぞ!頑張ったんだぞ!せめて、これまでの世界でもらえるはずだった生涯賃金1億円は要求させてもらう!」
「いや、弥太郎っちにそんな魅力はない!此れまでの22年は学生だったし、3年の会社勤めだってもう辞めようとしてたでしょ?渡せて300万円ね!」
電卓を弾きながら女神イシューが弥太郎の価値をはじき出す。しかし納得いかない弥太郎はさらに食いかかる。この押し問答をかれこれ1時間も続けていたのであった。
「そんな馬鹿な…300万て、俺の人生もっと頑張ったわ!泣いちゃうよ俺!あと、俺の名前の呼び方をコロコロ変えるなよ!なんか調子狂うわ!
頼むよ!これじゃ次の世界でやる気でない!先立つものがないと商売も出来ないじゃん!」
「…?弥太郎どんは商売する気なの?あなたは救世主なんだから冒険者として敵を倒すんですよね?」
弥太郎の商人精神に首を傾げた女神イシューは弥太郎に問いかける。すると弥太郎はさぞ当たり前のように
「何言ってんの?乳イシューさん!俺に切った張ったできるわけないじゃん!確かに高校まで剣道やってそれなりの成績残したけどさ、おれに人とか魔物とかと戦う勇気も技もないよ。剣道っては精神だから。
ほら、俺たちは文明人だろ?戦いじゃなくて、経済で世界を繋げたいんだよ。
「智によりて勝つが第一、威によりて勝つが第二、武器を用いるが第三、城を攻めるが最下等の策なり。」
って偉い人も言ってただろ?みんなが豊かになれば、無駄に死ぬ人はいなくなるじゃないかと思うんだよ。俺は。甘いかもしれないけど。」
「ち、ちち!?…まぁいいでしょう。さっきの言葉、孫子さん、ですね。…ふふふ、やっぱり私は運がいい。いいでしょう。それでは貴方にはこの世界の退職金、また異世界での生活費として、3千万円と同じ価値となるニータで使える3千万ドラを授けます。あとは、貴方の勝負服を頑丈に加工して数着用意しておきましょう。これでカバンは少々大きくなりますが無くさないように気をつけて下さいね。
さぁ。もう遅くなってきましたね、まずは人間の住むアネルタ王国の首都テールへ貴方を送ります。そこから東へ馬車で2日かかる地方都市ベネへ行ってください。その村にルビコンという家を用意してあります。古いですが頑丈で広いお家です。かつての勇者が住んでいた家ですのでそこへお住みになってくださいね!それでは、貴方の異世界人生と素敵な出会いを願って、、また会いましょうね!」
弥太郎の言葉を聞き終わると女神イシューが立ち上がり胸の前で手を組み、語り出し、弥太郎の周りが白く輝き出した。
言葉を終えると弥太郎を見つめて、ウインクした。
弥太郎は言われたことも忘れるほど美しい女神の顔を凝視しながら光の中に消えていくのであった。
「ここが異世界か。なんだか古代ローマのようなところだなぁ。てか、さっきはイシューに見惚れて言えなかったけど、俺は1億円って言ってたのになぜか3千万円で押し切られたなぁ。しかもなんか、最後の送る言葉、飲み会の一本締めみたいだったし…。
まぁいいか。というか、言葉とか文字は俺もこの世界に対応してるみたいだな。よかった。さて、まずは…おばちゃん!そのリンゴ一つくれ!」
「はいよ!550ドラだよ!…なんだ、あんた変な格好してるね?なんだいその首を絞めてる布は?」
異世界、アネルタ王国首都テール。王族が住む、華麗な宮殿は1万坪あろうかと思われる広大な土地に輝きを放つ大理石によって作られ、その周りには芝生が整備され、池、庭園などが整備されている。
それらを横目に繁華街のど真ん中に突如転移させられた川崎弥太郎は、ポツポツ並ぶ路面店の中から果物屋を見つけ腹ごしらえをしようとしていた。イシューが用意した勝負服、元の世界で営業用としてきていたリクルートスーツ姿で。
「あぁ。これはネクタイっいってサラリーマンの必需品だよ。この世界には無いなら気にしないで。…おばちゃん?550ドラってまじ?高くね?」
「何言ってんのさ?あんたお上りさんかい?これでも原価ぎりぎりだよ!早く買った買った!」
自分で選ぶことも許されずなんとなく1番傷んでいそうなリンゴを渡された弥太郎は早速異世界でカモられた気分になりながら支払いを終え、無言のまま女神に言われた通り馬車のチケットを購入し、2日かけて地方都市ベネへ向かうのであった。