はじまり
ちょっと自分の営業ネタも入れてく予定です笑
ぜひ読んでください!!
この世の中は終わってる。本当に気が利いて、優しくて、人の痛みがわかる人間はさっさと死ぬ。人の痛みを想像して、自分の苦しみも抱え込み、そして、死んでいく。
自らの仕事に、上司に、同僚に失望し部屋に籠ったまま出てこない男が1人。そんな男の前にある日「女神」が舞い降りるところからこの物語が始まるのであった。
冬が過ぎ、朝起きて布団から身体がはみ出ていても寒くなった頃、川崎弥太郎は目を覚ました。いつも通り食パンを一切れと目玉焼きとウインナーで朝食を取っていた。
ふと、覗き込んだツイッターのトレンドはいつも様にアニメの声優の結婚による悲報や腐った政治家の汚職のニュース、真偽のほども分からない外国人に対する記事。
それらにツイッター民たちが何の責任感もなく、コメンテーターのように鋭いコメントを羅列していく。自分よりくだらない人間を探すように。
テレビもラジオもない部屋で1人、食事をしながらツイッターを見ていた弥太郎は自分の周囲がレースカーテンの外から強い陽射しが差し込んできた時のように、眩しく明るい光に照されているとこに気がついた。
「…なんだ?これ?」
不思議がり目を細めながら呟く弥太郎にどこらか声が聞こえてくる。
「…弥太郎さん。…川崎弥太郎さん。聞こえますか」
「だれだ?外からか?だれが呼んでる?」
「川崎弥太郎さんですね。私は女神イシューです。あなたは、当選されたのです。ここではない世界。ニータの世界を救う、救世主になっていただくこととなりました。」
謎の声が弥太郎の頭の中に流れ込み強制的に理解させてくる。そして、部屋を包んでいた光が弱くなり、そこには金髪の美少女が立っていた。
「……だれだ?あんた。なんでうちの中にいる!どうやって入った?…さっき光は…」
突然の少女の出現に狼狽を隠しきれない弥太郎は口にしていたパンを盾にして顔を防御しながら矢継ぎ早に質問を投げかける。
すると少女は静かに口を開き、
「やぁ。川崎弥太郎どの。私は女神イシュー!先ほど脳内に情報を入れた。思い出そうとすると自然と理解するようになってるわ。じゃそういうことだから早くニータに行きましょ?異世界があなたを待っていてよ!」
「め、女神、、イシュー。身長156㎝、スリーサイズは上から84-59-85。体重は……」
何かを思い出したように弥太郎がつぶやき始める。
「た、体重は…はっ!…」
「だ、だめー!!!」
女神イシューによる強烈な右ストレートにより何かを口走ろうとした弥太郎は壁に叩きつけられた。
「痛って~~。なにすんだ!あんたが色々思い出してみろって言ったんじゃないか!だいたいどうやってこんなとこ入ってきてんだよ!質問に答えてくれよ!」
「弥太郎はんが悪い!女神の体重を口にするなど重罪だよ!死刑ものだからーー!」
頬を膨らませて腕を組む金髪の美少女は怒っているのに見惚れてしまうほどの美貌で、さらにその腕の上にはたわわに実った胸がこれでもかと鬼盛りになっている。
(こ、これは、夢か?夢だよな。…でも、なんかさっきから頭の中に知らない世界の鮮明なイメージが浮かびがってきてやがる。なんだここ?知らない場所だよな…。)
「頭が混乱しているようですね。簡単に説明すると、いまこの世界ではない、ニータと呼ばれる世界が混迷しているのです。人間は魔族たちに襲われ、奪われ、日々恐怖しています。そこで、人が余っているこの世界から人材を派遣することになったのです。選考は実に明瞭でした。まず、世界から居なくなっても困らない人。そして、そんなに頭も悪くない人。健康な人。この3点からを満たしたものたちから今世紀最大の女神くじに貴方が選ばれたのです!おめでとうございます!」
「ちょ、ちょっとまて!それ馬鹿にしてるだろ!なんだよ居なくなっても困らない人って!要らない子みたいに言うなよ!俺は行かねーよ!そんな危ないとこ!」
怒りを収めたイシューは丁寧な言葉と笑顔で弥太郎に語りかけるが、弥太郎が食ってかかる。
「弥太郎どん!そんなことはないですよ!決して馬鹿にしていません!そして、この決定に拒否権はないのです。
すでに世界はあなたのことを忘れています。私がここにきた時にあなたに関する記憶・記録を全ての関わった人から消しましたから。諦めてください!」
イシューが大声で弥太郎に向かって大きな胸を突き出す。
「そ、そんなことあるわけないだろ!………ま、マジかよ」
スマホを取り出し、友人に電話をかけようとしたがなぜか電話帳の記録が全て消え、しかも、プロフィールまで自分の名前が消えてしまっている画面を見た弥太郎は絶句した。
「わかったでしょ。さぁ弥太郎たん。異世界に行こう。楽しいよきっと!なにか欲しいものはある?チート能力とか無敵の武器とかはあげられないがお菓子ぐらいならやれるわよ!」
勝ち誇ったように振る舞い、敬語がめんどくさくなりついタメ口になったイシューを他所に弥太郎は何かを決心したようだった。
そして…そして彼は大きな声で高らかに、宣言した。
「こ、この世界を去るのであれば、退職するなら、退職金をくれ!!!!!」
弥太郎の異世界移転は、退職金をめぐる賃金闘争から始まるのでった。