義弟のおかげです
「ーー貴様との婚約を破棄する!」
それまでの和やかな雰囲気がぴきっと凍りついた。
それもそうだろう。
この舞踏会の主催側に属する王太子が突然、一人の少女と自らに忠誠を誓ったもの達を連れて一方的な宣言を行ったのだから。
自ずと人々の視線は婚約破棄を告げられた令嬢に集まっていく。そんな中、当の本人はその様子をまるで関係が無いとばかりに、ぼーっと眺めていた。
あえて言うならこの時の令嬢の心の中は、いつもなら”またか”に尽きるのだが今回ばかりはあの子は大丈夫かなと只々心配していた。
「聴いているのか!貴様のことだぞ」
その言葉を聞きようやく一言
「えぇ、わかりましたわ」
「そうだろう!分かったに決まって……え?
……分かったって…本当に分かっているか?」
まさか少しの抵抗もなく肯定されると思っていなかった王太子は続ける言葉を失ったのか件の令嬢をただ見ていることしかできない。
その令嬢といえば確かに王太子の方を見てはいるが、その実取り巻きの一人を一心に見つめていた。
見つめながら今回はどうなるのだろうと、今までの事を考えはじめた。
1度目はあそこに隠れている庶民上がりの娘をいじめて婚約を破棄された。詳細は省くがあの時は確かにやり過ぎたので死罪もまぁ仕方がない。
2度目は反省して注意に留めたのだが見ようによってはいじめに見えたとかで爵位を没収され。
3度目は静観を決め込んだのに何故か私が主犯だと同じく爵位の没収。
その後も4度、5度と繰り返すうちに面倒になり何をしても結果が婚約破棄ならやりたいことをしようと決めた。
幸いにしてなのか、婚約破棄は絶対されるがその後の事については自分の行動次第で軽くできたのだから前向きに考えることができたのだろう。
まぁ、いくら軽くできても死因は殆ど変わらないのが残念なのだが仕方がない。
そして今世で彼女がなにより大切にしたのが”家族”だ。正しくいうと義弟なのだがこの際一括りにする。
それまでの彼女の家は父も母も別に愛人がおり兄は早々に家を出て行き、義弟も父の愛人の子であり、たびたび母に暴力を振るわれていた。
今までの生では”そういうもの”として思っていたのだが、ふと目に付き試しに構ってみるとーー母からの暴力からさり気なく助けてみたり、ご飯を抜かれていたので扉の前にこっそり置いてみたりーー少しづつではあるがだんだんと笑ってくれその笑顔のなんと可愛いことか。呆気なくその笑顔に絆されブラコンと化した。
その後は今までの生で得たものを惜しみなく使い、義弟が幸せになれるようにと奔走した。途中で父と母のすれ違いらしき物を見て頭を悩ませたり、兄の婚約者との痴話喧嘩に巻き込まれたりしたが詳細は省く。
もちろん、義弟があの子に会えるように後押しもした。これがなかなか大変だったのだがまぁ良しとしよう。
いろいろ想定外な事が起こったりもしたがその甲斐あり、これならば自分の力で幸せになれるだろうと言い切れるまでに育て上げ、
そして今日この日をむかえたのだ。
「っ……!………!!聞いておるのか!」
「……ええ、聞いておりますわ」
ふっと意識を前に向けながら彼女は向こう側に立っている義弟を見る。
その子と一緒なら例え選ばれなくとも不幸になることはないと分かっている。
だからこそ、間違いなくあの子との出会えるようにしたのだから。
…でも、何だろう。いつもと少し違う気がする。
「貴様は昔からそうだ!……!」
王太子の言葉を聞き流しながら、違和感を探る。
「えぇ、そうですわね」
何が違うのだろう。早く見つけないと今世の終わりが”あれ”なら時間がそろそろない。
「…っ、なぜ貴様は…」
ふと気づく、王太子がいつもより哀しげにしている事に。王太子の後ろに控えている兄が、父と母が心配そうにこちらを見ている事に。
義弟がその瞳に感情を浮かべている事に。
それを見て何故と思う。
こんな事は今までなかった。私は断罪されるべき立場の人間であるはずだ。
それに思う、もう遅いと。
少しだが、背後がざわつきはじめた。
我が家には敵が多いしー多いといっても大概が勘違いからきたものだがー私を憎んでいる人はたくさんいる。
一度言ったが私の死因は殆ど変わらない。
一つは爵位を没収され流行り病にかかって死ぬ。
もう一つは我が家に恨みを持つ人が
「お前のせいだ!死んでしまえ!!」
「…っ!姉さん!」
私を刺し殺すのだ。
「きゃーー!」
「っ!…おい!」
「医者を呼べ!」
何度繰り返しても慣れることのない痛みに耐えながら、やはり”何故”と思う。
兄が乱入者を捕らえているし、父と母が慌ててこちらに向かっていて、義弟も倒れる私を受け止め泣いている。
今まではもっと殺伐としていたのに。
兄は冷めた目でこちらを見ていて、父と母も自分の身を守る事を優先し、義弟なんてなんの感情も見せることがなかった。
なのに、それなのに何故。
「なぜ、こんな事に」
「もう少し、頑張って。殿下がお医者様を呼んでくださっているから…っ」
父と母が
「っ、姉さん。姉さん!なんで!…お願いだから、俺を置いて行かないで…おねがいだから…」
私の大切な義弟が泣いてる。
「…っ」
言わないと、ちゃんと伝えないと
「……ぁ…だ、いじょぶ…だか、ら。あなた、は…っ……きっと、しあわせに…なれるわ。…だいすきよ、わたしの…たいせつな…こ…」
笑え、笑ってみせろ。この先この子が私の家族が憂うことのないように。
「…っ!ねえさん…俺も、俺はーーーー」
また、繰り返すならもっと上手く立ち回る事を心に刻みながら。
そこで、私の意識は途絶え今世も終わった、
はずだった。
そう、”はずだった”んだ。
どういう訳か私は生きていて今までは確かにそこで終わっていたものが続いていた。
目覚めた後は、可愛がっていた義弟から告白され、何故か反対するべき父と母はそれを応援していて。
仕方がないので、婚約破棄後、友人として上手く関係を築けた王太子と兄に泣きついて助けてもらおうとするんだけどそれがまた面倒な事になるのは私が知る訳がない。
とりあえず、分かることといえば今世で私が死ななかったのは義弟のおかげなんだと思う。




