青柳有美の一日・2
サクサクと更新が出来なくてすみません。
今回は夢の話ではありません。
よろしくお願いします。
パチンコ店から出た青柳有美はホクホクとしながら歩道を歩いていた。
久しぶりの勝ちだったからだ。
「最近厳しいんだよなー」
歩きながらポケットのタバコを取り出すと咥え火を点けると、道すがら歩いている対向者が睨みつける眼差しを向けてくる。
歩きタバコをしているとよくこんな目を向けられる。
有美は肩を竦め近くの花壇の縁に腰掛けた。
大通りに面した歩道は人で溢れかえっていた。忙しなく歩く人々は一体どこへ行こうとしているのか、大きく煙を吸いそして吐き出しながそんな事を考えていた。
「青柳!」
どこからか男の声で呼ばれ有美は周りをキョロキョロと見回す。
しかし見知った人間は居ない。
気のせいか、と煙を吐いてぼんやりしていると「青柳!」と再度鋭い声が飛んでくる。
自分が呼ばれているのに間違いはないようで、有美はもう一度辺りを見渡す。
この苗字は中々ないからな。
「おい青柳、こんな所で何してるんだ。いいところで会った。こないだの件なんだが、ちょっといいか?」
正面から見知らぬ男がツカツカと歩いて来るのを確認し、有美は首を傾げた。五十代くらいの厳つい顔をしたがっしりとした体躯の見たことのない男だったからだ。
しかし男は明らかにこちらを知っている体で話しかけてくる。
「丸山勇樹の遺品が手に入ったんだ。この間渡したものと併せてそれも読んでもらいたい、もちろん対価は払う。いけそうか?」
男の放った言葉で有美は全てを悟った。なるほどな、と思案しそして悩んだ。
この男は明らかに自分と所長殿を間違えている。
どうする?成り済ますか、それとも人違いと正直に言うか。
一瞬逡巡するが有美はすぐにニヤリと笑った。
「あんた誰?」
「何を言ってる青柳。確かにこの間は申し訳なかったがあれは状況が・・・」
男は訝しげに顔を顰め、そしてハッとする。
まじまじと有美の顔を見ると気まずそうに一歩後ずさった。
「いや、人違いだった。申し訳ない」
そう言うとそそくさと立ち去って行った。
有美はタバコを最後にもう一口吸い、携帯灰皿に押し込むと立ち上がった。
そして歩き出す。
向かう先は一つだった。
事務所に着くと有美は乱暴にドアを開け室内を見渡す。所長殿がデスクで何やら書類と格闘している。そこへツカツカと歩み寄るとバン!と大きな音を立ててデスクを叩いた。
「・・・なに」
さして驚いた様子も見せず、所長殿は顔を上げた。
「お前、何か他にやってるな?」
「何の事?」
「丸山勇樹ってのは何の事だ」
「・・・さあ、何の事だか」
薄ら笑いを浮かべ目を伏せる所長殿の胸ぐらを掴み強引に上体を引き起こし、顔を上げさせる。正面から目を合わせ、
「穂紬・・、妙な真似するなよ?」
「意味が分からないよ、有美」
笑みを鋭い眼差しに取り替え、穂紬は有美の手を振りほどいた。
「僕は何も知らないしやってない。言えるのはそれだけだ」
有美は押し黙った。内心舌打ちしたい気持ちを堪えながら。
失敗した、こんな聞き方をした所で穂紬は正直に答えたりはしない。相手の性格は熟知していたはずなのに、初歩的なミスだった。
「・・・そうか、分かった」
有美は引いた。
正直に答えないと言うのなら、勝手に調べてやろうじゃないか。
有美は静かな怒りに燃えていた
翌日から仕事の合間に情報収集を始めた。
とは言ってもこの都会で事故か殺人かも分からない事件を探し特定するのは困難を極める。
そもそもそういったものであるかどうかも分からない。単独で調べるのは不可能に近いと判断した有美は単純に、穂紬を尾行する事にした。
自分達は仕事で事務所にいる以外は個々で自由にしているので互いの行動をあまり詮索した事はない。
する必要がなかったからだ。
しかしここに来て穂紬の怪しい行動に、有美は僅かに危うさを覚えていた。
「分かってんのか・・・俺たちが仲違いする訳にはいかないんだよ」
何故ならある事を成し続けなければならない事情がある。2人で犯した罪を、どうしても終わらせる訳にはいかないのだ。
その為にこんな家業をしているのだから。
有美は色付きのサングラスをかけハンチング帽を目深に被った。服装はいつもとは違い紺のジャケットに同色のチノパン、茶色の革靴を履き荷物は何も持たない。
その格好で駅前の花壇に腰を下ろし、待った。
穂紬がやってくるのを。
雑踏に紛れ気配を殺した。今日はタバコも持ち歩いていない。臭いすら消す。
ただひたすらに。
そして人混みに紛れながら遂に穂紬がやって来た。有美はゆっくりと立ち上がり後をついて行く。穂紬は駅に入ると慣れた様子で改札を通り抜けホームへ向かった。
時間は午後2時過ぎ。駅は人で溢れかえっていて、人混みに紛れる有美に幸いした。
丁度ホームにやって来た電車に乗り込むのを確認し離れた位置で穂紬の様子を伺った。
自分と同じ顔をした兄弟である穂紬は窓の外をぼんやりと見つめていた。
何を考えているのかなんて分からない。
よく、双子はテレパシーのようなものがあるだろうと言われるが、そんなものは感じた事など一度もない。
もしそんなものがあれば便利だろうに、と、有美は1人笑った。
双子なんて。
有美はサングラスの位置を直しながら吊り輪をグッと強く握る。
そうだ、双子なんていい事なんて何もない。
15分後、穂紬が電車から降りるのに続いた。あまり降りた事のない駅だった。
「こんな所に何の用だ?」
独りごち、それでも後を追う。
駅を出た所で穂紬が立ち止まり電話をかけた。話しながら歩き、電話の相手を見つけたのか耳に当てていた携帯電話を下ろすとある人物の前で立ち止まる。
それは先日有美に話しかけて来たあの男だった。
「やっぱり繋がってんじゃねえか」
建物の壁に背を預け、携帯を構うふりをしながら2人を注意深く観察していた。
2人は言い争いをしているようだった。恐らく先日の件に穂紬が立腹しているのだろう。
相手は平謝りしていた。
が、言いたい事を言ってスッキリしたのかすぐにいつもの穏やかな穂紬になる。
そこでその話は終わったのだろう、男の顔つきが変わった。
持っていたカバンから厚みのある封筒を取り出し穂紬に手渡す。
穂紬は中身を確認もせずそれを懐に仕舞った。
最後は目も合わせず、さっきまで話をしていたとは思えないほど淡々と、他人の風体で2人は別々の方向に歩いて行った。
有美は目で穂紬を追いながら、足は男の方へと向けた。
『あれ』が何者なのか確認をしなければならない。おおよその目処はついているが確証が欲しかった。
有美は無言のまま、男の後を追った。
結果として、男の正体は有美が幾つか候補に挙げていた中の一つと合致した。
男は刑事だった。
「やっぱりかぁ」
頭をガリガリと掻き、そして有美は空を仰いだ。
間違いなく穂紬は自身の能力をあの男に提供している。見返りは、まあ・・・金だろう。
「よりによって相手は警察かよ」
一番そうであって欲しくないと思っていたヤツだった。これは下手に手を出さない方が良いだろう。あまり関わり合いになりたくない相手だった。こちらの腹を探られたくはない。
探られると痛いのだ、こちらの腹は。
無意識に有美はポケットに手を突っ込んで中を探り、はたとタバコを持っていない事を思い出した。
「あー・・・・タバコ吸いてぇな」
人混みに紛れるように有美は歩き出した。
とりあえず何処かでタバコを買って、吸って、それから・・・穂紬が変なヘマをしないように祈ろうと思う。
そうそう無茶や馬鹿なことはしないだろう。
頼りなく見えるがああ見えて自分の兄なのだから。
うん、信じよう。
なかば投げやりになりながら、有美は深い深いため息を吐いたのだった。
読んでくださってありがとうございました!




