会話。そして街へ
ペシペシと頬を叩かれる刺激で目が醒める。どれくらい眠っていただろうか。朝一番にボロ船で島を出て、昼過ぎに本土の浜辺に何とか泳ぎ着いたけど疲れてそのまま寝てしまったからな。
そう、泳ぎ着いた。結果的に言えば例のボロ船はやっぱりボロかった。本土まであと半分程の所で沈んでしまったのだ。
お陰で泳ぐ羽目になったのだ。思いの外流された様で、街の港に着くはずが浜辺に流れ着いた為に此処が何処なのか、いまいち把握出来ていない。
「大丈夫ですか?襲われた…にしては外傷は特に見当たりませんね。この辺りは気性の荒い危険な魔物は殆ど居ませんが、盗賊が出る事があるので無防備に寝ているのは危ないですよ?」
心配そうにと言うよりは呆れながら商人風の男性が俺に声をかけてくる。頬を軽く叩いてたのはこの人か。
「あ、ああ、大丈夫です。すいません、疲れて寝てただけなんで。えっと、ここって何処なんでしょう?」
1年ぶりな人との会話に、少し吃ってしまう。ちゃんと話せてるよね?祖父母に多少の敬語っぽい話し方をレクチャーされてたから大丈夫!と自分に言い聞かせる。
「ここは漁業街シュエスタから一刻程度離れた場所にある浜辺ですよ。私の護衛の探知魔法に反応があったので確認したら貴方が居たと言うわけです。失礼ですが貴方の名前、何処から来てここで寝ていたのか、また目的は何か等教えて貰えますか?」
商人風の男性は少しトーンを落とし、ピリッとした雰囲気を纏わせながら聞いてきた。
「えーっと、私はナツと言います。消えゆく孤島から船で渡って来たんですが、半分程進んだ辺りで船が沈んでしまったのでそこから泳いで来たんですよ。何とかこの浜辺まで泳ぎ着いたものの流石に疲れて寝てた訳です。目的…と言われても今の所、本土で何とか生活するってくらいしか考えて無いですね」
「ほぉ、消えゆく孤島にまだ人が居たとはね。もう全員移って来たと聞いていたが。他にも残っているものは居るのかね?」
俺の答えに対して疑いをもって更に聞いてくる。
これは明らかに俺を警戒しているなぁ。
というかこの商人風のおっちゃんは一体何者なんだ?随分と質問責めしてくるし。
「いえ、私で最後ですよ。以前は祖父母と残って暮らしていましたが、去年に亡くなってからは一人で生活していました。次の侵蝕波で住んでいる場所も飲まれそうだったので本土に来たんですよ」
とりあえず事実だし信じてもらうしかないんだけどな。と思いながらここまでの経緯を話す。
「ふむ、なるほど。解りました。では、ここで出会ったのも何かの縁ですし、一緒にシュエスタまでご一緒しましょう。消えゆく孤島から来たばかりで本土で生活していくのなら身分を証明するものも必要となりますしね」
街まで一緒に行ってくれるようだ。というか軽く監視目的な気もするな。とはいえ実際問題、本土の地理や魔物の強さ等、殆ど知らないので有難い話ではあった。
「宜しくお願いします。えーっと・・・そう言えば名前聞いて無かったですね」
軽く頭を下げ、礼を述べる。そう言えば名前を聞いてなかったな、と思い尋ねてみる。
「これは失礼をしました。私はニール=アウナゴと申します。この先のシュエスタで商いを営んでおりまして、王都アクエリウスへ物品を届けた帰りなのですよ。馬車で半日の道のりになりますので、こうして護衛を雇い野盗共から身を守ってもらってるのですよ」
ニールと名乗った商人がチラリと護衛の方へ視線を送りながら自己紹介をする。
その視線につられて俺も護衛に視線を向けた。
護衛と言うには少々細身なので頼りなさそうに見えるが素人目に見ても佇まいから微塵の隙も感じられない。
「さて、それではそろそろ出発しましょうか」
ニールがそう言って馬車へと向かう。
「はい。改めて宜しくお願いします」
俺はそう答えてニールの後をついて行った。
ニールと俺が馬車に乗り込むと、護衛の青年が御者に合図を送る。
御者が合図を確認し、馬車が漁業街シュエスタへ向けて走りだした。
更新遅くてすみません。
携帯変えたらバックアップ出来てなかったorz